第200話 大天使ツォルゼルキン
CICのモニタからでも、巨大歯車ロボの圧倒的な巨大さが伝わってくる。
「この巨大ロボがフワーデの支援者、略してフワサポ……」
それがフワーデの知り合いどころか、
「このツォルゼルキンさんはね、フワーデ・チャンネルをずっと応援してくれてる天使さんだよー!」
CICのモニタに、艦首に立っているテーシャボディのフワーデが、巨大歯車ロボに大きく手を振っている様子が映し出される。
「ツォルさん、いつも応援ありがとー!」
カラカラカラ。
巨大歯車ロボの上半身が、フワーデ・テーシャボディに向って傾き始めた。
ギギギギギギギィィィイ。
鋼の能面のような顔にある巨大な目が、音を立てて開かれた。
その瞳がフワーデ・テーシャボディに向けられた途端、巨大な鐘の音が鳴り響いた。
ゴーンッ!
ゴーンッ!
ゴーンッ!
ガガガガガ……。
能面のように無表情だった巨大歯車ロボの顔が、驚愕へと変わっていく。
そして荘厳な鐘の音とも聞こえるような声を発した。
「な、生フワーデキタァァァァァァァァァアア!」
巨大歯車ロボは、荘厳な鐘の音のような声で、まったく荘厳ではないことを叫んでいた。
巨大歯車ロボの背中にある巨大な羽が、大きく広げられる。
同時に、その巨体から無数の歯車が飛び出してきた。
最初に現れた歯車群は、空中に巨大なスピーカーのような形になった。
ジャン♪ ジャン♪ ジャーン♪ ジャンジャンジャンジャジャーン!
そして、もう親の声より聴きなれた馴染みの前奏が流れ始める。
次に現れた歯車群は、歯車が音を立てて小さな天使の姿に変わる。
キュィィィィイィン!
無数の歯車小天使たちは、それぞれが手にしたサイリウムライトを、リズムに合わせて振り回し始めた。
「「「ソイッ! ソイッ! ソイソイソイ、ソイッ!」」」
歯車小天使たちの、聖鈴のような声が鳴り響く。
聖なる鈴のような音で、オタクな気合を入れていた。
「それじゃ行っくよー!」
フワーデが、天使たちに手を振りながら前甲板に向かって走り出した。
「フッ、フッ、フワーデ、フワーデの~♪ 乙女のハートが~ときめくの~♪」
こうして我々は――
突然のライブステージにノリノリのフワーデが歌うフワーデソングと
「フッ、フッ、フワーデ、L! O! V! E! フワーデちゅわーん!」
それに合わせてヲタ芸を披露する巨大歯車ロボと歯車小天使たちのダンスを見守ることになった。
「一体……我々は、何を見せられているんだ……」
桜井船務長が、CICのモニタに目をくぎ付けにされたまま呟いた。
石井晴奈砲雷長が、インカムを使って誰かに何かを指示していた。
「ちょっと三カメ! フワーデちゃんにもっと寄せて! そこ一カメのロボと小天使を交互にパンダウン!」
荘厳さとヲタ芸のフュージョン。
護衛艦フワデラよりも巨大な巨大ロボと歯車小天使によって繰り広げられたフワーデ・ダンスは、それはもう圧巻の一言だった。
~ 大天使ツォルゼルキン ~
この巨大歯車ロボは、大天使ツォルゼルキン。女神トリージアの第三位階の御使いだと言う。
「然り! 我、最初にそう言ったよね? ね? ね?」
見た目の荘厳さや威圧感と違って、そのノリと口調はとても軽かった。
「そ、そうですか。これはどうも、わたくし護衛艦フワデラの艦長で高津と申します」
私が挨拶すると、ツォルゼルキンの巨大な顔がニヤッと笑った。
「然り! 知ってるよ! フワーデ・チャンネルの後追いやってる人だよね! なんだっけ? 艦長ダンス? まぁ、悪くないんじゃない?」
ムカッ。
……としたが、相手は大天使。ここは礼儀正しく振る舞うべきだろう。
「あ、ありがとうございます」
「然り! 最近は、歌とダンスの配信やめて、お仕事の報告みたいなことしてるじゃん? 我、そっちの方がいいと思うよ。無理はしないでさ、自然体で出来ることを配信するのが一番だと思うの我。フワーデちゃんのマネなんてしてもつまらないじゃん?」
よし。
こいつは私の敵だ!
「それで!? いったいどういう理由で我々の前に姿を現されたのでしょうか?」
私は、タクティカル・トマホークを一斉発射したい気持ちを抑え込みながら、ツォルゼルキンに尋ねた。
「然り! 然り!? それ聞いちゃう? 我に聞いちゃう!? 今聞いちゃう!?」
「よし、桜井! タクティカル・トマホーフガフゴ……」
ヴィルミカーラが、私の口を塞ぐ。
「艦長……て、天使にこ、攻撃しちゃ、だ、駄目……」
ヴィルミカーラが私に囁く。その目には怯えが走っていた。
その怯えが本物であることを感じた私は、とりあえず話を戻す方を選んだ。
「大天使様が、我々の前に御姿を顕現された理由を教えていただけますでしょうか」
次、ふざけた返答をしたら、タクティカル・トマホークを一斉発射する。
絶対にだ!
「然り。最初に言った通り、我は汝らに福音を授けにきた。それは汝らが捜している悪魔勇者のことである」
私の心を察したのか、ツォルゼルキンは真面目な顔で答える。
「悪魔勇者!? 何かご存じなのですか?」
「然り。悪魔勇者はこの大陸にはいない」
「「「な、なんだってー!」」」
ツォルゼルキンの言葉に、その場の全員が驚愕した。
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