異能脳髄摘出始末 6
「姉貴、何言ってんだよ? 外の連中に泡を吹かせるチャンスだろう?」
「落ち着きなさい」
不服そうに言う龍助を
「大体彼女が特区に逃げた時点で、連中は泡を吹いてますよ。……まあそれはともかく、そういった前例がない訳ではないんです。特区においては
「だったら――」
言いかける龍助を、日向は首を横に振って
「ですが特区としても、異能器官によって得られる利益を逃したくはない訳です。そのため変異した器官を特区に提供する場合には、提供者に
日向はそう言って、目を細めて
「一方、持ち主が廃棄を目的として手術を受ける場合、その費用は全額自己負担です。……そして、あなたには恐らく、その支払いができるだけの経済力がない」
その言葉に、撫子は何とか平然とした表情を保とうとしながら
「
尋ねる龍助。その質問に、
「
我慢できなかったのか、傍から巧が
だが、龍助はやはり不思議そうな顔をしたまま問うた。
「ああ、そういや変わったデザインの
どうやらまだわかっていないらしい。仕方なく、巧は更に説明を加える。
「
「ええ、子供のころ大怪我した時の傷です」
「――だ、そうだ。特区外住民の大多数は、ファッションとしての器官の交換は非難するけど、大怪我をして傷跡が残りそうな場合なんかは、特区と同じく器官の交換を行う、らしい。『
そこまで言って、巧は軽く
「というか椀田は特区外の出身だろう? 物心ついた時から特区にいる俺に説明させないでくれ」
言われた龍助は、肩を
「
「こっちと違って、特区外じゃ日常生活に支障が無い限り、器官の交換は全額自己負担だ」
「ってことは、外の人間でああいう古い、……あー、傷跡? があるのは大体――」
「手術代を負担できない貧困層ですね」
日向のあけすけな言葉に、撫子は力なく笑った。
「……それは偏見です。『傷跡は恥じるべきものじゃない』って主張の人もいますよ」
「でもあなたはそうじゃない」
その言葉を、撫子は沈黙によって肯定した。
「……じゃあ結局の所、特区でも私の器官を廃棄することは出来ないんですね?」
「変異した器官が手足などであった場合、自分で傷つける人も過去にはあったようです。法令上は問題がありますが。ただ、脳の一部となると……残念ですが」
内心はともかく、日向は落ち着いた、やや事務的な様子で続ける。
「私がしてあげられるアドバイスとしてはこうです。今すぐに器官を特区に売って大金を手に入れる。それで美味しいお酒でも飲んで、この事についてはさっさと忘れてしまう。多分それが最善です」
その言葉に、撫子は寂しげに笑う。
「いえ、お断りします……未成年ですから」
下手な
「教えてくれてありがとうございます……あとは自分で何とかして見ます」
「そうですか。あなたがどうしても望まれるのなら、一応支援してくれる団体には心当たりがあります。ご紹介しましょう。寄付を募ったりするので時間はかなりかかりますが、いずれ摘出手術をお受けになれるでしょう」
そう言って、日向は背後のデスクの引き出しを開け、一枚の名刺を取り出した。
しかし、何故か撫子の顔は晴れない。
けれど不満を口にすることなく、撫子はその名刺を受け取って、別れの言葉を口にしようとした。
「ありがとうございます。ではこれで――」
「交渉権が俺に移った、ってことで良いんですよね?」
棒の手入れを終わらせた巧の言葉に、撫子はあっけにとられた顔をした。
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