第51話 コボルトとラミアと海賊

 平野に尋問を任せてから1時間後、魔族軍士官たちは恐らく全ての情報を洗いざらい吐いていた。


 尋問の間、彼らは何度も嘘を付いていたようだが、その度に土岐川二等水兵が「チョー受けるぅぅ!」と尋問対象を特定するので無駄に終わっていた。


 竜人たちは最初のうち驚愕していたようだが、後半はわざと嘘をついて平野を怒らせていたような気がする。


「このクソトカゲ、また私に嘘をつきましたね」


 怒りと侮蔑に顔を歪める平野の顔を見て恍惚としている竜人たちは、たしか不破寺さんと剣戟を交わしていた猛者のはず……。


「申し訳ございません! この愚かな豚に女王様のお仕置きをくださいませぇぇぇ」


「私にもお鞭を! お鞭を!」


「おみ足で踏んでくださいぃぃぃ!」


 顔を紅潮させて懇願する竜人たちに私は超ドン引きする。こんな風には絶対になりたくない! なるまい! と心に固い誓いを立てずにはいられない。


 平野が三人に脅しを掛ける。


「たしかにお仕置きが必要みたいですね。誰をこの鞭の餌食にしましょうか?」


「「「「はいぃぃ!」」」」


 一斉に返事した竜人たちが、地面に這いつくばったまま平野ににじり寄ってきた。


 そんな彼らに平野はご褒美……じゃなかった侮蔑の視線を強める。


 そして、平野が私の方に振り向いて――


「艦長は手を降ろしてください」


 と言って私にジト目を向けてきた。


 自分が無意識のうちにご褒美希望者に立候補していたことに気が付いて、私は慌てて手を降ろす。


「もしかして鞭に値する何かお心当たりがあるのですか?」


「ちゃ、ちゃうねん……」


 と、とにかく!

 

 平野と土岐川のスキルのおかげで、尋問は予定していたより早く終了したのであった。




~ コボルト ~


 魔族軍士官の尋問を終えた私たちは、その足でリーコス村に保護されたコボルトに会いに行く。


 コボルトは村長宅の隣にあるヴィルミアーシェの家で匿われていた。


「タカツ様! お帰りなさい!」


 ヴィルミアーシェは私の姿を見るや否やハグしてきた。彼女の尻尾がブンブンと振れている。


 私も久々にヴィルミアーシェの首元に顔を埋めてのクンカクンカを堪能することができた。


「ハッ! 失礼しました! タカツ様は男性の方なのでした!」


 ヴィルミアーシェは私からバッと身体を放し、顔を真っ赤にしたまま何度も頭を下げる。


 私としてはあと5分くらいはクンカクンカさせて欲しかったのだが、あえて要求することなく笑顔で「大丈夫ですよ」と答えるに留めた。


 何せ後ろに平野が立っているからな。

 

 さっきから平野の視線が後頭部に突き刺さって痛いのだ。


「こちらに皆さんがコボルトを保護していると聞いたのですが、少し事情を聴きたいと思いまして」


「はい。皆さん居間にいらっしゃいますよ。タカツ様にお礼を言いたいとおっしゃっていましたので、ちょうど良かったです」


 皆さん?


 一人ではなかったのか。


 ヴィルミアーシェによって居間へ案内された私たちは、予想しなかった光景に驚かされる。


「タカツ様、こちらがコボルト族のロコさん、ラミア族のトルネラさん、それと……」


 ヴィルミアーシェの視線を受け、栗毛の長身イケメン男が私の前に進み出る。


「元海賊のタクスだ! 元海賊な! よろしく!」


 私はこの思わぬ面子に戸惑っていた。


 コボルトだけでも珍しいのに、そのうえラミアだと!? 元海賊の方は知らん。どうでもいい。

 

 赤毛をポニーテールにしたラミアは切れ長の美しい瞳を私に向けて、優雅にお辞儀をする。


 目鼻立ちのハッキリした褐色系美人だ。それになんといっても――


 巨乳だ! バンザイ!


 ビキニアーマーとシルクのように滑らかな腰布を纏った姿は、まるでベリーダンスの踊り子のようにも見える。まぁ下半身は蛇そのものだが。


 しかしそれよりなにより彼女は――


 ハミ乳だ! バンザイ!


 豊満過ぎるラミアの乳はビキニアーマーに収まり切れるものではなく、下乳がたっぷりとハミ出していて超エロい。


 数秒後、私は鉄の意志でハミ乳から目を放す。ラミアは微笑みながら細くて長い舌をチロチロと出し入れしていた。


「あなた方が、魔族軍を追い払ってくださったそうですね。心より感謝を」


「い、いやぁ……どういたしましてぇ」


 私が照れ隠しで頭を掻きながら振り向くと、両腕を組んだ平野が鋭い眼光を発しながら私を見下していた。


「ひっ!」


 私は思わず悲鳴を上げる。平野の視線はスキルを発動していない本気の見下しのようだった。


「お、おれ、ロコ。コボルト村のロコ。おれたちと、この村、守ってくれて、ありがと。いっぱいありがと」


 小柄な犬の獣人コボルトが、私に向ってペコリと頭を下げる。


「あっ、いや、どういたしまして」


 何度もお礼を繰り返すコボルトに私は少し戸惑っていた。元海賊を名乗るイケメン男は別として、このコボルトやラミアは魔族ではないのかと。

 

 私の表情を見て察したラミアが説明してくれた。


「魔族というのは部族や種族の独立心が強く、人間のように統一された行動を取ることは殆どありません。今回の戦争も全ての魔族が参加しているわけではなく、中立だったり、人類軍に付くものも多いのです」


「なるほど。それでは皆さんは人間側に付いていると?」


「私たちは本来中立で争いそのものに反対です。ただ此度の戦争で魔族軍に妖異と手を組んだため、今の私たちは人類軍を支援する立場です」


 彼らの話によると、魔族軍は賢者の石と呼ばれる貴重な魔石を求めて、大陸各地に旅団を派遣していたらしい。


 その旅団のひとつはタヌァカのいるコボルト村に赴き、身体に賢者の石を埋め込まれた少女を拉致した後にドラン大平原へ向かった。


 ロコを始めとするコボルト村の住人は、戦場となった村を脱出してトルネラたちの住むグレイベア村へ身を寄せた。


 コボルト村を襲撃した旅団が去った後、グレイベア村の近くにいた岩石旅団が賢者の石がグレイベア村にもあるという情報を得て村を襲撃。


 しかし村人たちの抵抗によって、激しい戦いが繰り広げられることになる。そんな中、ロコとトルネラとタクスが岩石旅団に捕えられてしまう。


 その後、悪魔勇者敗退の知らせを受けた旅団は村の攻略を中止して、急遽ドラン大平原へ転進する。


 その混乱に紛れ、三人は魔族軍から脱出し――色々あって――今に至っている。


「そういや、奴らはこの村を陸と海の両方から攻めて壊滅させるつもりだったみたいだぜ。だけど、まさかアンタらが岩トロルの軍団を全滅させちまうとは思いもしなかったんだろうな」


 元海賊のタクスが、魔族軍から抜け出す前に魔族兵から聞いた情報を話してくれた。


 それによると魔族軍は海賊にリーコス村を襲わせて占領した後、海賊船と海の妖異の力を使い、ドラン高原を海路で目指す予定だったらしい。


 海賊と海の妖異……。

 

 どうやら我々は知らないうちに魔族軍の手を悉く封じていたようだった。

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