グレイベア村
第68話 ようこそグレイベア村
護衛艦フワデラが不在の間、リーコス村は特に魔族の襲撃を受けることもなく平和を謳歌していたようだった。
「二度ほど魔族軍の小隊が村に接近してこようとしたのですが、60式106mm無反動砲をお見舞いして終わりです」
ヴィルフォアッシュが73式小型トラックを運転しながら、村近くの丘に設置されたトーチカを指差す。彼はいつの間にか運転ができる様になっていた。
ちなみにヴィルミアーシェさんも練習して、今では普通に乗りこなせるようになっているらしい。
ヴィルフォアッシュに村の各所を案内された私はその変化に驚嘆していた。
村の周囲にコンクリートの防御壁が構築されつつあり、同じく建物が砲撃にも耐えそうなほど強化され、さらには簡易な埠頭まで作ろうとしていた。
「本当に要塞になりつつあるな」
「えぇ、火山灰や石灰はグレイベア村を通じて人類軍から幾らでも調達できますからね」
他に必要となる原料は、魔力転換炉を使って入手することができているらしい。
「フワデラの皆さんのおかげです。私たちはコンクリートを作る知識も技術も持っていませんから」
「我々がここに来なければ、魔族軍に狙われることもなかったかもしれない」
岩石旅団を派手に全滅させたことによって、間違いなく魔族軍はこの村を危険であると認識したはずだ。いずれ大軍を以てこの村に攻め入ってくるかもしれない。
そんな私の不安を読み取ったヴィルフォアッシュがハハッと大声で笑う。
「皆さんがいらっしゃらなければ、この村は海賊に蹂躙され、みんな奴隷にになるか、若しくは死んでいましたよ。それに今は人魔大戦の真っただ中。白狼族のこの村だけがずっと平和でいられるわけがありません。それに――」
トラックが最も高い位置にあるトーチカに到着する。このトーチカには大きな無線アンテナが立てられていた。
「タカツ殿、このリーコス村は恐らく大陸随一の難攻不落の要塞になりつつあります。皆さんのおかげです。私たちは皆さんに感謝しかありませんよ」
「そうか……」
私が頷くと、ヴィルフォアッシュがトーチカ内に案内して、その中にある無線機のマイクを私に手渡す。
「さぁ、どうぞ。グレイベア村との通信ができます」
「はぁ!?」
護衛艦フワデラの不在中、いつの間にかグレイベア村とリーコス村間で無線通信ができるようになっていた。
「こちらグレイベア村どうぞ!」
無線からは坂上大尉の声が聞こえて来た。
~ グレイベア村 ~
その日のうちに、私はヴィルフォアッシュを伴ってグレイベア村に直行した。ヘリがグレイベア村の広場に着陸すると坂上大尉たちが出迎えに来てくれた。
「グレイベア村長のルカ殿が村長宅でお待ちです。こちらへ……」
「あっ、あぁ、わかった」
私は半ば呆然としつつ、坂上大尉に先導されながらグレイベア村の中を歩いて行く。何故、呆然としているかと言えば、グレイベア村があまりにも近代的だったからだ。
村の大通りは平らに磨かれた石が敷き詰められており、細い道も砂利で整備されている。その道を様々な種族が行き来している。
マウンテンバイクに乗ったリザードマンが目の前を走り去っていったときは、かなりカルチャーショックを受けた。
よく見てみるとグレイベアにある全ての家の屋根には太陽光パネルが設置されており、さらにアンテナまで立っている。
坂上が指差した村長宅は、村で一番大きな建物で、そのすぐ後ろにある山の頂上にはリーコス村にあるのと変わらない大きさの無線アンテナが建てられていた。
「なんじゃこりゃ!?」
私が思わず声を上げてしまったのを見て坂上大尉が
「私も最初は同じような反応でしたよ。でも驚くのはまだ早いですから」
彼女の言う通りだった。
村長宅の中は、日本の旅館のような作りになっていた。受付カウンターやお土産店まである。
「グレイベア村へようこそ!」
そう言って出迎えてくれたスタッフが獣成分が高めの犬獣人でなければ、ここが帝国の観光地だと言われても気付かないかもしれない。
「タカツ様でございますね。こちらへどうぞ」
「ど、どうも……」
和服姿の犬の獣人はそのお尻部分の切れ目から尻尾が飛び出していた。それを目出つつ後を付いていくと、獣人は「竜華の間」と札が掛けられたところで膝をついた。
「ルカ様、タカツ様をご案内いたしました」
「うむ! お通しするがよいぞ!」
獣人がスッと障子が開くと、そこには不破寺さんとヴィルミカーラ、鬼人らしき男と銀髪の美女、そして――
「おぉ、おぬしがタカツか! 確かに幼女じゃの!」
竜子に似たドラゴン幼女がいた。
「お互いシンイチにしてやられた者同士、仲良くしようではないか!」
とりあえず一献と、グレイベア村の村長でドラゴン幼女のルカが盃を勧めてくるので、幼女だから酒が飲めないと断ると、
「なに、わらわもたいがい酒好きじゃが、幼女の身体では楽しめんことは承知しておる。安心するがいい、これは甘酒じゃ」
「い、頂きます」
美味い! 甘酒美味い!
こうして会合の前の宴席が始まり、私は甘酒をかなりお代わりして酔っぱらってしまった。
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