第134話 幼女の癒やし手

 とりあえずラピスが落ち着くまでは、彼女に何があったのかを聞くのは控えることになった。 


 臨床心理士の資格を持つ名塚中尉のアドバイスで、ラピスが信頼を寄せているシンイチとの時間をなるべく多くする。


 というわけで、つまるところラピスはシンイチに任せることになった。今もラピスはシンイチに抱っこされた状態で、尻尾をシンイチの体に巻き付けている。


 私はシンイチとラピスを伴なって、司令部(兼村長宅)を出る。外にはヴィルミカーラが運転する73式小型トラックが私たちの到着を待っていた。


 私は二人に車に乗り込むように指示を出す。


「村の開拓を手伝ってくれているラミア娘たちのところに行ってみよう。同族と話をすれば、ラピスの気分も少しは晴れるかもしれん」


 私の提案にシンイチが頷いて同意してくれた。


「あぁ、水道の敷設でグレイベア村から来ているフレミーたちのところですね」


 ポカンとしているラピスに向って、シンイチが語り掛ける。


「ラピスと同じラミアのお姉ちゃんたちのところへ行こう。きっとみんなラピスに優しくしてくれるはずだよ」


 ラピスはそのままシンイチの首元に顔を埋めてしまった。


「んっ……」


「大丈夫。みんな俺の友達だからね。きっとラピスの友達になってくれるはずだよ」


 シンイチがラピスの頭を数回撫でると、フルフルっと尻尾の先が振れた。


「大丈夫みたいです」

 

「そ、そうか。では行くとしよう」


 私はヴィルミカーラに目で合図を送ると、73式小型トラックがラミア女子たちのいる開墾現場に向って走り始めた。


――――――

―――


 松川先任伍長にはあらかじめラピスの事情を説明しておいたので、彼のはからいで、ラミア女子たちが食堂テントで私たちを待ってくれていた。


 テントに入る前に、私は先任伍長にお礼を言っておく。


「松川さん、作業の邪魔してしまって申し訳ない」


「なに構いませんよ。水道の方は予定よりもかなり早く進んでますから、日程にはまだ余裕があります。あの子ですか、村の入り口に一人で倒れていたというのは……」


 先任伍長が、73式小型トラックの窓から外を覗き込んでいるラピスに、一瞬だけチラッと視線を向けた。


「シンイチには心を許しているみたいだが、まだ落ち着かなくてな。何があったか聞くのは控えるよう名塚中尉に言われている」


 松川先任伍長はフムッと少し考えた後、ここに自分がいるとラピスが怖がるだろうと現場に戻っていった。


 私はシンイチたちと共にテントの中に入る。


「「「「「「キャァァァァァァァ!」」」」」」

 

 その瞬間、シンイチとラピスが6人のラミア女子に取り囲まれていた。


「シンイチさま! お久しぶりでございますぅぅ!」

「わーい! 幼女だ!」

「この子がラピス? 超カワイイんですけど!」

「ラピスちゃん、初めまして!」

「わたしソーシャだよ! お姉ちゃんって呼んでいいからね!」

「ライラ様! ライラ様はご一緒じゃないんですか?」


 ラミア女子たちが、これまでに見たことのないテンションで二人に話しかけていた。シンイチは顔を微妙に引き攣らせながら苦笑いしていた。

 

 ラピスの方はと言えば、目が丸く開かれて瞬いている。


 その表情がまたカワイイとラミア女子たちがちやほやする。手で頭を撫でるものや、尻尾で撫でるものあり。


 ラピスは最初こそ警戒していたものの、やはり同族という安心感からか、ラミア女子たちとの触れ合いにもすぐに慣れたようだった。

 

 皆でテーブルに用意されていたお菓子や飲み物を楽しんでいるうちに、いつの間にかラピスはシンイチの懐から離れ、ラミア女子たちの胸に抱かれていた。


「ラピスちゃん、小っちゃくてプニプニだー!」

「マシュマロみたいに柔らかいぃ!」


 皆から弄られるラピス。


「シンイチ様、グレイベア村にはお戻りになられないのですか?」

「洞窟前広場に、新しいパン屋を開店しましたの。ぜひライラ様とご一緒に……」

 

 シンイチも左右をラピス女子に挟まれて、その腕におっぱいを押し付けられながら話しかけられている。


 シンイチ……子どもにしかモテないとか言ってなかったか?


 この嘘つき!

 

 そして――


 艦長、ひとりでポツンとテーブルの端に座ってた。


 みんな楽しそうだなぁー。


 やっぱりシンイチは同郷だし、ラピスは同族で、色々と話がはずんだりするんだろうなー。


 ヒョイッ! パクッ!(ポテチを食べる艦長)

 ヒョイッ! パクッ!(ポテチを食べる艦長)

 ヒョイッ! パクッ!(ポテチを食べる艦長)

 コクコク!(コラ・コーラを飲む艦長)


 みんな楽しそうだなぁー。

 

「か、艦長、さ、寂しい? な、なら、わ、私がだ、抱っこし、してあげ、ようか?」


 突然、背後に怖気を感じて振り返ると、いつの間にかそこにヴィルミカーラが立って私を見下ろしていた。


「わひっ!? ヴィルミカーラか……え、遠慮しておく」


「わ、分かった」


 分かったと言ったのにも関わらず、ヴィルミカーラは私を抱き上げると、そのままテーブルに腰を掛ける。


 艦長は寂しくなくなった!


 ヴィルミカーラへの好感度が3上がった!


 その後、ラピスの笑顔を作るため、私たちも皆の会話に加わった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る