第132話 幼女ラミア
男性のラミア族を見ないのは何故なのか。
この疑問を思いついてしまって以降、私の頭からずっと離れない。
その辺の事情を聞くため、私はトルネラを士官室に呼び出した。
「もしかして蜘蛛とかカマキリみたいに、性的共食いする種族だったりするのだろうか。エッチの後に男ラミアは頭からガブリと食べられてしまうのだろうか」
私はラミア女子たちによって、かぶりつかれる自分の姿を想像して思わず身震いしてしまう。
うーん、だが食べられるのはエッチした後なんだよな。なら終わった直後に全力でダッシュすればワンチャンあるか?
「艦長様、私をお探しと聞いたのですが?」
「ひっ!」
突然、目の前にトルネラが音もなく現れたので、一瞬心臓が止まるほど驚いた。
そして、艦長、ちょっと漏らした。まぁ、いつものことだ。
「ご、ごめんなさい! 驚かせようとしたわけではないのです。 艦内では陸にいるときより音を立てないようにする習慣が身についてしまってまして……」
「あっ、あぁ、大丈夫。大丈夫なんだが、ちょっと士官室で待っててくれないか。すぐに行くから」
「わかりました。では士官室でお待ちしてますね」
ちょっとお漏らしの量が多かったので、艦長、着替えに戻ることにした。
ウーー-! ウーー-! ウーー-!
艦長室で着替えを終えた私が士官室に向かおうとしたところで、妖異軍の発見とフワーデ・フォーの出動要請が出た。
トルネラに話を聞くのは後日に回して、私は後甲板で待機しているSH-60L哨戒ヘリに乗り込む。
ヘリに搭乗すると、そこでブリーフィングが始まった。スマホにマップが表示され、インカムを通して平野副長が状況を説明する。
「A-2にある村を妖異軍小隊が攻撃しています。ドローンの映像から魔族23、妖異若しくは魔物が12、ショゴタン1体が確認されています」
こちらは、フワーデ・フォーのメンバーに加え、今回はシンイチとライラにも来てもらっている。
続く平野副長の話に、その場にいる全員にこれまでにない緊張が走る。
「警戒を厳にしてください。先行しているイタカが一機、撃墜されています!」
「なんだと!? 戦闘ドローンが?」
「巨大な蛙のような妖異が5体確認されています。迎撃に向ったイタカが、妖異に近づいた際に長い舌で絡め取られて呑み込まれました」
スマホの映像が偵察ドローンのものに切り替わる。蛙型の妖異を警戒して、かなり距離をとった位置からの映像になっている。
「未知の妖異や魔物がいる上、ドローンも落とされている。今回はフワーデ・フォーではなく、遠隔攻撃で速やかにカタを付けるとしよう」
私の話を聞いたシンイチが、
「それなら、今回は俺にやらせてください。目視できる距離まで近づいてもらえれば、ヘリからでも幼女化ビームを正確に当てられると思います。坂上さんの提案で、動くボートから対象を狙い撃つ訓練もしてますので」
「揺れる中で動く的を射抜けると?」
私の疑問に、シンイチはスマホに映った妖異軍を指差しながら言った。
「こいつら程度なら余裕です! チョー当てて見せます!」
「よし! なら頼んだぞシンイチ!」
「はい!」
ババババババババババ
「あと3分で到着します!」
ババババババババババ
―――――
―――
―
「幼女化ビィィィム!(エターナル)」
ヘリから最初に見えたのは巨大スライムのショゴタンだった。100メートル付近まで近づいた時点で、シンイチがビームを放つ。
ボンッ!
と音がして、ショゴタンが一瞬で消えてしまった。ここからは見えないがおそらく幼女化されたのだろう。
村まであと30~40メートルの距離まで近づくとシンイチが、ヘリをそれ以上進める必要がないと言ってきた。
「ここから全部狙えます!」
そう言って、シンイチは幼女化ビームを次々と放っていく。
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
ビームが命中すると妖異や魔物は、幼女となった後、一瞬でまた元の姿に戻る。元の姿に戻ったときには、もはや虫の息となっていた。
以前、シンイチから聞いたところでは、幼女化した後すぐに幼女化を解除してしまうと、急激な変化で身体に強大な負荷が掛かるのだという。
それが1秒となると、大抵は即死するらしい。
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
奇妙なことにシンイチは、建物の中やその向こう側にいる敵も正確に狙い撃っていった。
幼女化ビームが岩や壁を貫通しているのは分かるのだが、どうして見えない位置にいる敵まで性格に撃ち抜けるのだろうか。
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
「幼女化ビーム(1秒)!」
ボンッ! ボンッ!
シンイチは次々と敵を幼女化ビームで仕留めていく。
そしてついに妖異軍は壊滅した。
――――――
―――
―
残念ならが村には生きている人間は一人として残っていなかった。ここから逃げ延びた者たちが一人でもいると信じたい。
不破寺さんが、村中を回って見つけた村人の遺体を村の広場に並べてくれた。
私たちはご遺体を前に黙とうを捧げる。
インカムに平野副長からの通信が入ってきた。
「艦長、村から8キロ地点に人類軍の小隊がいました。後の処理を行ってくれるそうです」
ここから先は彼らの仕事だ。
「人類軍の小隊がこちらに向っている。死者の供養はこの国の者に任せよう」
もう少し早く到着することができていたら。
胸が苦い思いで満たされる。
遺体の中には幼い子供もいた。
両親の隣に並べてやることもできない。
……すまない。
私は深く頭を下げた後、村人たちの遺体に向って敬礼をする。
その場にいた全員が同じようにしていた。
「撤収!」
夜に沈んで行く夕日を背に、私たちは護衛艦フワデラへと帰還する。
―――――
―――
―
~ 一週間後 ~
「平野! すぐにシンイチを村の北門によこしてくれ!」
村内各所の視察を行っていた私は、北側にある村の入り口で倒れている幼女を発見した。
「おい! 大丈夫か!? 生きてるか?」
幼女の体にはあちこちに酷い傷や痣ができている。唇が乾いてひび割れており、意識も朦朧としているようだった。
私は電動オフロードバイクから降り、背中のリュックサックからスポーツドリンクを取り出して、彼女の口元に当てる。
「み、みず……」
幼女は唇に滴ったスポーツドリンクを舐めとると、ガバッと起き上がって、私の両手ごと押さえながらドリンクを飲み始めた。
「んぐっ! んっ! んぐっ! けほっ! けほっ!」
「落ち着け! ゆっくり、ゆっくりと飲め!」
幼女を介抱しているうちに、シンイチが駆けつけて来た。
「艦長! どうしたんです……その子どもは?」
「おっ、シンイチか、この子の幼女化を解除してやってくれ」
「えっ? この子ですか? 俺は幼女化してませんよ?」
シンイチによって幼女化されたものは、元々の種族の特徴を残す。
この幼女には尻尾があった。
尻尾があるこの子は、おそらくラミアかリザード系の種族だろう。
だからてっきりシンイチによって幼女化されたものだと、私は思い込んでいた。
「幼女化は、人間の子どもの体にコスプレみたいに元種族の特徴が残るだけです。こんな風にはなりません」
言われてみれば、竜子やルカ、グレイベア村にいたクマの幼女も、シンイチの言う通りのあくまでベース部分に人間の幼女だった。
だがこの子は……
下半身が蛇体のこの子は……
「……ラミア? 本物のラミアってことか?」
私の問いかけに、シンイチはゆっくりと頷いた。
ラミアの幼女がどうしてこんなところに?
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