第110話 ドラゴンクレーマー

「それでタカツ艦長、お主は幼女戦隊ドラゴンジャーのブルーとしての自覚を持っておるのかの?」


 艦長室のモニタには赤い髪と赤い瞳のドラゴン幼女が、吐く息に炎をチラつかせながらプンプンしていた。


「は、はぁ……自覚……っスか」


 私はモニタ越しで不機嫌なドラゴンを前にして、新兵だった頃の気分を噛みしめていた。


 「理不尽な怒りに黙って耐える訓練」と言う名の「上官の憂さ晴らし」に付き合わされていたあの頃を思い出すなぁ。

 

 あの後、上官の食事に下剤を一瓶入れたのは、思い返してみれば本当申し訳ないことをした。というか、90錠はあったのに気付かずに間食するなんて、あらゆるものを具材と化すカレーの力はやはり偉大だなぁ。


「ちゃんと聞いておるのか? 艦長!」


「えっ!? ハイ! しっかりと聞いているであります!」


 ルカ村長は軽く頷いた後、視線を私の隣に座っているシンイチとライラの方へと向ける。


「艦長だけじゃない。シンイチもライラもどういうことじゃ! お主らがいれば、ドラゴンジャーとしてそちらでも活動できたはずじゃろうが!」


 ドラゴン幼女の尻尾が床を叩き、モニタ越しにパシンという音が聞こえて来た。


 ソファに座っているシンイチとライラが気まずそうな顔でルカ村長を見つめている。


「それが、お主らときたら揃いも揃ってフーワデ・フォーと、勝手にユニットを組みよって! ドラゴンジャーとしての自覚が足りんのじゃ!」


 ルカの口からブワッと炎が吹き漏れる。


「ご、ごめん」

「ごめんなさい」


 シュンと縮こまる二人の背後の扉がバーンと開かれる。


「ちょっと待ったぁぁ!」


 大声を開けて入ってきたのは帝国撫子型アンドロイド・テーシャ、つまりフワーデだった。


「フワーデ!? おまっ、電子ロック解除しやがったな!?」


「タカツはちょっと黙ってて! ワタシはこのドラゴンに言いたいことがあるんだから!」


 フワーデはビシッとモニタの向こうにいるルカ村長を指で刺した。


「その話については、コンデンスミルク各種メーカー毎5箱セット計段ボール20箱で合意が成立したはずでしょ! そもそもタカツはうちの艦長だし、シンイチとライラだって今は乗組員みたいなものよ! ライラを帝国に送り届けるまで二人はワタシのところにいなきゃいけないんだから! もう二人は家族なの!」


 早口でまくし立てるフワーデにモニタの向こうにいるルカ村長が身を縮めていた。特に、フワーデからコンデンスミルク云々という言葉を聞いたシンイチが向ける冷たい視線に、凄い圧を感じているように見える。


「じゃ、じゃがのぉ……。ここ最近、ドラゴンジャーの動画更新がなくてとうとう視聴者離れが……」


 ルカ村長が急に弱気になってきている。


「それはアナタたちの努力が足りないからでしょ! だいたいドラゴンジャーもフワーデ・フォーも、タカツとライラはサブキャラなんだよ! ドラゴンジャーなら視聴者が見たいのはドラゴン幼女! フワーデ・フォーなら美少女リーダー、フワーデちゃんなの! サブ頼みのトップなんて、トップの価値なんてないわ!」


「「「ガビィィィン!」」」


 ルカ村長とシンイチ、そして私の頭上に衝撃の漫符が現れた。


「サブキャラ!?」と私

「その通りじゃ!」とルカ

「サブキャラ!? 視聴者はライラを見たがってるんだよ!」とシンイチ

「シンイチさま……」とシンイチの腕にしがみつくライラ。


「タカツもライラも、グレイべア村にいるときはドラゴンジャー、こっちにいるときはフワーデ・フォーのスポット採用でいいよねって決めたよね? ルカとこのお土産店にあるお菓子の半分は、ワタシが包装を変えて納品してるんだけど? 六本木アレマンドの濃厚チーズミルフィーユのラベル貼り替えだって、この手打ちのために引き受けたんだけど、こっちとしてはいつでもやめていいんだよ?」


 えっ? なに? 艦長の知らないところで何が進行してたの? というか、ルカ村長宅(兼温泉宿)で販売しているお菓子って、帝国のやつだったの?


「うっ……すまなかったのじゃ。最近、ルカ☆チャンネルのPVと登録者数が減ってきているので、つい焦ってしまったのじゃ」


 反省しているらしいルカを見たフワーデは快く謝罪を受け入れていた。


 だがシンイチは平野副長のよくやる氷の視線をルカ村長に向けていた。


 そして私も同じ視線をフワーデに向けた。


「ルカ! ちょっと俺と話をしようか」

「フワーデ! ちょっと私と話をしようか」


 その後、自分たちの知らないところで勝手に話を勧めていたことを、それはよくないことだよと懇々と説いていく、シンイチと私だった。


 シンイチの話を身を小さくしながら大人しく聞いて反省しているルカ。ドラゴンに説教を垂れることができるシンイチさん、マジ尊敬。


 一方、私とフワーデときたら……。


「なによ! タカツが忙しそうにしてるからフォローしてあげてるのに!」


「いや、だから事前に話をだな……」


「タカツが女湯に入ったり、ヴィルミアーシェのベッドにもぐりこんでクンカクンカしたり、白狼族女性の下着試着会を企画・実行したり、あとカトルーシャ王女の侍女の着替えを手伝ったり、色々と忙しそうだから手伝ってあげただけなのに!」


「すみませんでしたぁぁ!」


 説教しようとしたら、一瞬で土下座させられたでござる。


 とはいえ、今後、私への相談なしにまた勝手なことをされてはかなわないので、平野副長を呼んでフワーデに報告・連絡・相談の大切さを説いてもらった。


 平野の言うことならフワーデはちゃんと話を聞いていた。


 そして――


 フワーデによって、私が隠していた諸々のことが平野に報告されてしまった。


 

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