第38話 04月26日【薬局長編・3】
私は、
その言葉に、嘘は無い。
もしも
でも今は違う。
彼が私にしてくれたように、私も
たとえそれが私にとって、辛く苦しい結末を
だから私は、電話を取った。
「――あ、もしもし。お嬢さん? 今いいかしら。実はね…」
私は
けれど電話の向こうからは『もう事務長と一緒に行く約束をしているから』と、申し訳なさそうな声が返された。
その無垢な言葉は刃物のように、私の胸を深く鈍く刺した。
私は声も出せずに
けれど電話越しに黙ってはいられない。すぐに気持ちを切り替えて、見えもしないのに無理やり笑顔を作る。
「な、
冗談交じりに提案すると、お嬢さんは悩みながらも『分かりました』と明るく承知してくれた。本当は言いたいこともあったでしょうに……
そうして約束を取り付けた私は、真綿で首を締められる想いと共に、電話を置いた。
※※※
翌日。私は診間の予防接種が始まる前に
都合よく
「丁度いいわ、
「え……私と、ですか?」
「驚くのは分かるわ。でも、聞けば
「なっ……そ、そんなことはありません! 別に事務長が誰と何処へ行こうと、私には関係ありませんので…!」
つっけんどんに言いながらも、頬を赤らめているのを私は見逃さなかった。
嘘が下手ね。そんな見え見えの誤魔化しが通用するのは、
でも、やっぱり……貴女もそうだったのね。
背けていた現実を眼前に突きつけられたみたく、私の胸中に不気味な
けれどその心とは裏腹に、表情は努めて明るく微笑んでみせた。
「確かに
「どういう意味でしょうか?」
首を傾げた
「考えても御覧なさい。三十路の独身男があんな美少女と二人きりになったら、なにを
そう言うと
「
「そんなの分からないわよ。「男はみんな狼だ」って、私のお母様もいつも言っていたんだから」
「オオカミ…」
「とにかく、あの二人だけにさせておくのは危険だわ。ここは手を組みましょう、
そう言って私は右手を差し出した。
握手を求める私を、
「………分かりました。確かに事務長のセクハラから後輩の事務員を守るのも常勤職員の役目かもしれません」
ぐっと、力強く手を握り返してくれた。いえ、ちょっと待って。
「しかし、良いのですか?」
「なにかしら」
交わした手を離すと同時、
「このようなことを私が申し上げるのは、失礼かもしれませんが、その……
視線泳がせる
「心配なら無用よ。だって私は今までも全部自分の努力で手に入れてきたもの。これからだって、どんな困難にも正面から立ち向かってみせるわ!」
傲慢な言動をとる私に、
私の言葉に、嘘は無い。
だって、いつかきっと
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