最近雇ったウチの事務員が可愛くて仕方ない

第21話 03月15日～03月17日【綾部さん編・1】

　皆様こんにちは、綾部（あやべ）です。

現在18時45分。

私は今、とても悩んでいます。

　今日は平日ですが、シフトの都合でお休みです。

　貴重な休日……にも関わらず、私は自宅のテーブルに幾つものお菓子を並べ独り頭を悩ませています。

　すべては、あの事務長のせいです。

　先日、私は事務長からホワイトデーのお菓子を頂戴しました。

　マカロンです。

　それも有名なお店の、とても高価な品。

　これは流石にお返しをしなければなりません。　

　値段もそうですが、なにより………マカロンを頂いてしまったので。

　ご存じの方も多いかと存じますが、ホワイトデーに贈られるマカロンには、その……「あなたは特別な人」という意味があります。

　もちろん「特別な人」には恋愛対象としての「好き」だけでなく、仕事仲間や友達として「大事な人」という意味も併せ持ちますが。

　ですが、わざわざ３月１４日を選んでお渡し下さったということは、もしかすると……いえ、考えすぎですね。

　あの天然鈍感な事務長のことです。マカロンの意味など知らないで私に寄越して下さったのでしょう。

　そもそも事務長は私のことなど、なんとも思っておられないはずです。

　「特別な存在」というのも、私が院内唯一の常勤職員で多くの仕事を任されていますから。きっと、そういう意味なのでしょう。

　しかし、万が一………と、とにかくお返しを考えましょう。

　とはいえ、私は父以外の男性にプレゼントなど贈ったことがありません。

　バレンタインのことを鑑みると手作りのお菓子でなどが良いのでしょうが、それは少々気が引けますね。今はコロナが蔓延する世の中ですから、手作りは良く思われないかもしれません。

　ネクタイやペンなど、形に残るプレゼントもやめた方が良いでしょう。

　ならば既製品のお菓子が無難でしょうが、どのような品を御返しすべきか…。

　午前中にショッピングモールで色々なお菓子を買ってきましたが、未だ考えが纏まりません。

　なにせマカロンと同様、お菓子には色々な意味が込められていますから。

　例えばこちらのチョコレート。

　バレンタインデーには定番のお菓子ですが、『お返し』としてのチョコレートに特別な意味はありません。

　次にマシュマロ。

　昔はホワイトデーにマシュマロというのが定番だったかもしれませんが、こちらは「お断りします」という意味があるそうです。また口の中ですぐに溶けることから、「すぐに忘れたい」などの意味もあるとか。

　同じような由来から、グミも「嫌い」を表すそうです。

　これはお渡しできませんね…。

　べ、別に私は事務長にどう思われようと関係ありませんが、せっかく高価な御品を頂いたのに安価なマシュマロやグミでは失礼でしょうから。

　こちらはクッキー。百貨店でよく見かけるお店のものを購入しました。

　贈答品としては定番ですが、お返しとして贈る場合は「あなたとはお友達の関係です」という意味があるそうです。またクッキーは壊れやすいお菓子なので「関係も壊れやすい」ことに準（なぞら）えているとか。

　どちらにせよ、あまり良い意味には捉えられないでしょう。そもそも事務長では友達ではありません。

　こちらのマドレーヌは、帰り道に駅前の洋菓子店で購入しました。

　マドレーヌは貝の形をした焼き菓子です。

　貝は昔から縁起物の一つとされており「円満な関係」を表すとされています。そのためホワイトデーに贈るマドレーヌは「あなたとより良い関係を築きたい」という意味があります。

　このバームクーヘンはスーパーで買ってきた個包装もの。いわゆる駄菓子です。

　バームクーヘンは何重にも重なった層が特徴的な洋菓子ですので「幸せがずっと続きますように」という意味や深い感謝が込められています。

　そして、キャンディー。

　キャンディーには「あなたが好きです」という意味が込められており、本命へのギフトには最適でしょう。

　また「互いの関係が壊れにくい」という意味や、「甘い関係を望んでいる」という意味など、とにかく積極的に受け止められるお菓子です。

　ちなみに金平糖（こんぺいとう）にも同様の意味がありますが、こちらはキャンディーほどメジャーではないようですね。

「………」

な、なにを考えているのですか私は！　

　こんなお菓子は間違っても贈れません！

　それにキャンディでは高価なマカロンのお返しに不釣り合いですし……というか、そもそも何故私がこんなにも、あの事務長のことで頭を悩ませているのでしょうか。

　いっそのこと、なんの意味も持たない、このフィナンシェでも渡しておきましょうか。自分用に購入していたものですが………あっ。

　「そういえば、私が入社した年の誕生日に事務長が下さったのも、フィナンシェでしたね…」