第46話 05月04日【6】
(綾部さん……
エンドロールが流れる最中。囁くように声かけ肩を揺すると、
眠そうな目を擦り小さな欠伸をひとつして、ようやく脳に酸素が回ったか。「ハッ!」と驚いた様子で私を見た。
交差する沈黙の視線。
私達は何故か、顔を真っ赤に染めたまま、どちらからともなく御辞儀しあった。
※※※
冷房の効いたモール内。特に映画館は空調が良く効いていた。
にも関わらず冷や汗を掻く私を追い込むかのように、
こうなれば
そう答えると、
流石にお嬢ちゃんは気を遣ってくれたのか、箸を進めず映画の感想を熱心に聞かせてくれた。残念ながら、私は内容を
しかし、
なんだろう。彼女の辞書には『遠慮』という言葉が載っていないのだろうか。
皿数こそお嬢ちゃんと大差ないのに、黒い皿や金色の皿など、それだけで一食
おまけに「これ本当にマグロなの?」とは、どういう了見だ。一度マンボウの赤身を食ってみろ。
「あら、どうしたのよ
「……食べてるよ」
不貞腐れながら答えると、私は納豆巻きを口に放り込んだ。
※※※
そうして夕食も済ませ、私達はシオンモールから程近い駅で解散となった。
お嬢ちゃんと
「アナタは帰らないの? 同じ方向でしょう」
寿司で多少機嫌を直したか、
「
「わ、私は良いのよ!」
やはりタクシーを使う気か。まさか前の時みたく今回も近くの店舗に行くということはあるまい。
「じゃあさ、良かったら今から一緒に呑みに行かない?」
「えっ…?」
「若者達は帰ったし、ここからはオトナの時間」
戸惑い見せる
「ど、どうしたのよ突然」
「
微笑む私に反して、
けれどすぐに「フッ…」と
「遠慮させて頂くわ」
そう言って、優雅に髪をかき上げた。気品あふれるその姿は、令嬢と呼ぶに相違ない。
「もしかして、明日仕事?」
「いいえ。でも、今日はやめておくわ」
「どうして?」
「だって、
堂々と言い放たれたその言葉に、私は首を傾げた。『公平』の意図を図り兼ねたからだ。
「同情や貸し借りで誘われたって、嬉しくないわ。私は正々堂々、正面からアナタに誘わせてみせるんだから!」
ビシッと鋭く指を差し、
優雅に歩く彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、私は金縛りにでもあったかの如く目を離せずいた。
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