第70話 タヌァカの帰還

 グレイベア村はこれまで何度も魔王軍による侵攻を受けているが、その全てを撃退してきた。


 それが可能となった最大の理由は、この村の村長であるルカが、魔物の頂点たる最強のドラゴンであるからだ。


 しかし理由はそれだけではない。この村にはルカの他にも強力な守り手たちが存在しているのだ。


「それがグレイベアのグレイちゃん、鬼人族のフワデラさん、そしてハチさんたち四天王なのですん!」


 マモノナルド グレイベア村店(仮)で、かなり再現度の高いモノノフバーガーを頬張りながら、私は不破寺さんの話を聞いていた。


「(真九郎様! ハチじゃなくてシュモネーです!)」


「(あっ、そうでしたん!)」


 不破寺さんの隣に座っている銀髪の女性が小声で不破寺さんに何事か呟いている。すると不破寺さんはコホンッと咳払いした後、改めて私の前に座っている三人を紹介してくれた。


「こちらのカワイイ女の子さんが、グレイベアことグレイちゃんですん。本当は山のように大きな熊さんなのですが、今はルカちゃんに手伝ってもらって人間の女の子の姿になっていますん」


「よろしくクマー!」


 やっぱり語尾はそれかいっ!


 と心の中で突っ込んだ少女は、小学校高学年くらいで、その灰色の頭髪の上にはクマ耳があった。不破寺さんが言う通り、ルカに手伝ってもらわないと自分自身では変化することができないらしい。


 他の二人についても不破寺さんの紹介が続く。


「こちらの鬼人族の方がフワデラさんですん。こっちの世界にも不破寺がいたのでびっくりですん。ただ名前は漢字ではないみたいですし、剣筋も違ってましたので、私たちの世界とは別のようですん」


 大柄の鬼人が私の方に軽く頷いた。


「そして、この美しい銀色の髪の女性がハチ……じゃなくって、シュモネーさんですん! 彼女は古大陸でミスリル級冒険者をされていますですん。ファッション雑誌のモデルさんのような細身に見えますが、実は凄く強いのですよん! そして彼女はフワデラさんの奥様ですん! カワイイお子様が三人もいらっしゃいますですよん!」


 銀髪女性が美しいオレンジ色の瞳を私に向けて頷いた。一通りの挨拶を終えた私たちは、食事を再開しながら不破寺さんの話を聞く。


「このグレイベア四天王が村に襲い来る魔王軍を何度も追い払ったのですん」


「しかし、不破寺さん。もぐもぐ。それだと一人足りないのでは? もぐもぐ」


「四人目は現在募集中ですん!」


「そうですか。もぐもぐ」


 四天王のうち鬼人族の男は確かに強そうだった。身体は不破寺さんよりひとまわり大きい。仮に不破寺さんと同等かそれ以上の力を持つとすれば、相当の戦力になるのは間違いない。


 他の二人は見た目からはどうにも判断することができないな。


 だが見た目だけで強さを図るのが危険な世界であることは重々承知している。ミライだって、あのカワイイメイドさんの見た目でかなりの強さだったからな。


 その後の会話で、フワデラ氏が魔王候補者で――というか魔王たる証を示す王の指輪所持者であることに驚き、シュモネーさんが新大陸では沢山の著作を持つ冒険作家で、ガドアの村で読んだ案内の巻物も彼女が書いたものであることがわかって驚いたり、賢者の石をこの村に持ち込んだのが彼女であることがわかって、さらに驚くハメになる。


 だがこの日、というかここ最近、というかここにきて一番驚いたのは――


「大変だ! 大変だよ!」


 白狼族のヴィルフォランドールが私たちのところへ飛び込んで来た。


「兄ちゃんが戻って来た!」


 私を除くその場の全員が、ガタッと音を立てて腰を浮かせる。


 何だろう? この人たちにとって懐かしい人でも帰って来たのだろうか。


 兄ちゃんと呼ぶからには男なのだろう。ならどうでもいいか……。


 ヴィルフォランドールが兄と呼ぶ人物か……


 どうでもよくねぇぇぇ!


「タヌァカ氏が戻ったのか!?」


 ヴィルフォランドールが頷くのを待つ間もなく、私たちは全員で村長宅へと走り出していた。




~ タヌァカの帰還 ~


 村長宅にある「シンイチとライラの部屋」にあるベッドの上には、栗毛のカワイイ幼女がスヤスヤと眠りについていた。


 その傍らに腰かけて、幼女の頭を優しく撫でる青年。帝国でよくみる黒髪黒目の若者。おそらく彼こそがタヌァカ氏なのだろう。ルカやマーカスを始め、沢山の人たちがタヌァカ氏の傍に集まっていた。


「みんな……ただいま……」


 その瞬間、その場が大きな歓喜に包まれた。


「シンイチ! よかった! 生きておったのじゃな!」


「坊主! 一人前の顔になってるじゃねーか! クソッ! イイ男になりやがってよ!」


「シンイチくん! シンイチくんだぁぁ! うわぁぁぁぁん!」


「シンイチ! モドッタ! ウレシイ! トテモオオキクウレシイ!」


「あぁ、ライラ様……幼女のライラ様マジ天使です!」


 等々……


 感動の再会を邪魔しないよう、私は静かに退出した。落ち着いたらタヌァカ氏とゆっくり話す機会はいくらでもあるだろう。


 部屋を出たところで、私は思わぬ人物と再会した。


「「タカツ様!?」」


「えっと……ホドリスとミカエラ?」


 それはイザラス村の北方人。


 以前、私たちと共に古代神殿を探索した二人だった。


 彼らから話を聞いたところによると、タヌァカ氏がライラを連れてイザラス村に現れたということだった。二人は妖異軍の目をかいくぐって、古代神殿を目指していたらしい。


 イザラス村についた時、二人はもうズタボロで歩くのもやっとという状態だったそうだ。タヌァカ氏のことは村人全員が知っていたので、二人はすぐに保護された。


 村人から手厚い看護を受けて回復したタヌァカ氏は、ホドリスとミカエラを伴って古代神殿にある拠点から転送スキルでグレイベア村に戻ってきたということだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る