第25話 04月09日【1】
「お大事にー」
来たる土曜日。最後に来院された患者様がお帰りになられた後、表に〈休診中〉の看板を提げ自動ドアを
「今日も患者さん多かった…」
「お疲れさまです」
「
「そうですね。事務長と一緒などと、苦痛の残業です」
毒を吐きながらも
きっと夕食を楽しみにしているのだろう。心なしか顔も赤らんでいる気が…………まさか本当にホテルのディナーだと思ってないだろうな。
そうして片付けなども終え、父さんや他の従業員さんらが退勤した頃には既に15時をまわっていた。
私は近くのコインパーキングに停めておいた愛車をクリニックの傍まで廻し、
「失礼します」
「大丈夫? 変な匂いとかしない? 一応掃除はしてるけど」
「問題ありません。少々鼻が曲がりそうなだけです」
「窓開けましょうかねっ!?」
※※※
「どう、お嬢ちゃんは。仕事慣れてきたかな」
車を発進させて暫く。私は唐突と
「そうですね。順調だと思います」
「それは良かった」
「頭の良い方ですし、何より素直です。教えている私もストレスがありません」
「うんうん」
「そういえば、先日一緒のシフトで偶然と聞いたのですが」
「なにを」
「
「………ふぅん」
「あら、意外ですね」
「なにが」
「事務長のことですから、てっきり急ブレーキをかけるほど喜ぶものかと」
「事故を誘発するんじゃありませんよ」
笑って答えながらも、私はバックミラーで後続車との距離を確認した。
「というか、あのくらいの年の女の子って大抵が年上好きでしょ」
「そうでしょうか」
「そうでしょうよ。それを言うなら僕だって年下が好きだよ」
「へぇ…」
「いかにも興味なさそうなお返事で」
「ソンナコトハアリマセンヨ。仕方がないので聞き返して差し上げますが、年齢以外にも女性の好みはあるのですか?」
信号が赤に変わる。私は丁寧にブレーキを踏んだ。
「好みねー………優しい人とか?」
「ありきたりですね」
「そういう
「どう、とは?」
「どんな
「セクハラです」
「僕には散々聞いておいて!?」
止まっていた車の列が、またゆっくりと動き始める。
「では………
「わー、それもアリキタリー」
「ちなみに嫌いなタイプは鈍感な男性です」
「あ、それは分かる。ダメだよねー、女性の好意とかさりげない仕草とかに気付かない男ってー」
「………まったくですね」
※※※
国道が思いのほか混んでいたので、途中でコンビニに寄り、チルドカップの紅茶とカフェラテを買った。
「今更ですが、私で良かったのですか?」
「なんで?」
買ったばかりカフェラテにストローを差しながら、
「私は会話が上手くありませんし、事務長も若くて可愛い
「いや、どっちか選べって言われたら間違いなく
ハンドルを片手に私も紅茶を啜った。少しばかり苦みが強くて紅茶らしくない。思わず眉間に皺が寄った。
「お嬢ちゃんはまだ、保険や
「……なるほど」
「それに、
「そのお気持ちは理解できます。私は事務長と会話をすると時折、
「『救心』でも買っていきましょうか!?」
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