第179話 艦長ドM疑惑
アリスの気絶騒動から激動の一週間が過ぎた。各国との外交交渉も無事終了し、リーコス村とその周辺からほぼすべての使節団が引き上げている。
結局、アリス・スプリングス嬢は、ドルネア公がラミア女子を妻にすると意気込んでいる事実を受け止めることができなかったようだ。気絶から回復して以降、ドルネア公と話すときには、彼のとなりにいる二人の巨乳ラミアがいないこととして会話する始末。
とうとう最後は、機嫌を損ねた公に引き摺られるようにして王国へと戻っていた。途中、ドルネア公はグレイベア村に立ち寄ると言っていたが、それでアリスがどうなってしまうのかとても楽しみ……心配だ。
結婚式も無事終了したので、現在、私たちは第二次悪魔勇者討伐作戦に向けての準備を進めている。その重要事項のひとつが二つの護衛艦についての人員配置だった。
それを決定するため、結婚式の間でも多くの時間が費やされた。そこで最終的に決定された内容を、私は今から発表しようとしていた。
護衛艦フワデラの艦橋で、私はマイクを手に取り、全乗員とリーコス村住民に向けて話し始める。
「宛:護衛艦フワデラ及び護衛艦ヴィルミアーシェ全乗員 発:護衛艦隊司令 高津裕二大佐。これより、第二次悪魔勇者討伐における各護衛艦の人員配置を知らせる……」
私は、手元にある名簿を見ながら読み上げていった。
護衛艦フワデラ(目的地:トゥカラーク大陸)
艦長:高津裕司 大佐
副長:ステファン・ノルドリング、田中未希少佐(補佐)
砲雷長:石井晴奈 大尉
船務長:桜井知実 大尉
航海長:田中未希少佐、ステファン・ノルドリング(補佐)
機関長:河野大輝 大尉
他乗員:シンイチ・タヌァカ、ライラ・タヌァカ、ラピス、トルネア、ヴィルミカーラ
護衛艦ヴィルミアーシェ(目的地:ゴンドワルナ大陸)
艦長:平野幸奈 中佐
副長:吉添明寿子 少佐
砲雷長:山形義孝 少佐
船務長:橋本裕二 少佐
航海長:フェルミ・アランドット・クラクシス
機関長:東雲ゆかり 少佐
他乗員:南義春 大尉、坂上春香 大尉、不破寺真九郎、竜子
放送が終了した後、カトルーシャ王女が艦橋に乗り込んできて、自分が名簿に載っていなかったことについてクレームを入れて来た。
「タカツ艦長! 私の名前が読み上げられませんでしたが、どういうことですの!」
王女が美しい金髪を振り乱し、柳眉を逆立てながら、青い瞳でキッと睨みつけてくる。
「いや、さすがに他国の王女様を危険な場所に連れて行くわけには……」
「そんなの全然構いませんわ!」
「駄目ですよ! 王女様! そんな分けには参りません!」
王女を追いかけてきた侍女のサリナさんが止めに入る。
「殿下! さすがにそれは無理があります! フワデラの皆様にご迷惑をかけることになりますよ!」
同じく王女を追ってきたコラーシュ子爵が、私の言いたかったことを代弁してくれた。
私は、目の前で王女たちが喧々諤々と議論するのを見ながら、まったく別のことを考えていた。
そう言えば、カトルーシャ王女もアリス・スプリングス嬢も、私のことを何度も「キッ」と睨んできたことがあったが、一度も「踏んで下さい女王様!」という気持ちが沸き起こることはなかったな……と。
二人とも金髪碧眼の美女であるし、見た感じどちらも「女王様!」である。
だが平野に睨まれたときに感じる「踏んで下さい!」という胸アツな想いが、私の中に一向に湧いてこないのだ。
ということは、平野に睨まれたときに反射的な土下座をしてしまうのは、やつの固有スキル【見下し好感度アップ!】が原因であるということだな。
よかった……。
これで「艦長ドM疑惑」が自分の中でキレイに晴れたぜ。
とはいえ、キッと睨んでくる王女殿下も、美しく魅惑的であることは間違いない。
だが王女殿下やアリス嬢の「キッ!」は「女王様、踏んで下さい!」の「キッ!」ではなく、どちらかというとスカートをたくし上げながら――
「わ、私にこんなことさせるなんて……あなた最低です!」
と言いながら「キッ!」っと睨んで欲しい系だ。
ちょっとナニ言ってるか自分でもよくわからないが、私の魂はそれで納得している。
「ちょっと! タカツ艦長! 私のお話を聞いてますの!?」
おっと、また王女に睨まれてしまったぜ。
「キッ!」
と王女の視線が向けられたが、私は堂々と土下座しなかった。なんか言葉が変な気がするが、とにかく艦長えらい!
その後、王女殿下には「私たちが留守中の間、リーコス村を守って欲しい」と強くお願いして、何とか説得することに成功した。
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