第197話 三人娘
~ 医務室 ~
ミナス村で救出した旅行者の女性三人は疲労が激しく、精神的なショックが大きかったこともあって衰弱していたので、護衛艦フワデラに移送して医務室で治療を受けてもらった。
まぁ、肉体疲労の大半はフワーデダンスのせいだろう。
とはいえ三人共もかなり若いこともあって、点滴を打ってしばらく休んだだけで、すっかりと元気を取り戻したようだった。
私とヴィルミカーラが、彼女たちの様子を確認するために医務室に出向いたときには、イケメン草壁医官とキャッキャッと楽しそうに会話をしていたくらいだ。
クッ! 草壁! 羨ましい!
「艦長!」
私の目から照射されているジェラシー・ビームに気づいたのか、草壁医官がさっと立ち上がって敬礼する。
「「「えっ!?」」」
という目で三人が私とヴィルミカーラを見る。
三人の中でリーダー格っぽい女性が、私たちに向かって言った。
「艦長? こちらの亜人の……女性の方がそうなのですか?」
「いえ、私が艦長です」
ヴィルミカーラに降ろしてもらい、私は三人のベッドに近づいていった。
「護衛艦フワデラ艦長のタカツです。よろしくお嬢様方」
私は三人に敬礼をして、一人ずつ名前を聞いて行った。
最初に名乗ったのは、リーダー格っぽい女性だ。
長く波打つ金髪と青い瞳、色白で上品な顔立ちを持つ彼女の名前は、エリアーナ・ヴェルディアス。年齢は17歳。金星都市カンドリカンの南区を治める領主の娘らしい。
「タカツ様、この度はわたくしどもを窮地からお救い下さり、心より感謝申し上げますわ」
ベッドに横たわったままの挨拶も、彼女の所作には貴族らしい優雅さと気品があった。常に品位ある態度を崩さないという印象だ。
次に挨拶を述べたのは、茶色のボブヘアに緑色の鋭い眼差し、細身に見えるが筋肉質な女性だった。
「私はレナ・アルスター。ヴェルディアス家に使える護衛騎士の一人です。この度は大変お世話になりました」
彼女は19歳で、この中では年長らしい。印象としては、実直で勇敢、正義感が強い人物のように思えた。
そして最後に挨拶したのは、金星都市カンドリカンの大商人の娘、ソフィア・メルカンティ。
肩まで伸ばしたストレートな黒髪と茶色の目を持ち、小柄で華奢な体型の女性……というより少女だ。実際、年齢は16歳だということだった。
「この度は艦長様と護衛艦フワデラの皆様に命をお助けいただき、本当にありがとうございました。草壁様からお伺いしたところ、皆様は金星都市を訪れたことがないとのこと。ぜひ我が家へお越しくださいまし。命の恩人の皆様を、メルカンティ家を挙げて歓待させていただきます!」
そう言いながら、彼女は目をキラキラさせて私を見ていた。もしかするとその目の輝きの一部は、新しい商売のネタを見つけたという意味でのキラキラなのかもしれない。
「皆さん、無事で何よりです。私たちも色々とお話をお伺いしたいのですが、とりあえず今日はゆっくりと休んで体力を回復してください」
「「「はい! ありがとうございます!」」」
若さ一杯の元気の良い返事だった。
だが、彼女たちが死地を抜けて来たばかりであることは間違いない。
詳しい話を聞くのは明日にしよう。
~ 翌日のランチタイム ~
三人娘の体調は完全に回復したようだった。
全員がお肌プルップルッで、髪がツヤッツヤッで、その場に「何だかわかんないけど、とにかく楽しい!」フィールドが形成されていた。
草壁医官に話を聞くと、どうも昨晩は女性乗組員たちが、協力して彼女たちのケアに当たってくれたらしい。
たった半日もない間に、一緒に風呂に入って洗いっこし、科員食堂で食事とスイーツを楽しみ、医務室で集まっておしゃべりをし、恋バナで盛り上がっていたようだった。
残念なことに貴族のエリアーナは、田中未希(既婚)少佐の洗礼を受けてしまったらしく、今朝方、その手に田中の携帯ゲーム機が握られているのを見てしまった。
田中の携帯ゲーム機となれば、どうせ入っているのは乙女ゲームだろう。
どうでもいいと思う半分、カトルーシャ王女だけでなく、別大陸の貴族嬢まで夢中にさせる乙女ゲームというのが、一体どういうものかは何となく興味が湧いて来た。
私は彼女たちをランチに招き、士官食堂で色々と話を聞くことにする。
士官食堂へ案内する間、彼女たちはすれ違う乗組員たちと親し気に挨拶を交わし合っている。彼女たちの挨拶に対して、乗組員たちも皆笑顔で応えていた。
たった半日でうちの乗組員たちをここまで打ち解けるとは、大したものである。
食事メニューは、フレンチのランチコース。
彼女たちをリラックスさせるために、三人が既に信頼を寄せているらしい草壁医官と田中未希少佐(既婚!)を交えてのランチタイムだった。
私は……
何故かヴィルミカーラの膝の上だった。
何だかいつの間にか、これが定位置になっている。
「いや、ヴィルミカーラ、私は普通に椅子に座りたいんだが?」
「だ、駄目。か、艦長がこ、ここに座らないと、わ、私のお、お腹が冷えちゃう」
「そうか、それなら仕方ないな」
「そ、そうなの。は、はい、スープ」
ヴィルミカーラがスプーンにスープを掬って、私の口元に運ぶ。
気が付くと、いつの間にか私はパクッと、彼女の差し出すスプーンを咥えていた。
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