第41話 05月04日【1】

 ゴールデンウィークGW、3連休の2日目。

 薬局王キングのおかげで無事にお嬢ちゃんとの約束も果たし、4人で映画に行くことが叶った。


 頂いたチケットは近くのシオンモール(ショッピングモール)でも上映されているらしいので、以前に薬局王キングと訪れた大型店舗へ赴く。

 ただし待ち合わせ場所は、前回とは違ってシオンモール最寄りの駅改札にした。

 今回はお嬢ちゃんにも綾部あやべさんにも申し訳ないことをした。薬局王キングにも迷惑をかけた。彼女達には今日は存分と楽しんでもらいたい。

 そう思った私は皆より先に着いておくため、早めに家を出た。

 まだ約束の20分前。にも関わらず、既に薬局王キング綾部あやべさんが到着していた。

 二人は真剣な表情で何やら話し込んでいる。

 そんな彼女らを駅の利用者たちがチラチラと振り返っては凝視していた。それだけ彼女らが魅力的なのだ。

 仕事中は制服や白衣姿だから気付かないけど、私服となると二人がいつもと違って見える。


「おはよう」


私が声を掛けると、二人は何故か驚いた様子で振り向いた。


「おはようございます」

「ちょっと、遅いわよ?」


丁寧にお辞儀する綾部あやべさんとは対照的に、薬局王キングは腕組みしてソッポを向いた。


「二人が早いんだよ。いつから来てたの?」

「私は一本前の電車です」

「そっか。薬局王キングは?」

「え? ……わ、私は2本前の電車よ!?」


腕を組んだまま薬局王キングは視線を泳がせる。おまけにな口調………もしやタクシーで来たのか?

 いや、たとえタクシーで来ようとリムジンで来ようと、今日はそういうツッコミは無しにしよう。彼女らには楽しんでほしいからな。


「ゴホンッ……二人とも、今日は忙しい中ありがとう」

「いえ。私は特に予定などもありませんでしたので」

「フンッ! この私の貴重な時間を使わせるのだから、お昼ご飯くらいは奢って貰うわよ?」


わざとらしく片頬膨らませる薬局王キングに、私は「分かってるよ」と笑って応えた。


 などと話をしている間に次の電車が到着して、降客の波間にお嬢ちゃんの姿を見つけた。この人混ひとごみにおいても、彼女の姿は一目で分かる。まるで輝いているかのように、お嬢ちゃんの存在は際立っているのだ。


「あ、おはようございますっ」


私達を見つけたお嬢ちゃんが、恥じらい混じりの笑顔と共に小走りで寄ってきた。その姿は正に天使か女神。

 これがデートなら彼氏はあまりの喜びの末に卒倒するのではなかろうか。実際私は軽く眩暈めまいを覚えている。


「皆さん、早いですね」

「お嬢ちゃんもね」

「ふふっ。皆さんと映画に行けるの、嬉しくて」


頬を桜色に染めて微笑むお嬢ちゃんに、同じ女性である綾部あやべさんと薬局王キングも顔を赤らめた。

 私は最早、気を失う寸前である。


「じゃ、じゃあ行こうか」


日射病に罹ったような朦朧もうろうとする意識の中で、私は最上階にある映画館のまで3人を先導した。

 連休だけあって、やはりお客さんが多い。

 なんとか席は確保出来たが、上映まで時間がある。

 今はまだ昼前。だというのに予約できた上映は15:40から。4時間近く暇が出来てしまった。

 とはいえ、ここはショッピングモール。幸いにも時間を潰す方法などいくらでもある。


「とりあえず、混み合う前にお昼ご飯でも食べようか」


私の提案に、皆も賛同してくれた。

 しかし、少々考えが甘かった。

 3階専門店街のレストランはどこも一杯で、普段は人気にんきに乏しい店までも行列が出来ている。私は乾いた笑みを浮かべ「どうしよう」と焦りを声に漏らした。


「あ、じゃあフードコートはどうですか?」


戸惑う私に、お嬢ちゃんが提案してくれた。



 ※※※



 同じフロアにあるフードコートはとても広く、おかげで席もすぐに確保できた。

 お嬢ちゃんは慣れたようにドーナツ屋へ並び、綾部あやべさんもサンドイッチを買いに向かう。

 判断早い二人に反し私は何にしようか迷っていた。

 すると座ったままの薬局王キングが不思議そうに、


「ねえ翔介しょうすけ。ウエイターはいつ来てくれるのかしら?」


あっけらかんと首を傾げる。これだから御令嬢は…。

 だがそんなツッコミは喉の奥に収めて、『?』を浮かべる彼女に「食べたいものはないか」と尋ねた。


「食べたいもの? あ、そういえばこの近くにガイドに載っていたフレンチのお店が――」

「この御令嬢っ!」


塞き止めていた喉のダムは、いとも容易く決壊した。

 結局、薬局王キングはイチゴのクレープと珈琲を選び、私も同じ店でサラダクレープを買った。本当は隣の店の天丼が良かったのだが、御令嬢をお一人にするのは不安だった。

 というか、クレープくらいではしゃぎすぎだろう。

 確かにテンションの上がる食べ物スイーツではあるが。

 並んでいる間も薬局王キングは、宝石でも眺めているかのような恍惚の顔でメニューに目を釘付けていた。

 そうしてようやくと食事にありついた矢先。


「皆さん、席はどこがいいですか?」


お嬢ちゃんの一言に、皆の視線が集中した。

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