第133話 幼女マイスター
ラミア幼女の名前はラピス。
腰まで伸ばした濃紺色の髪と青い瞳を持った幼女は、美少女になり、美女になり、美魔女になることが確信できるような美人さんだ。
私たちはラピスを司令部(兼村長宅)にある医務室で怪我の治療を行った。治療が終わる頃になると、彼女のお腹の空腹音が鳴り始めたので、私たちはラピスをカフェに連れて行った。
「どうしてあんなところに倒れていたんだ?」
口の周りに生クリームを付けて、パフェと格闘していたラピスの手が止まる。
「……」※無言
ラピスが俯いてテーブルを見つめたままで止まってしまう。
しまった。今聞くべき話ではなかった。何があったにしろ、命懸けでリーコス村に辿り着いたことは、体中の傷から分かっていたことなのに。
幼女が十分に落ち着くまで待つべきだった。同じ幼女なのに気が回らなかったな。
私がどうしようかと思いあぐねていると、シンイチが膝の上のラピスの頭を優しく撫でた。
「今は思い出さないでいいからね。ほら、パフェの下にはもっと美味しいものが入ってるよ。食べないの?」
頭を撫でられて落ち着いたのか。ラピスは再びパフェとの格闘を始めた。
「ありがとう、シンイチ。助かった。それにしても子供の扱いが上手だな。あれ? もしかしてライラとの子供がいるのか?」
「あっ……いえ……その……いません」
今度はシンイチが塞ぎ込んでしまった。
「……流産……でした」
おうふっ! 大地雷を踏んでしまっていた。
「す、すまない。辛いことを思い出させてしまったな」
今度は私が塞ぎ込む。畜生、どうして私の周りには地雷ばかり埋め込まれているんだ。
落ち込む私の様子を見て、シンイチが慌てて今ではもう気持ちの整理がついているからと、一生懸命に私のフォローをしてくれた。
「そもそも子どもには何故か好かれるというか。こっちの世界に来てからは、ほとんど幼女たちの子守ばかりしてきましたから」
「そうなの? あぁ、幼女化スキル使ってたら、必然的にそうなるか」
「そうなんです。子どもにばかり好かれちゃって……。だいたいハーレム展開プランを用意してるって騙されて、いざ異世界に来たら一切そんなのなくて、ハーレムが出来たのなんてマーカスとかヴィルとかネフューとか、周りの連中ばっかですよ!」
確かに、シンイチの仲間であるマーカスやヴィルフォランド―ルの周りにいる女性たちのことを考えるとハーレムに違いない。ネフューというのは誰か知らないけど、同じようにハーレムを築いているのだろう。
パフェを完食したラピスが、大きなあくびをして、うつらうつらとフネを漕ぎ始めた。
「かなり疲れているのでしょうね」
そう言ってシンイチがラピスの頭を優しく撫でると、彼女はシンイチの体にしがみ付いてから、またうとうとし始めた。
とりあえずラピスをベッドに寝かせることにする。医務室に向うためにシンイチがラピスを抱えて立ち上がると、彼女は両腕だけでなく尻尾まで使ってシンイチにしがみ付いていた。
「シンイチはラピスにかなり気に入られたみたいだな」
「あはは。こうやって頭を撫でた子どもにはモテるんですよ。頭撫でには自信があります。これまで数えきれないくらい子どもの頭を撫でてきましたから」
ラピスの頭を撫でながら、シンイチが遠い目をして言った。
「なんだ、その言い方だと子ども以外にはモテないように聞こえるが」
そんなことはないはずだ。ラミア女子を始め、少なくともこれまで出会ったグレイベア村の者たちで、シンイチを褒めることこそはあれ、悪く言う者なんていなかった。
「モテたとしたらライラだけです。以前は、村にいる女性から『生理的に無理』とか言われてましたし……」
シンイチの目からハイライトが消えた。きっと辛い思い出があるのだろう、ここはひとつ私の心温まらないエピソードで慰めておくか。
「ハッハッハッ! そんなことなら今でも私は娘から言われてるぞ! ちなみに家庭内のヒラエルキーでは私は飼い犬より下だからな!」
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「……」※シンイチ
「……」※艦長
「ま、まぁ、人生は艱難辛苦ばかりじゃないさ。シンイチもハーレムが出来なかったからこそ、今のライラと結ばれたんだろ?」
「そ、そそうですね。艦長さんの娘さんも、きっと照れくさいんですよ。家族ってそんなものでしょ? ねっ?」
「だ、だな! ハッハッハッ!」
シンイチとの友情度が3ポイント上昇した。
ラピスを医務室のベッドに寝かせる。しばらくシンイチと二人でラピスの寝顔を眺めていると、急にその顔が苦しそうに歪み始めた。
「パパ! パパ! 逃げて!」
ラピスが叫びながら目を覚ます。そのままボーっと周囲を見回すと、顔がくしゃくしゃになって泣き始めた。よほど辛い目に会ってきたのだろう。泣き声がどんどん大きくなっていく。
泣き喚くラピスの頭をシンイチが優しく撫でる。
驚いたことに、たった数回のナデナデで、ラピスはスーッと眠ってしまった。
「シンイチ、凄いな!」
ちょっと興味が出てきたので、シンイチに頼んで、私も頭を撫でてもらうことにした。
「いいですよ」
シンイチは快く引き受けてくれた。シンイチの手が私の頭に伸びてくる。
ナデ……。
ほわぁぁぁぁ!
こ、これはまるで……天国の温泉に浸かってるかのような……。
ナデ……。
スーッ。
スーッ。
スーッ。
「ハッ!? たった2ナデで眠ってしまっただと!?」
頭撫でがこれほどの威力とは!
これならシンイチが自信を持つのも当然だ。この頭撫では、1000や2000の幼女の頭撫で到達できるような境地ではない。シンイチは、これまでにどれだけの幼女の頭をナデナデしてきたのだろうか。
まさに、幼女マイスターの名にふさわしい。
下手するとこの頭撫でスキル、幼女化スキル並みに強力かもしれん。
ナデ……。
シンイチの手が、再び私の頭を撫でたとき、私の意識は落ちた。
気が付くと、私はラピスと一緒のベッドで寝かされていた。
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