第196話 事情聴取
ダゴン教徒と海から上がってきた半魚人たち全員が、フワーデの信者となった翌日。
フワーデは、元ダゴン教徒(現フワーデファンクラブメンバー)たちに対して、拉致した人間を全て解放するように命じた。しかし結局のところ、我々が保護した三人の旅行者の外に生きている者はいなかった。
私たちは元ダゴン教徒たちから話を聞いた。
この港町ミナスは数十年前にダゴン教団によって乗っ取られていたらしい。ダゴンとヒュドラに捧げる生贄を集めるために町そのものを罠にしたのだ。
トゥカラーク大陸の都市や街はそれぞれが独立した都市国家のような形を取る傾向があり、互いの交流は殆どない場合が多いらしい。
というのも、トゥカラークでは大型の魔物が大陸中を徘徊しており、都市や街を要塞のように固めて、その脅威から身を守っているという。
そんな状況下で大陸を旅するものは、冒険者か商人か、あるいは護衛隊などを連れて行けるような裕福な者たちに限られる。
我々が保護した女性三人は、それぞれが貴族と大商人の娘たちであった。
そして今、彼女たちを守っていたはずの護衛は誰一人残っていない。
元ダゴン教徒たちの話では、ミナスを乗っ取って以降、この町に入った人間は誰一人として生きてここを出ることはなかったということだった。
「よし! 出発するときは、この町ごと破壊しよう」
彼らの恐ろしい話を聞いて、私が思わずつぶやいたことに対して、反対する乗組員は誰一人としていなかった。
話の最後に、彼らから「悪魔勇者」について何か知っていることがあるか聞いてみた。
彼らの発言から、ダゴン教団はこのトゥカラーク大陸で悪魔勇者召喚を目論んでいるという事実を知ることができた。だが召喚の儀式は未だ成功していないという。
今でもダゴン教団はこの港町ミナスで多くの生贄を集めようとしていた。ということは、悪魔勇者召喚の儀式が未完成である確度はかなり高いだろう。
であるならば、この世界にもう一人いる悪魔勇者はトゥカラーク大陸にはおらず、護衛艦ヴィルミアーシェが向かった古大陸にいるということになる。
悪魔勇者を召喚する組織が、ダゴン教団以外にもある可能性も忘れるわけにはいかない。
しかし数多くの生贄を必要とする悪魔勇者の召喚儀式を行える組織など、そうあるものではないはずだ。もし儀式を行なおうとしている他の組織があるとしても、ダゴン教団を追って行くことでそこにたどり着ける可能性は高い。
次に我々は、海から上がってきた半魚人たちから話を聞いた。
彼らはダゴンを信奉しなかった者たちだ。昔のミナスの住人たちとは長らく良好な関係を築いていたことから、ダゴン教団とは敵対関係にあったのだと言う。
ダゴン教団が現れてミナスを乗っ取って以降、半魚人たちは町に近寄ることはなくなった。
さらにダゴンとヒュドラが現れるようになってからは、町の周辺で不快な威圧を感じるようになり、ますます町から離れるようになってしまったらしい。
だが先日、その威圧が突然消えた。
町に異変が起こったことを感じ取った半魚人たちは、その真相を確かめるために港に入ったところで、我々と遭遇した。
彼らは元ダゴン教徒たちに対して怒りを抱いており、今すぐ全員拘束すべきだと主張を繰り返している。
彼らは悪魔勇者召喚については、神様から禁忌とされているということ以外は何も知らなかった。
次に、保護した三人の女性からも話を聞いた。
彼女たちは、ミナス村から遥か北西にある金星都市カンドリカンから来た旅行者ということだった。
今回の旅行に当たって12人の騎士が彼女たちを護っていたのだという。
だが港町ミナスに入った翌朝には、騎士たちが全員姿を消していた。
そして自分たちは服を剥がれた状態で、暗い部屋に押し込められていたのだという。
VRフワーデゴーグルを通して見える元ダゴン教徒(現フワーデファンクラブメンバー)たちが、港の広場でフワーデダンスの練習をしているのを見て、私はつぶやいた。
「うん。町ごと破壊しよう」
私の脳内では、石井晴奈砲雷長が「ミッサイル♪ ミッサイル♪ 」と歌いながら小躍りを始めていた。
~ 港の広場 ~
波止場に設けた簡易テントの中で、私たちは半魚人の代表三人と今後の対応について話をしていた。
「うん。やっぱり町を破壊しよう」
「そうしましょう!」
突然インカムに石井砲雷長のウキウキ声が入ってきた。
「ギョギョー!!」
「そ、それは待って欲しいギョー!」
「破壊するのはダゴン教団の奴らだけにして欲しいギョー!」
半魚人たちとしては、一時はダゴン教団に乗っ取られたとはいえ、思い出もあるこの町はそのまま残して欲しいということだった。
ダゴン教団がいなくなったことが知れ渡れば、町を去って行った人々が戻って来るかもしれない。そうすれば、また昔の様にミナスの住人と半魚人たちの良好な関係が復活するかもしれないと。
ふむ。ダゴン教会を破壊し、ダゴン教徒との戦闘で血も散々流したが、これ以上はこの大陸の人々自身の決断に委ねるべきだろう。
「わかりました。町の破壊はなしとしましょう。元ダゴン教徒たちの処遇については、皆さんにお任せします」
フワーデがこの決定について元ダゴン教徒たちに告げると、彼らは何の抵抗も示すことなくフワーデの言葉を受け入れた。
その中には、これから自分たちに訪れる過酷な運命を自覚している者も少なくないようだった。
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