アシハブア王国

第81話 マーカスの叙爵

 護衛艦フワデラ、白狼族のリーコス村、ドラゴン幼女を長とするグレイベア村は、お互いに緊密な連携を取りながら妖異軍に立ち向かっている。


 リーコス村やグレイベア村には、護衛艦フワデラから近代兵装や各種資材を提供しその近代化・要塞化を進めている最中だ。


 そうした状況から大量のEONポイントや魔鉱石が日々消費され続けていくこともあり、私たちは積極的に妖異を狩ったり、女神クエストをこなし、新たな魔鉱石の鉱床を探し続けている。


 私の主な任務である幼女戦隊ドラゴンジャーは、ドラゴン幼女ルカをリーダー・レッドとして妖異軍に立ち向かう遊撃隊だ。


 その主たる目的は、ドラゴン幼女ルカが首元にぶら下げている賢者の石の存在を、妖異軍にアピールすること。これは悪魔勇者がとても執着している貴重かつ希少な石だ。


 この石がどのような力があるのかよく分からないが、死者を蘇らせるほどの超回復力を持っている石らしい。


 どんだけRPGやねん! とツッコミたいところだが、実際にタヌァカ氏の妻であるライラさんが石の力を実証している……らしい。


 彼女は右目に賢者の石を埋め込んでいたおかげで、悪魔勇者によって殺されたのを石の力で命を繋ぎ止めることができているのだとか。


 ただ実際に私はその場面を目撃していないので、そのまま信じることはできないでいる。


 ただ、悪魔勇者の執着振りを見る限り、賢者の石にはそれくらいの力があっても不思議ではないとも思う。


 ともあれ、私たちは賢者の石をチラつかせながら、毎日のように妖異狩りを続けている。


「そうして皆さんが妖異狩りを続けてくださったことで、結果として王国が妖異軍から守られているという状況でして」


 グレイベア村の村長宅旅館で、コボルト村の復興状況についてタヌァカ氏とルカに報告していたステファン氏が、そっと立派な書状を二人に差し出す。


 ステファン氏は金髪碧眼のハリウッド系の優男。マーカスがマッチョ系ハリウッドだとすると、ステファン氏はラブロマンス系ハリウッドだ。


 貴族である彼は、その額に深く刻まれた刀傷と左の義手がなければ、社交の場では淑女たちがホイホイ集まってくる、淑女ホイホイになっていたに違いない。


 詳しいことは知らないが、色々あって痛い目にあったところをタヌァカ氏に救われ、それ以降、タヌァカ氏のために人生を捧げているらしい。


 まぁ、人間なら誰しも色々あるんだろう。聞かないけど。


「それがどうしたのじゃ? 王国が褒賞金でも支払ってくれるのか?」


 ルカの言葉を聞いたステファン氏が大きく頷いた。


「そうなんです! お金ではないのですが、王国がマーカス・ロイドを子爵に叙爵すると……」


「なんじゃと!?」


 と、とりあえず驚いて見せるドラゴン幼女ルカ。だけど、かなりどうでもよさげ。


「そういや、男爵だったよね?」


 と、思い出すタヌァカ氏。


「えっ、俺がどうした? どうしたって?」


 と、会議に全然興味がなくビールを飲んでいたのに、自分の名前が出て来た途端にしゃしゃり出てくるマーカス。


「ですから、子爵になったんですよ。マーカス・ロイド子爵に!」

 と優しく繰り返すステファン。


 照れ隠しなのか「また出世しちゃったか」とわざとらしく頭を掻くマーカスにステファンが


「なのでマーカスには、叙爵式に出席するために王都まで出向いて頂くことになります」


「それは……楽しみだな。貴族の礼儀作法はさっぱりわからんから、ステファンが付いて来てくれるんだろ?」


 マーカスの問いに、ステファン氏がタヌァカ氏の方を向いて確認を取る。


「うちで本物の貴族はステファンしかいないんだ。忙しいとこ申し訳ないけどマーカスのサポートを頼むよ」


「わかりました。ルカ様の金貨がまだ沢山残っていますので、精々お金をバラまいて王国のご機嫌を取ってきます」


「お願い」


 どうやらタヌァカ氏の許可が得られたようだ。私は、マーカス氏が子爵になることで、グレイベア村にどんな影響があるのかステファン氏に尋ねてみた。


「現在の男爵だと一代限りの爵位になりますが、子爵だと代々受け継いでいくことができます。グレイべア村とコボルト村は、今のところ王国からは秘匿されているので、一代限りの男爵よりは子爵の方が色々と都合が良いのは確かですね」


 なるほど。だが、いつまでも村の存在を隠しておけるものだろうか。


「マーカス領には、もうひとつミチノエキ村という人間と亜人だけが暮らす村があります。このミチノエキ村が二つの村へ向かう道を塞いでいます。まぁ、それもいつまで持つかと言うことではありますが」


 いずれ二つの村の存在が王国に気付かれた際に、すんなり受け入れられるよう、ステファンは定期的に王都に出向いて王侯貴族にお金をバラ撒いて政治工作を進めているようだ。


 こうしてマーカスは叙爵式に出席するために、ステファンとヴィルフォランドールを連れて王都へと出向いていった。


 後にタヌァカ氏から聞いたところによると、この三人の最初の出会いは最悪だったらしい。その後、なんやかんや色々あって、今ではとても深い信頼関係になっているのだとか。


 まぁ、人間なら誰しも色々あるんだろう。聞かないけど。


 マーカス氏が男爵から子爵になることで、私たちに影響があったとすれば……


 王都に出向いたマーカスが一カ月ほど留守だと聞いて、平野がようやくグレイベア村に足を運び、温泉休暇を楽しんだことくらいか。


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