第69話 温泉回!?
グレイベア村の村長ルカの歓待を受けた私は、そのまま一週間近く村に滞在することになってしまった。
宴会の翌日にはフワーデが通信中継器を積んだドローンの配置が完了し、ネットワーク環境が利用できるようになる。
さらにその翌日には、グレイベア村の人々もフワーデの運営する疑似インターネットサービスを使えるようになっていた。
これでテレワークが可能になったので、ついつい私は村長宅(ほぼ旅館)でのんびり過ごしてしまったのだ。
どこから湯を引いているのか、温泉まである!
卓球台とかカラオケルームもあった!
何よりお布団がふっかふか!
超リラックス!
「それで、ずっと遊び惚けているというわけですか? 艦内で休みなく勤務についている我々を差し置いて……」
平野の操作する猟犬型ドローン「ティンダロス」がカメラを私に向ける。スピーカーから聞こえてくる平野の声は……かなり不機嫌だった。やばい。
「い、いやいやいやいや、情報収集だよ! ヒューミント! この村はタヌァカ氏によってかなり帝国に近い状況が再現されている。私はルカ村長や住人たちから情報を集めているんだ。決して遊んでいるわけではない!」
タブレットに映る平野の目がスッと細くなる。
「あっ、朝方に出発した資材班にみんなへのお土産も持って行ってもらったから! 平野や各科長には、旅館……じゃなかった村長宅のお土産店で買ったお菓子もあるから! 『ライラの手作りアップルパイ』ってのがな、これすっごく美味いの! 帝都でもそうそうないくらいだ! これみんなの分あるから!」
「……」
「えっ……と、何か返事して!? 応答して!?」
「……温泉……」
「はっ!? へっ!?」
「温泉に入りたいです」
タブレットに映る平野の背後で、士官室にいる他の面々が一斉に声を上げ始めた。
「わたしも入りたいー!」
「俺も入りたい! 艦長だけ温泉回ってうらやまし過ぎる!」
「温泉! 温泉! 温泉!」
「混浴! 混浴! 混浴!」
結局、私はローテーション制で
~ 温泉会議 ~
「ぷはぁぁぁ! 癒されるぅぅ!」
グレイベア村の村長宅(旅館)にある温泉で、私は肩までお湯につかって完全に身体をリラックスさせていた。おっと危ない。緩み過ぎて思わず尿意まで解放してしまうところだった。
「わらわは構わんぞ! もちろん料金はきっちり頂くがの?」
えっ!? いいのか!?
「一度に大人数で来られても対応しきれんから、ある程度人数は絞ってもらうぞ。まぁ、この旅館以外にも寝泊りできる場所はあるから、とりあえず観光したいということであれば全員で来てもらってもかまわぬ」
旅館の話だった。
「それじゃ、ユキナがここに来た時には俺が彼女にサービスするとしよう」
「やめてください。そろそろ血を見そうで怖いです」
私の隣で同じく湯に浸かっているマーカスが言った。
「艦長さんってのも色々大変なんだなー」
同じく一緒に湯船でリラックスしているヴィルフォランドールが、あまり大変そうに思っていなさそうな声を上げる。
一見すると危ない構図に見えなくもないが、ドラゴンのルカを除けばここにいるのはおっさんだけである。
まぁ第三者が見たら、親子が仲良く風呂に入っているような絵面だ。ヴィルフォランドールは年の離れた兄妹というところか。
そう。親子や年の離れた兄妹なら問題ない。問題ないから
不破寺さん入ってこないかなー……
などと考えつつ、私は何気なく温泉の由来について尋ねてみることにした。
「それにしても温泉があるなんて驚きました。この近くに火山でもあるんですか?」
「火山はないな」
「ほぉ、ではこのお湯はどこから?」
「村に引いた水をわらわが沸かしておるのじゃ」
「うーん?」
「わらわが沸かしておるのじゃ」
「「「えーっ!?」」」
私だけでなく、マーカスとヴィルフォランドールも一緒に驚いていた。お前らも知らんかったんかーい!
「何でおぬしらまで驚いておるんじゃ?」
ルカも同じことを思ったらしい。
「いや、驚くだろ! お前にそんなことできたっけ? 幼女じゃなかったのか?」
「凄いね! ルカちゃん! いつの間にそんなことができるようになってたの!?」
ルカが「コイツ何言ってんだ?」と首を傾げる。少しして何か気づいたのか、ポンッと両手を打った。
「そうか、わらわがドラゴンに戻ったとき、おぬしらは古大陸にいたんじゃの」
「「ドラゴンに戻った!?」」
「うむ。シンイチに幼女にされてからきっかり1年後に元に戻ったぞ」
三人の会話から分かったことは、タヌァカ氏のスキルで幼女にされたドラゴンに時間の経過による幼女化解除が発動したということだった。ドラゴンに戻ったルカは、今度は自らの能力で幼女に変身したということらしい。
タヌァカ氏のスキルで幼女化された場合、本当にただの幼女になってしまうが、自分で変化したルカはドラゴン幼女。
つまりドラゴンの能力をそのまま使うことができる幼女だった。
「定期的に地下にある貯水層で水を沸騰させてな。それをここに汲み上げておるというわけじゃ」
ルカがつるぺたの胸を張って、満面のドヤ顔をする。
なんだか幼女として負けた気がして、
私はちょっと悔しかった。
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