第161話 お宝ゲットだヤフー!
悪魔勇者討伐以降、リーコス村の司令部(兼村長宅)は、昼夜を問わず様々な人々が出入りしており、1階フロアのレストランやカフェも24時間体制で営業を続けていた。
姉妹艦ヴィルミアーシェの建造に多大なEONポイントが必要とはいえ、それを差し引いてもなお我々には巨大な予算が残っていた。
それを使って、リーコス村のインフラ超整備や、各種ドローンを始めとする兵装の増強や開発に取り組んでいる。
私は毎日のように護衛艦フワデラ、姉妹艦ヴィルミアーシェ、リーコス村を、文字通りぐるぐる廻っていた。たまにグレイベア村やアシハブア王国の王都にも出向くこともある。
今は、リーコス村の村長ヴィルミアーシェさんを訪ねて、司令部(兼ねる村長宅)前に到着したところだ。
「ヴィルミカーラ、ちょっとここで止めてくれ」
「わ、わかった。で、でもどうしたの?」
私はヴィルミカーラの運転する73式小型トラックから降りて、改めて司令部の建物を見上げた。
護衛艦フワデラがこの異世界ドラヴィルダに転移させられてから、初めて訪れたのがこのリーコス村だ。そのときは、ちょうど村が海賊に襲われていたところを、不破寺さんがほぼ単騎で突撃して賊を蹴散らしたのだ。
それから始まった、白狼族との絆は深く。今やお互いが家族のように思っている。
「いや、こうして改めて見ると、司令部も立派になったなと思ってな」
「お、王宮殿より、ず、ずっと綺麗で、り、立派。か、艦長たちのお、おかげ」
白狼族には珍しい黒毛美人のヴィルミアーシェが、まぶしい笑顔を向けてくれたので、私は思わず頬を緩めてしまった。
最初はコンクリートを固めただけの、シンプルかつゴツイ印象だった司令部の建物は、遠目からはヴェルサイユ宮殿を彷彿とさせる外観になっている。
まぁ、元の司令部を覆うようにして建てられた張りボテではあるのだが、それでも建物の耐久性は施設長の折り紙付きだ。
「いつまでも眺めている大会の時間に遅れそうだな。急ぐとするか」
「そ、そだね」
司令部の地下2階で行なわるドローン競技大会を見学するために、私たちは急いで建物の中に入っていった。
ドローン競技大会は、護衛艦フワデラとリーコス村、そしてグレイベア村の間でドローンの運用技術を競うものだ。
妖異との戦いにおいて、主役となっているドローンだが、そのオペレーターや保守要員が圧倒的に不足している。この大会は、そうした人材の育成を目的として始められた。半年前から、月一度のペースで開催されている。
第一回目から白熱した大会によって皆が触発された結果、今では護衛艦フワデラの乗組員とリーコス村の白狼族の全員が、それなりのドローン操作技術を身につけている。
ちなみにヴィルミアーシェさんでさえ、毎回予選にエントリーしている。彼女の場合は、大会の看板アイドル的な意味合いもあるのだが、参加する本人もかなり楽しんでいるようだ。
会場は、地下1階と2階が吹き抜けとなっていて、観戦は地下1階から行なわれる。大会に参加するオペレーターは、地上1階にある複数のオペレータールームにチーム別に分かれてドローンを操作する。
私たちがフロアに到着すると、先に来ていた不破寺さんが私たちを見つけて手を振ってくれた。
「あっ、艦長さん! こっちですん!」
どうやら席を確保していくれていたようだ。
いや……違った。
不破寺さんのヒザの上には既に竜子が座っていた。
……などと考えていたら、ヴィルミカーラが私を抱え上げて席に着き、膝の上に私を座らせた。
そして私の頭を撫でながら、
「ふ、フワデラより、わ、わたしの膝の方がか、観戦し、しやすい」
「ぬっ!? 確かに! 竜子は不破寺さんの巨乳の所為で下を見る姿勢を強制されている。だが私には障害物がないから上を見ることも容易いな!」
ギューッとヴィルミカーラが私のほっぺを後ろから抓って引っ張る。
「そ、その通りだ、だけど、こ、これはお、乙女のい、怒り!」
「何!? ヴィルミカーラ、お前まだ処女……ひでてて! ひゃな、ひゃないたい! ひたい!」
ヴィルミカーラが私の鼻を強くつまんでグリグリしてきた。
「せ、せくはらはだ、駄目!」
いや、歩くセクハラロリショタ狼に言われたくねぇわ!
……とは思ったが、大人な艦長はそれをグッと堪えて、ヴィルミカーラの腕をタップするに止めた。
「あっ、次の試合が始まりますよん!」
不破寺さんの声に合わせるかのように、会場の照明が少し落とされ、次の試合内容についてのアナウンスが流れ始めた。
『続いての試合は、飛行型ドローン・イタカの改造と運用技術を競う”お宝ゲットだヤフー!”となります』
初めて聞く競技名だったので、私は不破寺さんに内容を聞いてみたが、彼女も知らないと首を傾げていた。
アナウンスによる解説が始まる。
『本試合では、フワデラ、リーコス、グレイベアのそれぞれのお宝を試合場に配置。各チーム2機のイタカを使ってこれらのお宝を奪い合う競技となります』
「なるほど3チームでの争奪戦か。攻防のバランスが勘所だな」
試合場を見ると、最高2メートルの板壁で迷路のように区切られていた。板壁の高さがバラバラなのと、あちこちに障害となるオブジェクトが置かれている。
床部分に半径1mほどの円が描かれているエリアが三方それぞれにあって、そこには物干し台のようなものが置かれている。
物干し台の高さは1メートルほどしかなく、さらに上空から入ってくるのを邪魔する横木がいくつも張られていた。
「普通にお宝を取りにいくだけでも大変そうだな」
「そ、そうなの。て、敵のじゃ、邪魔をし、退けな、ながらだ、だからも、もっと大変」
ヴィルミカーラの口ぶりからすると、彼女はこの試合の内容を知っていたのかもしれない。
などとヴィルミカーラと話していると、水着姿の白狼族女性が試合場にお宝を設置し始めるのが見えた。
白狼族の女性が何やら小さな布切れを物干し台に掛けていく。
「はぁ!?」
お宝の正体を知った私は愕然とした。
さらにアナウンスによる解説を聞いた私の全身から血の気が引いた。
『今回のお宝は、おパンツ、おパンツになります。リーコス村より村長の白のおパンツ、グレイベア村よりルカ村長の水色のおパンツ、そしてフワデラからは平野艦長の薄紫のおパンツとなります』
事態のあまりの致命重大深刻さに、私の意識が飛びそうになる。
「だ、大丈夫、あ、あれはほ、本物じゃな、ない。わ、わたしとや、山形がき、企画したね、ネタなの………痛い痛い痛い頭割れる! 割れる!」
背後から迫りくる怒気に、飛びかけていた私の意識が戻ってきた。
「カァァァァラァァァァァ!」
ヴィルミカーラの方を振り返ると、彼女の頭を両手でグリグリと梅干攻撃するヴィルミアーシェ村長の姿があった。
グリグリされるヴィルミカーラの黒い毛から煙が上がっているような気がしたが、自業自得なのと、ヴィルミアーシェさんの顔がとても怖かったのとで、
艦長、ただただ震えることしかできなかったの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます