3
インプラント向けの麻薬が違法である理由は実に単純なものだ。あれは浄化槽をすり抜けるように作られている。つまりは、通常の薬物よりも過剰に接種することによって生じる薬理作用なのだが、浄化槽を入れない人間が誤って接種したときは大変なことになる。取り締まりが厳しくなったのは、ここ最近になってからだった。それまでは違法ではあったもののほとんど黙認されていた。
翌日、僕はいつも通り自分の部屋で目覚めた。昨日の記憶はおぼろげながら覚えていたが重要な部分はなにひとつ覚えていない。女の顔が思い出せなかったのは『Desire』を使用したためだろう。
あれから一ヶ月が経って、相変わらず僕はあの店に通い続けている。それまでそうであったように。これからもそうであるように。
あのマリアという売人は女性向けの会員サービスを主催していた。僕がはじめて『Desire』を使ったのもサロンと称されたパーティに参加したときだった。
彼女の名前をみると震え上がるようになったのは『Desire』の過剰摂取が原因だった。僕はマリアからそういう症状があるというを話を訊いた。浄化槽の洗浄のために病院に行かなければならなかったが、メンテナンスのための通院したところで、違法薬物の使用が公的に認知されるだけだった。そうなったとしても、僕が麻薬を使用するに至った原因はなにひとつ解決しない。
相変わらず僕は儀式的と呼んで良いほどの習慣的悪癖をいくつも行っている。出勤前に靴を磨かなくては気が済まないのはそのためだった。靴磨きは家を出る二十分前きっかりに終わらなくてはならないし、靴紐は左足から結ばなくては気が済まない。
生活はストレスの温床だった。職場に行けば、僕の妙な癖や行動は笑いの種になる。自らそのことを話題にしてしまえば、あるいは打ち解けることもあったのかも知れないけれど、僕はそんな器用には出来ていなかった。
唯一の救いは、人と関わることで負った傷を癒やすのは、また人との関わりであると知れたことだろうか。
了
掌編 DESIRE 月の出ない夜に歩く人 @urei-kansaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます