第151話 艦長、無能と呼ばれて追放される!
~ 護衛艦フワデラ 士官室 ~
久々に護衛艦フワデラに戻った私は、今、士官室で会議の真っ最中である。
会議の主催者であるフワーデが、目の前にちょこんと座ってアーシェの生搾りラッシーをチューチューしている私に向って、人差し指を突き付けていた。
銀色の前髪を振り乱し、その柳眉を逆立て、美しい緑の瞳で私を睨みつけながら、フワーデが叫ぶ。
「タカツ! あなたは追放よ! フワーデ・フォーに無能な幼女は要らないの!」
フワーデの隣に座っている竜子が、
「そうだー! 無能は去れー!」とフワーデに便乗して
腹立たしいことにこのワイバーン、何が何だか分からず困惑しているラピスの腕を取って、私に向って一緒に腕を突き上げさせている。絶対、後で泣かしてやる。
「ちょっ、ちょっと皆さん、落ち着いてください。そんな言い方したら艦長さんが混乱されてしまいますん」
この場でただ一人、不破寺さんだけが常識人であるようだった。
ちなみに、先ほど私はフワーデの前でちょこんと座っていると言った。
それはつまり、もちろん私が平野副長の膝の上に座っているということなのだが、その平野からして、フワーデと一緒に私を糾弾する側に回っている。
「そうだー! 無能な艦長は去れー!」
平野の言葉は棒読みではあるが……
「ちょ、平野!副長のお前がそんなこと言うと怖いからやめてくれ!」
この場で一番私を不安にさせたのは平野の発言であった。
「この超多忙でネコの手が幾つあっても足りないときに、遠方で緑の女性たちにチヤホヤされて遊んでいた報いです」
「何言ってるんだ! 月光基地での私ときたら、鬼神をも上回る働き振りだったんだぞ! 魔神の協力まで取り付けたんだからな! 何と言っても神様だぞ! か・み・さ・ま!」
私の必死の訴えに対し、一切表情を変えることなく平野はフワーデに指示を出した。
「フワーデ、モニタに出して」
「わかったー!」
そうして士官室のモニタ映像には、ドライアードたちに囲まれ、ちやほやされて顔面崩壊間際までニヘラ顔になっている私の姿があった。
「ちゃ、ちゃうねん……」
情勢が一気に私にとって不利な側へと傾いた。
「ちなみにこれらの映像は、松川さんとラミアの二人、白狼族と……つまり月光基地の全員から提供されています。他もご覧になられますか?」
月光基地の連中……私に恨みでもあるのかよぉ。
松川先任伍長も映像提供者となれば、さすがに文句も言いづらい。
「わ、わかった……ちょっとばかしハメを外したのは認めよう。だが、職務はきっちり果たしていたぞ!」
「そうおっしゃると思って、ここに葛西充少尉のスケジュール表を用意しました。地上で過ごすよりも、ヘリに搭乗している時間の方が長い彼の日程をご確認されますか?」
「うぐっ……そ、それは知ってる……」
「彼の数少ない楽しみは、ヘリの中で静かに行う筋トレだそうです。若い女性相手にハメを思い切りはずしている方に、葛西の頑張りについてどう思っているのか聞いてもイイですか?」
「しゅ、しゅみましぇん……」
た、確かにそれはその通り。9計画で鉄道が完成して葛西に時間ができたら、あいつをラミアパブで目一杯労ってやろう。
なんて反省している私にフワーデが追い打ちを掛ける。
「幼女なのに綺麗な女性にちやほやされると、幼女なのにセクハラオヤジの顔になるんだもの!タカツったらホント情けないったらありゃしないわ!」
フワーデ……セクハラオヤジなんて言葉をどこで覚えたんだ……。
まぁネットだろうな。
「とにかく! フワーデ・フォーをずっと無断欠勤しているタカツはもういらない子なの! ハゲなの! 無能なの! 」
フワーデがさらに私を断罪する。
って、ちょっと待てぃ! 私はハゲじゃないぞ!
なんて反論はフワーデの耳に入ることはなかった。
「タカツなんて追放よ! 代わりにラピスが新メンバーにするんだから!」
「ちょと待て! いくらなんでも子供のラピスを入れるのは反対だ!」
幼女な自分や竜子のことを差し置いて、私はフワーデの案に反対した。
当然、フワーデにはその点を突かれる。
「子供って言うなら竜子もそうだし、タカツなんてポーズ決めてるだけじゃない! 実際に戦ってるのはワタシやシンクローやドローンたちでしょ!」
「そ、それは……そうっすね……」
私はいきなり折れた。
「ラピスについては、シンイチとライラ、それにトルネラからも了解を貰ってるわ。もちろん、ワタシたちもラピスを危険にさらすつもりはない!アラクネをさらに2機を追加するし、 バックアップにラミアーズも協力してくれることになってるの!」
フワーデによると、リーコス村の新居住区に住んでいるラミアたちがフワーデ・フォーの活動をサポートしてくれることになったらしい。
そう言えば、私が月光基地に二人のラミア族を配属して以降、戦隊のひとつであるラミアーズRが活動を停止していたらしいが、何か関係があるのだろうか。
「とにかく! 決めポーズしか能のないタカツの代わりに、戦力になる頼もしいメンバーとドローンと、マスコットのラピスが入隊するの! タカツはもういらない子なの!」
「ガビィィィィン!」
衝撃を受ける私の頭に平野がそっと手を載せる。
「大丈夫です、艦長。9計画も進行中ですし、リーコス村での艦長のお仕事は、それこそ山の様にありますから」
平野の顔を見上げると、ニッコリとした笑顔の中から「絶対に逃がさない」という強く固い決意が漏れ出ていた。
私としては、一時的にフワーデ・フォーを卒業し、その後、「艦長がいないとこんなに戦隊は苦戦することになるのか!?」と誰もが実感したところを見計らって、ざまぁしようと考えていたのだが……。
「だから、大丈夫ですよ。艦長……」
平野から向けられる強大な圧に、ざまぁへの道が断たれてしまったことを確信する私だった。
さらば……
さらばドライアードのお姉さんたち……
私の瞳から一筋の涙が流れ落ちて行った。
「はーい! というわけでタカツは卒業ね!」
パチパチパチ
ちょっ! フワーデ!
それにしても周りが冷た過ぎない!?
不破寺さんでさえ、苦笑いではあるものの、小さく拍手してるし!?
ち、畜生……。
艦長の目が本気の涙で溢れた。
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