第二章 虚実
さて、診察と諸々の検査(血液検査、CT等)を受け、本格的に閉鎖病棟に連れて行かれた。そこのナースステーションの一角で、俺は靴紐の一本に至るまで取り上げられた。スマホはもちろんのこと、財布も管理され、危険物はダメだということで靴紐まで取り上げられ、全く自由を失った。それでも、三日もあれば帰れると思っていたから、それほど辛くはなかった。しかし、これまで毎日誰かと通話していたので、やはり人と話せないことはつらかった。だから、俺はその落ち着かなさを、暇として看護師に訴えた。その時の女性看護師の「頓服飲みましょうか」と言う時の貼り付いた笑顔が気持ち悪かった。
3/16 夕食:白米、汁物、もやしとパプリカ、チキンと野菜
寮の飯より、温かく味付もよいため格段にうまい。
毎日必ず誰かと通話していたので話せない環境がつらい。アル中が酒をぬくときもこんな感じなのだろう。
オナニーくらいしかすることがない。妄想派でよかった。
初の夜、心細い。カーテンの外に見えるのはおよそ隣の病棟のみ。棟の上に見える星にこんなに救われたのは初めて。
入院当日早々、上京後最大くらいの地震あり。
さて、この日はつらかった。上述したように、その日のメモにある通り、星に救われた。きっと見ている夜空は、自由な誰かが見ている夜空と同じなのだろう。
3月17日(入院2日目)
朝起きて広間のTVのNHKを見て驚く。宮城、福島で震度6強。
俺は、この日主治医の診察だったのだが、そこで奈落の底に転落することになる。午前9時台、主治医から話あり。数日で退院とはならず、長期化するとのことだった。俺はこの話を聞いた途端、絶望した。皆に嘘ばっかりつかれているような気がする。地獄だ。なんでこんなところに長々といないといけないのか。いつまでいるんだ。しかし俺は早く出るために、もはや冷静に、医師の前では極めて落ち着いて理知的に振舞った。
その後、担当のソーシャルワーカーが決まり、その人が書類を持ってきた。俺はそれを見て人生でも数えられるほどの絶望のうちの一つを味わった。
推定される入院期間:3か月 (うち医療保護入院の期間:3か月)
話が違う、騙された、やられた、そう思った。
この日、1日1回10分まで父のみの外部との連絡の権利を使い、父に救援を依頼した。そうしたところ、わざわざ1000キロ近く離れた地元から迎えに来てくれることになった。しかし、果たして病院サイドの権限はどの程度なのか?医療保護入院で外に出してもらえるのか?諸々考えて、ろくに安心できなかった。
夜はいい。夜は眠れるから。こんなに夜が好きになったのは初めて。
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