姉妹艦ヴィルミアーシェ

第159話 3000億の使い道

~ リーコス村司令部(兼村長宅) ~


 今後の我々の行動について、護衛艦フワデラ内で意志をまとめた後、私はその日のうちにリーコス村に足を運んだ。


 司令部の会議室には、リーコス村とグレイベア村の村長、シンイチ夫妻、カトルーシャ第三王女とお付きの外交官が着席している。


 会議招集にあたっては、現在の状況についての事前説明が行われているため、この場にいる全員の表情は厳しいものとなっていた。


 我々が悪魔勇者討伐成功にあたって莫大な報酬を得たことを話しても、それを無邪気に良い知らせだと捉えるものはいなかった。


 この場にいる誰もが、護衛艦フワデラとその乗組員クルーの悲願が帝国への帰還であることを重々理解しているからだ。


 グレイベア村のドラゴン幼女、ルカ村長が挙手する。


「天上界の言い分だと、悪魔勇者があと一人しかいないらしいが、それを信じていいものかの?」


 私を膝に乗せている平野副長が答える。


「それについては『絶対に間違いない』……とは聞いています」


「絶対か……絶対のぉ……」


 ルカは顎を手でさすりながら、幼女な柳眉を寄せて考え込んでしまった。


 わかる。


 『絶対』なんて言葉を軽く使ってしまえるのは、つまり、深くは考えていないということだ。


 どのような根拠で天上界が『絶対』と言い切ったのか知らないが、


「悪魔勇者の上にミサイルが落ちた!? そりゃ間違いなく死んでるわ。大丈夫、間違いない!」


 と、深く検証することもなく断定する官僚神の顔が目に浮かぶ。   


 ちなみに、もしも後になって悪魔勇者の生存が確認された場合は、


「その件については想定外のことでありまして……」


 と、適当な言い逃れをする官僚神の姿まで見える。


 そんなことを想像してしまうくらい、今や私の天上界への信頼は地の底まで落ちている。


 まぁ、天上界の連中が当てにならないのなら、こちらとしては目一杯利用させてもらうだけだ。


 私は目の前で渋い顔をするルカ村長に首肯しつつ答えた。


「ルカ村長の懸念は理解します。天上界からは悪魔勇者の候補が二人いることが示されているのですが、私たちとしてはこのどちらも悪魔勇者であるという前提で行動していきます」


 最悪の事態を想定して行動するということだ。


 さらに他にも悪魔勇者がいるという可能性だってある。まぁ、もしそんなことになれば、もはや我々の手には負えないだろう。無理。


「して、その候補者どもはどこにおるのじゃ?」


「一人はゴンドワルナ大陸。もう一人がトゥカラーク大陸というところにいるそうです」


 それまで静かだったリーコス村の村長ヴィルミアーシェさんが、急に立ち上がって大声を出した。


「そ、それは、もしかして 皆さんは他の大陸へ行ってしまうということですか!?」


 彼女の発言を聞いて、会議室にいる全員の視線が私に集中した。


「我々としては、もう一人の悪魔勇者を一刻も早く倒したいのです。そのためにも、各大陸へ活動拠点を移して悪魔勇者を捜索し、これを駆逐するつもりです」


「そ、そんな……」


 ヴィルミアーシェさんの美しい二つの瞳から、涙が溢れてハラハラと流れ落ちていく。


 私たちがこの世界に来て初めて出会った白狼族との絆は深い。


 今では護衛艦フワデラの乗組員クルー全員が彼らと家族のように接している。


 ヴィルミアーシェさんの涙が、私たちを想ってのことであることは疑いようがない。疑うようなものになりたくもない。


 私はヴィルミアーシェさんの下に駆け寄って行きたい衝動を堪えつつ、この場で伝えたかった最大のポイントについて触れた。


「しかし、我々が遠征に出ている間、このリーコス村やグレイベア村を守り、大陸に残る妖異の脅威に立ち向かうものが必要です。この世界にいる間、護衛艦フワデラが帰る場所はこのリーコス村なのですから」


 話し終えると、ヴィルミアーシェさんが泣くのを止め、じっと私の顔を見つめていた。


「我々がリーコス村を留守にしている間、護衛艦フワデラと同等の力を持つものが、ここを守る必要があります」


 ルカ村長が困惑した表情を私に向ける。


「それはその通りかもしれんが、お主たちのようなものが他におるのか?」


 他の面々も似たような顔で私を見つめていた。


「それをこれから用意します!」


「「「はぁ!?」」」


 堂々たる私の宣言に、その場の全員が素っ頓狂な声を上げた。


 思わず私の口角が上がり、幼女のニヤリ顔になってしまう。


 数日前にリーコス村の海岸で行われた演説では、私の渾身のネタが全員にスルーされて凹んでいたが……


 あの時の悔しさが、この反応でキレイさっぱり解消されたぜ!


 私はゆっくりと息を吸ってから、朗々と宣言する。


「護衛艦フワデラの姉妹艦ヴィルミアーシェを建造します!!」


 私が言っていることが、全員の脳に処理されるまでに数秒を要した。


「「「なんだってぇぇぇ!?」」」


 期待していた反応を得られた私は、その場で思わずガッツポーズを決める。


 もう一人の悪魔勇者討伐作戦を、艦内で練り上げた結果、私たちが至ったひとつの結論。


 それは――


 莫大なEONポイントを使って、ミサイル護衛艦フワデラを複製することだ!


 ちなみに、


 自分の名前を冠せられた護衛艦建造の発表を聞いたヴィルミアーシェさんは、立ったまま呆けていた。


 彼女の意識が戻り、驚愕の絶叫を上げるまで1分30秒を要した。


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