第160話 護衛艦ヴィルミアーシェ
「まさか本当に1時間で艦が届くとは……」
私たちは護衛艦フワデラの後甲板に立ち、新しい護衛艦が一瞬で海上に出現する様子を目の当たりにした。
「ネットゲームじゃ普通の建造時間ですが、実際に見ると情緒もへったくれもありませんね」
一緒に艦が出現する様子を見ていた山形砲雷長が、ボソッとつぶやく。
私自身は山形には全く同意だ。
とはいえ他の多くの
姉妹艦ヴィルミアーシェの建造計画を発表してから一カ月後の今日。
今から一時間前、神業務ネットスーパーで発注した護衛艦が、リーコス村沖に浮かんでいる。
海上で待機していた11m作業艇がワラワラと、この新造艦に群がって行くのが見えた。
上空からはSH-60L哨戒ヘリが、平野副長や東雲機関長たちを乗せて、後甲板に着陸しようとしている。
このミサイル護衛艦ヴィルミアーシェの建造に要した費用は2200億ポイント。
付随の兵装でさらに100億ポイントを費やしている。
建造発表の時から建造までに一カ月の猶予期間を置いたのは、この新造艦を運用する人員を育成するためだ。
ちなみに新規
人間の新規
その最大の理由。
それは我々が帝国に帰った後、この新造艦はシンイチに託されることになるからだ。
シンイチにはこのリーコス村だけではなく、この世界に残ることを選択した帝国の人間を守ってもらうことになった。
彼とはそのような誓約を交わしている。
とはいえ、艦を運用するのはシンイチではない。
私は甲板上で一緒に姉妹艦を眺めている田中未希航海長(32歳婚約中)に、シンイチと交わした約束について話をしていた。
「当面の間、新造艦の艦長は平野に務めて貰う予定だ。その間、お前にはステファンと一緒に本艦の副長を兼務してもらう」
「りょ、了!」
重責を感じているのだろう。田中の声が上ずっていた。
「お前の負担が大きくなるのは申し訳ないと思う。だが我々が帝国へ帰還した後、この世界に残るお前が、あの護衛艦の艦長となる。その覚悟を持って任務に当たってくれ」
「わ、わかりました」
田中の声は上ずったままだった。
「気負い過ぎるなよ。副長といってもステファンと二人で分担だ。当分は、ステファンに副長としての役割を指導することになるだろう。お前はそれをよく観察していればいいさ」
それから三時間後、護衛艦ヴィルミアーシェに乗り込んでいる平野から、報告が入ってきた。
「艦長、新造艦の中を確認しました。装備や内装、全てフワデラと同じです」
「そうか。では科員食堂の電子レンジに魔鉱石を投入してくれ」
「了!」
しばらく後、
ついに護衛艦ヴィルミアーシェのエンジンが始動した。
~ 相違点 ~
実際のところ、現在の護衛艦フワデラと姉妹艦ヴィルミアーシェは全く同一ではない。正確には、この異世界に転移した直後の護衛艦フワデラ本体と同一ということである。
転移時に積載されていたSH-60L哨戒ヘリや73式小型トラック等は含まれていない。もちろん機密に運んでいた帝国撫子型アンドロイド・テーシャもない。
それが何を意味するかと言えば、護衛艦フワデラが異世界を転移することによって獲得した摩訶不思議な性質が、この姉妹艦には備わっていないということである。
そのひとつが魔力転換炉だ。
護衛艦ヴィルミアーシェは魔力転換炉を持っていなかった。
現在、食堂に置かれている魔力転換炉は、前の悪魔勇者討伐時に、私が天上界に要求した追加報酬のそれである。
また帝国撫子型アンドロイド・テーシャが積まれていないことから、またフワーデのような精神体も出現しないものと思われる。
業務ネットスーパーの発注画面にはテーシャの項目があるにはある。しかし、これを発注しようとしたら、数字の表示が全て9に代わってしまった。
いったいテーシャがおいくら万円なのか分からないが、少なくとも3000億では足りないことだけは判明した。
つまり、新しく
いや、それでも凄いことには違いないけど。
とはいえ、新造艦を運用するにあたっては、フワーデという存在の大きさを、私たちはあらためて再認識することになる。
色々な制限が付くとはいえ、フワーデは一人で艦の運用ができるだけでなく、大量のドローンの操作や情報処理をも担うことができるのだ。
きっとその力の源が、帝国の最重要機密にまみれた帝国撫子型アンドロイドの中にあるのだろう。
幸いなことにフワーデは、姉妹艦から1キロメートル圏内に入ると、フワデラと同等の操作や処理ができるようだった。
「うんと近づいて、うんと頑張れば、両方とも動かせるよ!」
対応能力は激減するものの、近づいてさえいれば二つの艦を同時に操艦することさえできるらしい。
乗組員たちの練度を上げるということに限ってみれば、二つの艦を操るフワーデの能力は大いに活躍することになる。
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