第111話 南と坂上の結婚式

 南大尉と坂上大尉の結婚式は、リーコス村の村長宅(兼司令部)で盛大に行われた。


 アシハブア王国からは王の勅使としてドルネア公が出席。彼の他にもこの機会に我々との接点を持とうとする野心的な貴族たちも参加している。


 またグレイベア村からは、フワデラ夫妻とその子供、ラミア族やコボルト族たちが出席。ルカ村長とグレイちゃんは、村を離れるわけにはいかないためお留守番だった。


 マーカス子爵領にあるミチノエキ村からは、マーカス子爵と彼のハーレムメンバー、またサキュバス姉弟が出席。


 もちろんリーコス村とフワデラ乗組員は総出である。


 貴族連中の護衛や付き人も含めれば、売れ出し絶好調なバンドのコンサート規模イベントになっていた。


 想定外に規模が大きくなってビビったのか、南と坂上の当人たちは縮こまって、あちこちでヘコヘコと頭を下げながら挨拶して回っていた。


 だが権益の駆け引き狙いのアッシハブア貴族を除けば、全員が心から若い二人の門出を祝っているのが見ていてもわかる。


 私の知らないところで、あの二人は沢山の人の信頼を得ていたのだと思うと感慨深い。もちろん、私も二人には随分助けられてきたし、今もこれからも信頼できる大事な部下であることに変わりない。


 ウーッ、ウーッ、ウーッ!


 式の準備も整い、花嫁が着替えに向かおうというときになって、会場である村長宅(兼司令部)に警報が響いた。


「北方、30kmに妖異軍部隊を発見。岩トロル4体、ショゴタン1体を率いています。部隊編成確認中……妖異兵12、15、22、23……魔族兵5、8、13……」


 突然の放送に、アシハブア王国からやって来た人々が動揺する。それ以外は、フワーデによるインターネット中継で同じ光景を何度も見たことがあるのだろう、落ち着いて我々の指示を待っていた。


「落ち着いてください。ここは安全です!」


 私は声を上げつつ、同時にドルネア公に目線で訴える。すると有難いことにドルネア公は彼の方からも王国の人々に落ち着くように訴えてくれた。


 私は戦闘配置に移ろうとする南と坂上を推しとどめ、フワーデに指示を出す。


「今回は、フワーデ・フォーで行く! 平野! 山形に主砲とトマホークの準備ができ次第、! ドローン・イタカを全て出して、すぐに掃討を始めさせろ! カメラマンはヴィルミカーラ! 放送ディレクターはヴィルミアッシュだ! 頼んだぞ! 会場の皆さんはここでお待ちください! 状況はモニタでご覧いただけますので、しばらくご歓談を!」


 バババババババババババッ!


 私が村長宅から出ると、既にSH-60L哨戒ヘリが広い庭で待っていた。


 ヘリには撮影用のカメラを構えたヴィルミカーラとフワーデが既に搭乗していた。


「シンイチ! ライラ! 急げ! お着換えはヘリにも積んでる!」

「「はいっ!」」


 ヘリが現場に到着した数分後、護衛艦フワデラからは主砲の連射が開始された。


 ドドーン! ドドーン! ドドーン! ドドーン! ドドーン!


 いつものようにいつもの感じで、ターゲットキル報告がインカムを通して入ってくる。ヴィルミアッシュの指示で放送される映像が、随時、ヘリやドローン、またヴィルミカーラの撮影したものに切り替えられる。


 後でその映像を確認したら、想像以上の演出とBGMで、一大スペクタクル映画になっていた。その時の会場の様子を黒淵補給長がスマホで撮影している。




 ~ ヘリ到着直後の映像を見た会場の反応 ~


「おぉ、あれは岩トロルではないか!? 陽が落ちてしまったらここも危ないのではないか?」

「な……あれは……災厄の魔物……深淵の膿ショゴスじゃないの? もう終わりだわ私たち! みんな死んじゃうのよ!」

「ここんなところで死ぬなんていやだぁぁぁぁ!」

「ママー!」

「今こそ、我ら王国騎士団! 命を王国に捧げるとき!」

「ぎゃー! 逃げるんだよー!」

「だから落ち着けと言っておろうが! 王国の恥さらしどもがぁぁ!」


 ドルネア公の声だけが一際大きく録音されていた。




 ~ ヘリ到着から数分後 ~


 会場の全員が呆然としてモニタに釘付けになっていた。


 そして現場に到着した私たちの姿が映し出される。


「フワーデ・フォー! この世の悪を裁きに参上よ! フォー!」とポーズを決めて叫ぶフワーデ。

「……」※私、気まずい沈黙

「……」※竜子、気まずい沈黙

「……」※ライラ、気まずい沈黙


 フワーデが決めポーズするその背後では、炎が揺らめき、あるいは煙が立ち昇る無人の平原が広がっているだけだった。


 山形の砲撃と先行していたドローンによる攻撃で、既に妖異軍は完全に壊滅していたのだ。


 私たちを撮影しているヴィルミカーラがハンドサインで「なんとか間を持たせて!」と合図を送ってくる。恐らくヴィルフォアッシュからの指示だろう。


 フワーデやシンイチ・ライラは、どうして良いのわからずあたふたするだけだった。


 ここは大人である私が何とかせねばなるまい。いや幼女だけど。


「えっ、えーっ、コホン!」


 私が何か話始めようとしているのを察して、ヴィルミカーラがカメラを向ける。おそらくズームアップされていることだろう。


「えーっ、この度は南義春くんと坂上春香さんのご結婚、まことにおめでとうございます。南くんが護衛艦フワデラに配属されて早や6年。彼とは長い付き合いとなりますが、南くんはいつでも真面目な好青年で、また坂上さんも……」


 とりあえず私は結婚式の祝辞を述べることにした!


 その後、フワーデ・フォーの他メンバーも祝辞を述べ、最後に私とシンイチで歌を歌おうという運びになった。


「えっ、乾杯人生を知らない? えっ、古過ぎ?」


 シンイチと私の両方が歌える曲をあれこれ相談した結果……


「バンザーイ! ハルカに会えてよかったぁー! このままずーっと! ずーっと! ラララランドー!」


 未だ炎と煙が昇る戦場を背後に、元帝国出身の転生少年と幼女艦長の奇妙なデュエットが響き渡った。しかもアカペラで。


 この時、モニタを見ていた南大尉と坂上大尉は滂沱の涙を流してくれていたらしい。


 なら、よかったぜ!

  

 若き二人に幸せあれ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る