第158話 南緯47度9分 西経126度43分

~ 護衛艦フワデラ CIC ~


≫ 受注可能な女神クエスト一覧

≫ ● 悪魔勇者を探せ! 報酬:EON100億ポイント

≫ ● 悪魔勇者を倒せ! 報酬:EON2000億ポイント

≫ ● 悪魔勇者眷属を探せ! 報酬:EON2億ポイント(個体毎)

≫ ● 悪魔勇者眷属を倒せ! 報酬:EON200億ポイント(個体毎)

≫ 〇 妖異ヘビ人間の神殿を破壊せよ! 報酬:EON1憶ポイント

≫ 〇 妖異ドドヘビ魔神の狩猟 報酬:EON10億ポイント


「はぁ~っ」


 作戦指揮所CICのモニタに映し出された女神クエストの情報を見た私は、肩を落としながら大きくため息を吐いた。


 平野副長や橋本船務長を始め、この場にいる全員が私と同じように肩を落とし、首をうな垂れている。


 別のモニタには、フワーデを通して私たちに送られてきた天上界からの公式回答が表示されていた。


 我々がいつ帝国へ帰還できるかについての天上界からの回答は、長々とした文章で書き綴られていたが、要するに……


「今はまだ無理」


 ということだった。


 あの青空に浮かんでいる次元の傷のようなものが存在している間は、異世界間の転移ができないらしい。


 ちなみにあの次元創は、全世界のどこからでも見ることができるようだ。少なくとも、遠方に出向いている各部隊から送られてきた映像を見ても、寸分たがわぬものが空中に浮かんでいた。


 田中航海長たちによる解析によると、次元創はこの惑星のある特定の一点を示すように浮かんでいるように見えているらしい。


「各地から見える方向から逆算すると、南緯47度9分 西経126度43分を指しているものと思われます」


 田中航海長の言う緯度と経度は帝国のそれとは異なり、この世界の基準によるものだ。こうした基準のほとんどはリーコス村に到着した時に、海賊フェルミ船長たちから得た情報によってすり合わせを行っている。


「そのうち、そのポイントにも行かねばならんのだろうな」


 再び私は深くため息を吐いた。

 

 天上界からの電文によれば、この次元創は宇宙の深淵から邪神が、この世界に降臨するための門のようなものらしい。


 この次元創は、悪魔勇者たちによって完全に開かれる直前まで来ていた。


 しかし、悪魔勇者のひとりが突然死んでしまったために、今のような歪な開きになってしまったようだ。


「そもそも悪魔勇者が二人いるなんて聞いてなかったからな……」


 私のつぶやきを聞いた山形砲雷長が


「そんな大事なことを隠していただけではなく、こうしてシレッと女神クエストを出してくるあたり、天上界ってのはどうも霞が関の連中と同じ臭いがしますね」


 まったくその通りだ。


 現場を無視した身勝手な状況判断。金で横っ面を叩くような態度の支援。隠蔽無責任体質。


 天上界の神様というのも、強大な力を持っているというだけで、本質的には我々とそう変わらない。


 そのことが、今回の件で確信することができた。


 この次元創についてフワーデに送られてきた補足情報によると、


「えっとね! もし二人の悪魔勇者をだいたいでいいんだけど、同時にバーン!って倒してたらね。この裂け目はできなかったんだって!」


 私のこめかみから血管がプチッと切れる音がした。私だけではない。この場にいる全員の額から同じような音がしているのが聞こえた。


 それならそうと最初から言えや!


 悪魔勇者が二人いるなんて超重要なことを隠してんじゃねーよ!


 このハゲッ!


 天上界の神々がハゲかどうかは知らない。


 あと先任伍長の中にはハゲ頭もいるので口には出さないが、とにかく私は心の内で考えうる限りの罵倒を天上界に投げつけていた。


「それで、そのもう一人の悪魔勇者はどこにいるんだ?」


 フワーデが、うーん、うーん、と唸り始めた。おそらく天上界に問い合わせているのだろう。


「えっとね。候補は二人いるんだって!」


「二人? 候補? つまり天上界は悪魔勇者がどこにいるのか把握してないのか?」


「そだね。だから女神クエストでも『探せ!』ってのがあるよ」


「そ、それは……そうか……」


 天上界に対する反発心がメラメラと炎上しているためか、ついつい勢いで突っかかってしまった。


 とりあえず話は最後まで聞かないとな。


「それで? その候補と言うのは?」


「えっとねぇ……」


 一人目の候補は、ゴンドワルナ大陸にいる魔王。こいつは、元々いた魔王を殺害して成り代わり、大陸統一を目指しているようだ。大陸の覇を狙っている点は、我々が倒した悪魔勇者セイジュウと似ている。


 もう一人は、トゥカラーク大陸にいる魔王。この大陸では大型の妖異が数多く出現しているという特徴がある。銀色の巨人を使役する魔王は、人間だけでなく天上界の神々に対してまで反抗の意志を掲げている。


 フワーデの話によると、一応のところ、どちらの魔王に対しても、その大陸を管轄する女神が呼び出した勇者たちが立ち向かってはいるらしい。


「そうかぁ、勇者が頑張ってくれてるかぁ。だが正直あんまり期待できないなぁ」


 だって、この大陸の勇者だった南浩二なんて、悪魔勇者に瞬殺されてたからな。


「だいたい、今もって勇者が頑張れてるってことは、どちらの魔王も悪魔勇者ってことはないんじゃないのか?」


「そだね。タカツの言う通りだと思う!」


 そだねって……そんなあっさり認められてもな。


「でもね、他の大陸にはこの二人ほどの力を持つ魔王や勢力は今のところ見つかってないんだって。だからとりあえずって感じで候補になってるみたい!」


 悪魔勇者について天上界の情報が当てにならないことはよく分かった。


 身に染みてよく分かった。


 天上界の官僚体質がよーく分かった。


 それならそれなりの戦い方をするだけだ。


 そう割り切った途端、私の頭に掛かっていた雲が取り払われた。


「フワーデ! 今回の詫びとして、天上界にはEONポイント報酬の2倍セールを開催しろと伝えておいてくれ」


「わかったー!」


「後でまとめて要望を出すが、なるべく叶えてもらいたい。とりあえず業務スーパーの指定ポイントへの置き配と魔力転換炉の増設を認めて欲しい」


「伝えとくー!」


 もはや私の思考は、今は叶わぬ帝国への帰還に対するくびきから解放され、


 最後の悪魔勇者を討ち取るため作戦の構築に集中していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る