第71話 幼女化解除

 私がタヌァカ氏と話をすることができたのは、村中上げての宴会が落ち着いてきた翌日の夕刻だった。


「タカツ艦長が、マーカスとヴィルを連れ帰ってくれたのですよね。本当にありがとうございました。それと護衛艦の皆様には幼女化で大変ご迷惑をおかけいたしました」


 そう言ってタヌァカ氏は、私たちに向って深々と頭を下げる。


 異世界でチート能力を有し、戦場で無双しまくっているという事前情報から、もしかすると対応に困るような性格の持ち主であるかもしれないと、私は少なからず不安を抱いていた。


 だが、タヌァカ氏は普通の好青年だった。


 私は南大尉と坂上大尉を伴って、現在シンイチとライラの部屋に訪問している。私たちの目の前にはタヌァカ氏と幼女が座っていた。


「お互いタイミングが悪かっただけの事故ですから。私たちは気にしていませんよ。それに今のところは負傷者も出ていません」


 負傷者という言葉を聞いてタヌァカ氏は驚き、何度も申し訳ないと頭を下げた。その後、顔を上げたタヌァカ氏が私の後ろにいる南大尉に目を向ける。


「後ろの子も、あの戦場で幼女化された護衛艦の方ですか?」


「そうです。南と言います」


「あの、南さんの幼女化を解除しても?」


 私が返事をする前に坂上大尉がタヌァカ氏に「ぜひお願いします」と申し出た。目で確認してきたタヌァカ氏に私は頷く。


「では……【幼女化解除】!」


 ボフンッ!


 と煙が立ち昇って南大尉を包む。


 ファサッと音がして地面に服が落ちると、消えゆく煙の中から、帝国海軍水陸機動隊 南大尉その人が本来の姿で立っていた。


「艦長! 俺、元の姿に戻りましたよ!」


「南大尉! まず前を隠せ!」


 南大尉はフルチンだった。


 タヌァカ氏が両手で隣に座っている幼女の目を塞ぐ。


 坂上大尉が素早くヘルメットを脱いで、南大尉の股間に押し当てる。


「艦長、ヘルメットの新調を申請します」


「許可する。そのメットは南大尉にくれてやれ」


 その後、南大尉には坂上大尉が旅館から借りて来た浴衣を着せた。


「南大尉、身体に変調はないか?」


「全くありません。どちらかと言えば前より健康になったような気さえします」


「それは良かった」


 私はタヌァカ氏の方に向き直る。


「ではタヌァカさん、私を含め、後48名の水陸機動隊も幼女化を解除していただけますか?」


「……」


 なんで返事しないのタナァカさん!?


 危機感に満ちた私の視線に気が付いたタヌァカ氏が、慌てて手を振りながら返答する。


「も、もちろん、皆さんの幼女化は解除させていただきます。ただ……」


「ただ?」


「実は俺……私からもお願いしたいことがあるんです。あの、俺……から説明するとすぐには信じて貰えないかもしれないので、フワーデさんから聞いてもらって良いですか?」


「フワーデに?」


 何故、タヌァカ氏がフワーデのことを知っているのだろう? 私が南大尉と坂上大尉に視線を向けるが、二人とも話していないと首を振った。不破寺さんや他の乗組員クルーの誰かが話したのだろうか。


 かな~しみ~の~♪ むこ~へと~♪ るるる~るるる~るる~♪


 突然、私のスマホに着信が入る。誰だ勝手に着信音を変えたのは。


「やっほー! タカツ! シンイチのお願いについてはワタシが説明するよー!」


 私はスマホに映し出されたフワーデが他の面々にも見えるよう、目の前のテーブルに立てかける。


「先に結論から行くよ! シンイチのお願いはね、ライラちゃんを帝国に連れてって欲しいってこと。その代わり、私たちが帝国に戻れるように力を貸してくれるんだって! それでね、シンイチは凄いんだよ! こうビューッてビーム出したり、ぼわわん!って近くにいるみんなを子供に変えたり、それでね、えっとね、あのね……」


「フ、フワーデさん!? 少し私に説明を代わっていただいて良いですか?」


「わかったー! お願いね、ココロチン!」


 スマホの映像が、フワーデからメガネをかけた少女に変わる。地味な風を装っているが、よくよく見ると百年に一度系の美人さんである。


「えっ!? ココロチン!? ココロチンなの!?」


 私よりも何故かタナァカ氏が驚いていた。知り合いなのだろうか。ココロチンと呼ばれた女性は、慌てるタナァカ氏をスルーして説明を続ける。


「まずそちらにいる田中さんのお隣にいる幼女、ライラさんは危篤状態で幼女化されています。つまり、幼女化を解除すると死んでしまうかもしれない状態にあるのです」


 ライラと呼ばれた幼女に顔を向けると、彼女は私にニッコリと笑顔を返してきた。こうしてみる限りは健康に何も問題なさそうに見える。


 だが幼女化に至る経緯を聞くと話は全く違った。ココロチンの話によると、彼女は悪魔勇者によってその命を一度奪われかけている。


 実際は奪われたのかもしれない。


 だが彼女の右目に埋め込まれている賢者の石の奇跡によって、髪の毛一本の細い糸で命が繋ぎ止められている状態にあるのだとか。


「彼女に帝国での治療を受けさせたいということでしょうか?」


 私の質問にココロチンは静かに首を振った。


「いいえ。それでは彼女の命を救うことはできません。彼女には天上界の転移技術を使って帝国で三年間生活していただいた後、またこの世界に戻ってもらいます。詳細は天上界の規定で話すことはできませんが、この転移による往復で彼女の身体を回復させることができるとご理解ください」


 そこで少し間をおいてから、再びココロチンが話を続ける。


「そして彼女を帝国に送るために必要な条件が女神クエストです」


「女神クエスト!? それって……」


 異世界に転移することができる報酬を伴う女神クエストと言えば、私にはひとつ心当たりがある。


「悪魔勇者の討伐……」


 スマホの向こうでココロチンがゆっくりと頷く。


「悪魔勇者を倒して帝国へ戻りたい護衛艦フワデラの皆様と、私たちの目的は同じなのですよ」


 こうして――


 私たち護衛艦フワデラとタナァカ氏は共に悪魔勇者に立ち向かうことで合意した。


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