俺は最愛の元カノに別れを告げる「新しい彼女が出来て幸せだから。じゃあな」
午前の緑茶
じゃあな
自分の視界に映る目の前の元カノ、桜坂舞の姿は、過去に記憶している姿と全く変わっていない。
艶やかな黒髪に、ぱっちりとした二重の瞳。筋の通った綺麗な鼻に柔らかそうな紅い唇。見るもの誰をも惹きつけるその姿は、記憶と全く同じままだ。
「久しぶり」
こっちを見て動かない舞に挨拶を告げる。夏の日差しは暑く、蝉の音が響いて俺の声は届かない。
「ほんとお前勝手だよな。一方的に別れてさ。いなくなった時はショックだったよ」
あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。突然の知らせ。あまりに予想外で頭が真っ白になった。
だって誰が予想できる? 順調に交際は進んでいて、中学から10年も付き合って、結婚の話まで出ていたのに。それが一方的に離れることになるなんてさ。
「正直かなり辛かったし、なかなか忘れられなかった。いなくなった後、何度思い出したことか」
あの時刻まれた傷は未だに心の中に残っている。今は目立たなくなっただけで、それでも残っていることには変わりはない。
「舞さ、なんで急にいなくなったんだよ。ほんと勝手すぎだろ。なぁ?」
真っ直ぐに舞に語りかけるが舞は黙ったままだ。何も言い返してこない。
「おい、なんか言えよ。黙ってないでさ」
少しだけ語気を強めてみても舞の反応は全く変わらない。少しぐらい答えろっての。
「……はぁ」
分かっていたこととはいえ、ため息が出てしまった。
「……まあ、いいよ。もうあれから3年半が経ったしな。それより今日はお前に言いたいことがあって来たんだ」
スマホを開いて、写真を一枚舞に見せる。
「ほら、見えるか? 最近新しい彼女が出来たんだ。ショックを受けてた俺に寄り添ってくれてさ。とうとう付き合うことになった」
もう誰とも付き合わない。そう思っていた俺にずっと優しくしてくれれば、それは好きにもなる。
「あの人と一緒にいると癒されるんだ。それに忘れなくてもいい、って言ってくれたし」
あのどん底の日々とは大違いだ。今は幸せだ。
「舞に言われたからな。幸せになってって。お前が居なくなって辛かったけど、今なら胸を張って言えるよ」
少しだけ息を呑み、静けさが周りを包む。
「今、俺、新しい彼女が出来て幸せだから」
そっと墓石の上に乗せられた舞の写真に触れる。
「じゃあな。また来るよ」
届かない声は夏の空に消えた。
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俺は最愛の元カノに別れを告げる「新しい彼女が出来て幸せだから。じゃあな」 午前の緑茶 @tontontontonton
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