第17話 03月25日
『お嬢ちゃん』こと、
医療の仕事は覚えることが多くハードなので、この辺りで辞めてしまう方も居る。
特に、若い人や未経験者は。
だが、お嬢ちゃんは頑張ってくれている。
真面目で一生懸命で、愛想が良く気も回る。
少し引っ込み思案な気質で恥ずかしがりのようだが、ウチで仕事をするには何の問題もない。ここが居酒屋なら話は別だが。
それに、他の
だが楽しそうに会話をしている姿を見るに、どうやら余計な心配らしい。
唯一、院長である私の父には慣れないようで、診察室に入るたび緊張しているようだが、あの仏頂面を前にすれば誰だってそうなる。
途中、
そんな仕草もまた、愛らしい。
※※※
「――どうだ、あの子は」
休診時間中、郵便局へ行こうとする私に執務室の父が唐突に尋ねた。
「あの子って、
「履歴書はあるか」
「ああ、うん」
言われて私はラックから職員の履歴書名簿を取り出し、彼女のページを開いて渡した。
父は無表情のまま、履歴書と回答済みの質問用紙へ目を通した。
「社員で働いたことがないのか」
「みたいだね」
「どこも長続きはしていないようだが」
「コロナだからね、今は」
「頭の良い子ではあるようだな」
「テストも満点だもんね」
「そうじゃない」
パタンと閉じた名簿を、父は私に突き返した。
相変わらずの悪い人相だ。よくもまあ、その顔で小児科をやろうと思ったものだ。
「最初に会った時、私の質問にも動じずに、すぐ答えた。それも一瞬で当たり障りのない応えを。頭の回転が速い証拠だ」
「ああ、確かに」
「それに覚えも早いようだ。地頭が良いのだろう」
「クリニック経験者だしね」
「ご実家は病院か?」
「知らないよ。聞いたこと無いし」
「面接で確認しなかったのか」
「そーゆーの、面接で聞いちゃダメなんだって」
「そうか…」
父は少し残念そうに呟いた。彼女の家が病院だったら、何か良いコトでもあるのだろうか。確かに医師は横の繋がりも大事だろうけど。
「それにしても若いな。大丈夫か」
「僕も最初そう思ったよ。でも
「そうか。まあ、しっかり指導しろよ。くれぐれも前みたいなことには、ならんようにな」
「………わかってるよ」
父のその言葉に苛立ちを覚え、私は少しばかり、ぶっきらぼうに言葉を返した。
「ところで、さっき道で隣の
「ふーん。なんか言われたの?」
「もっと後発品(後発医薬品)を出す(
「なんて言ったの?」
「考えておく、と。お前はどう思う」
「そりゃあ、
「
詰まらなそうに言いながら、父はペットボトルの緑茶を煽った。
来月から、診療報酬が改定される。
薬局さんも後発品の処方に躍起になっているのだろうが……彼女と仕事の話をするのは、父でなくとも溜め息を吐きたくなる。
「郵便局行ってくる」
私は暗い雰囲気から逃げ出すように、早々と事務所を後にした。
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