第60話 王都急行

「うぉぉぉぉ! こいつは凄い! 凄い! 高いぞ! 早いぞ! これならあっと言う間に王都に着きそうだなタカツ殿!」


 先ほどから白髪のおっさんがSH-60L哨戒ヘリの窓から外を覗いて大はしゃぎしている。


 間もなく初老にも差し掛かろうというおっさんが、子供のように目をキラキラさせているのはなかなか愉快な景色ではある。


「いつもの威厳を振り捨てて、楽しそうにされるガラムさまもステキですぅ!」


 ガラムの隣ではミライが目にハートマークを浮かばせていた。


 そんなミライを見て私は嫉妬に囚われそうになるが、白髪男が無邪気にはしゃぐ様子を見ていると、そんな気持ちはすぐに消えてしまった。


「あと30分ほどで到着です! 事前の打ち合わせた場所で降りるので、そこからの案内を頼みます!」


「なんと! そんなに早く到着するのか!? そいつは凄い! 凄いぞ! タカツ殿! 案内の方は任せておいてくれ! それにしても早いな! 高いな! タカツ殿ぉぉ!」


 段々、おっさんがうざくなってきた。


 とはいえロイド子爵が王都にいる娘に紹介状をしたためてから、僅か20分後には異世界の魔法鳥に乗っているなんて体験をしているのだ。おっさんがはしゃぐ気持ちもわからなくない。


 インカムに平野の通信が入る。

  

「王都にヘリを飛ばすなんて目立ち過ぎではないですか? 下手すると大きな騒ぎになりかねません」


 それは確かに平野の言う通りだ。だが二つの大陸で同時に発生している大きな戦争と、その背後にいるらしき悪魔勇者の存在が、私の中で大きな警報を発し続けている。


 時間がない。


 昨日から、そんな思いが頭からずっと離れないのだ。


「マーカスたちを回収したらすぐに古大陸を出てリーコス村に戻る。二度とここに戻ることはないだろうし、多少の騒ぎになったとしても問題はない。とにかく今はスピード重視でいく」


「わかりました。それと王都までの中継ドローンの配置が完了しました。ヘリに搭載中のイタカとティンダロスをこちらで制御可能です」


 平野の報告を聞いて、私は座席の背後に積んであるドローンを目で確認する。私の視線の先を見たガラムが喰いついてきた。


「なぁタカツ殿、ミライから聞いたのだがこの大きな盾が空を飛ぶと言うのは本当なのか? いや疑っているわけじゃないんだが、どのように飛ぶのか見てみたい。この脚が着いた箱は自分で歩くのか? この車輪のついた仔馬みたいなのはどうやって動くのだ?」


 うるせぇ! やかましいわ!


 という言葉をぐっと吞み込んで私は大人の対応をする。


「間もなくご覧いただけますよ」


 その後も留まることのないガラムの質問と、はしゃぐガラムにうっとりとした視線を向けるミライに、私はイライラMAX状態をキープさせられたまま、ヘリは目的地に到着した。


 ヘリは王都からかなり離れた人気のない場所に着陸。


 ヘリは私たちを降ろすとフワデラへ戻って行った。私たちの移動に合わせてフワデラも移動しているので、戻りは短時間で迎えに来ることができるはずだ。 


 私たちはここから王都まで私以外は徒歩で向う。ちなみに私はお子様用電動オフロードバイクでの移動だ。


「どうした青峰・ 相模! もう息が上がってるぞ! それでも帝国軍人か! ガラムさんとミライを見習え! 」


 1時間も歩くと情けないことに我が帝国海軍の兵士たちが疲れを見せ始めた。基本装備に加え、私の電動バイクの予備バッテリーも持っているのだから重いのは仕方ないかもしれない。


 だがガラムも剣を二本も下げているし、ミライだって大きなリュックを背中に背負っている。


「ほら頑張れ! 訓練時代を思い出せば頑張れる! こっちの冒険者に海軍魂を見せてやれ!」


 私は二人の周囲を纏わりつくように電動バイクを走らせながら、そう激を飛ばす。二人が恨みがましい視線を向けるが気にしない。いや、だってガラムもミライも息さえ切らしてないんだぞ!


「はい、ガラムさま。そろそろポーションをどうぞ」


「すまんな。相変わらずミライは気が利くな。きっと良いお嫁さんになるぞ」


「本当ですかー! 嬉しいですー!」


 二人はそんな話しをしながら小瓶を口に当てて何かを飲み干した。一瞬、彼らの身体がうっすらと輝き、それから歩く速度が上がる。


「ハァハァ。い、今のはな、何ですか? ハァハァ」


 相模がミライに尋ねる。


「体力回復ポーションですよ。それにしてもお二人は凄いですね。そんな大荷物を背負ってるのに、ポーションなしでこんな山道をずっと休まず歩けるなんて、凄いです」


 青峰と相模が恨みがましい視線を私に向けるが、き、気にしない……。


「ミライちゃん、悪いけど二人にも体力回復ポーションを分けてやってくれないか」

「いいですよー」


 ポーションのおかげで二人の足取りが急に軽くなったが、私たちが王都についたときには既に陽が落ち始めていた。


 王都についた私たちはガラムに馬車を手配してもらい、ロイド子爵の子息が通っている学校の貴族寮へ向かうことにする。


「えっと、みなさんをどちらまでお送りすればよろしいので?」

 

 御者がガラムに行き先を訪ねる。


「少し遠いが、勇者支援学校エ・ダジーマの貴族寮まで頼む」


 これから向かう学校に何となく帝国臭がしたのは、私の気のせいだったのだろうか。


 気のせいだな。


 うん。


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