第10話 03月14日【1】
採用を伝えた薬局経験者の女性が、直前になって辞退を申し出た。
求人掲載は終了し、履歴書もとっくに返送している。
絶望感に打ちひしがれる私は、院の受付で人目も
「――務長……事務長!」
目に見えて落ち込む私を、
「……なに?」
「……こちらを」
無表情のまま
「……えっ!?」
それは彼女の……一度採用を見送った、あの新卒女性の履歴書だった。
「すみません。その一枚だけ、送るのを忘れていました」
敢えてクールに振舞う彼女の背に、私は後光を見た。
「あ、
驚きと歓喜に立ち上がった私は、咄嗟に
「ありがとう! ありがとう
「や……よ、よしてください、事務長。セクハラですよ」
「ああ、ごめん」
私が手を離すと、
普段の私なら平謝りしていたが、安堵と喜びに一杯で今はそれどころでなかった。
きっと
もしかすると
おかげで、首の皮一枚繋がった。
「早速、電話してみるよ!」
「それが宜しいかと。それから、もう一度彼女に月一回でも土曜日の勤務が可能か、伺ってみては如何でしょう」
「うん! そうする!」
まだ頬に赤み残る
執務室に父は居なかった。昼食でも買いに行ったのだろう。
私はすぐさま履歴書を取り出し、彼女に電話をかけた。
『――はい、
受話と共に可愛らしい女性の声が返された。面接に来てくださった、彼女の声だ。
履歴書記載の番号は自宅の固定電話だったから、不在ではないかと心配していた。
「お忙しい所恐れ入ります。こちら〈つがみ小児科クリニック〉の採用担当でございます。先日は当院へ面接にお越しくださり、ありがとうございました」
『あ……は、はいっ。こんにちは………あ、こちらこそ、ありがとうございました』
「今、お時間少々宜しいですか?」
『はいっ。大丈夫です』
「ありがとうございます」
私は軽く呼吸を整え、「んんっ」と小さく喉を鳴らした。
「面接の結果、
平静を装ってはいるが、内心ドキドキだった。
心臓の音が煩すぎて、受話器からの声が聞こえにくい。
履歴書を持つ手も小刻みに震える。
「
返事を待つ数秒が、イヤに長く感じた。
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