第6話 ピアノ
ピアノと言えばどう思いうかべるだろうか。『白鍵と黒鍵、その数88鍵で奏でる楽器。』というのが、一般論ではないだろうか。しかし、音楽が好きな人はきっと別な考えを持つこともあるだろう。私は、ピアノはこういうものだと考える。『声で伝える歌とは違う、もう一つの歌い方。』だと思う。
私、島田
今から10年前。私は、当時小学校1年生だった。この時から、ピアノを習い始めた。最初は、手の位置やドレミを覚えることから始まった。それでも、おぼつかない手でそれとなく弾いてみた時があまりにも楽しかったのは、今でも覚えている。
だからと言って、ずっとピアノをやり続けていたわけじゃなかった。友達とおままごとや鬼ごっこ、色々な遊びをした。もちろん親は、音楽家とかそういうわけでもなかったから、1日何時間練習しなさいみたいなことは言わなかったから、やりたいことを自由に取り組めた。それでも練習したいときは、ピノの先生のお宅にお邪魔させてもらいながら練習した。元々、先生と私の母が仲良しで、母の勧めでピアノを始めることができた。でも、私の楽しみはピアノだけではなかった。先生の息子くんの、水野
中学に入学して、同じクラスになって、私は、とても嬉しかった。中でも一番うれしかったのは、響くんと音楽の授業で、連弾できたことだ。クラシックではないけれど、響くんと弾けることは、私にとって夢だった。発表会では、1人で弾くことしかなかったからだ。でも、これが、響くんと最初で最後の連弾だった。
「響くん、さすがだね。主旋律を響くんにやってもらって正解だったよ!」
「ありがとう。響華も中々、上手くなってたよ。クラシック以外も柔軟に対応してたしいいと思うよ。」
私は、響くんに褒められるこの瞬間が大好きだ。響くんとは、幼馴染同士で音楽、いや、ピアノをやれることが正直一番好きだ。いや、本当は、響くんが好きだ。
それから2年後。私達は、中学3年生になった。また、響くんと同じ学校に行けるように頑張ろうとした矢先だった。
「響華、ちょっといいか?」
「いいよ。どうしたの響くん?」
「俺、もう音楽をいや、ピアノ辞めるから。その…そこんとこわかってくれよな。」
「…なんで?響くん、私よりずっとピアノ上手なのに、どうして辞めちゃうの?」
「仕方がないんだ。ごめん、詳しくは、誰にも、親にも、響華おまえにも、言う気はない。それだけ。じゃあ。」
「そんな…待ってよ!…」
突然の告白だった。ここ数年、響くんがピアノ教室にいないのは、知っていたけど、先生も、お母さんも何も言わなかったから、私は、てっきり私が居るから来ないのかと、思った事もあったけど、まさかもう辞めてしまうのかと思うと悲しくてしょうがなかった。
そして現在。私が選曲した、『エリーゼのために』は、かのベートーヴェンが愛した人を思って作られたと言われている。だから、私は響くんに戻ってきてほしいという気持ちを込めて、精一杯取り組もうと思う。私は、恥ずかしながらも響くんにコンクールを見に来てほしいと言った。響くんは少し戸惑っていたが、了承してくれた。
コンクール当日、私は、
軽いドレスを着て、ステージに出た。ピアノの前に出てアナウンスが流れた。
「プログラムナンバー10番、島田響華さんでベートーヴェン、エリーゼのためにです。」
私は、響くんを見つめ、深くお辞儀をした。椅子に座り、鍵盤に指を置いて、軽く深呼吸をした。
出だしは、静かにいつも響くんがピアノを弾いている仕草をまねするのではなく、響くんに敬意をもって、静かに弾いた。軽い転調では、響くんと過ごしてきた日々を思い浮かべた、次のフレーズでは、響くんとの連弾からの衝撃の告白での私の感情を乗せる。
「お願い戻ってきて、私は、響くんが居て、先生がいて、みんなで和気あいあいと弾いているあの日々が何よりも大切なの!特に響くんが、私には必要なの!」と、繰り返し指先に込めて弾いた。曲の長さには必ず終わりがある。だから私は、最後のフレーズには、「ありがとう。また、いつか連弾したいな。」と、指先に込めて弾いた。
弾き終わり、ステージの真ん中に立ちまたお辞儀をした。1つの拍手から、会場中が私に拍手を送ってくれた。1番最初に拍手をしたのは、響くんだった。
しかし、私がステージから客席の自分の席に戻った時には、響くんはもういなかった。
私は、ピアノは声ではない歌声を持っていて、気持ちを伝える能力があると私は思っている。それは、もしかしたら、この有名な、クラシックの作曲者も思った事なのかもしれない。
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