第50話 踏んでください! 女王様!
~ リーコス村 ~
私たちは村長宅にある地下貯蔵庫で敵士官の尋問を行うことにした。
尋問用に片付けられた地下部屋は裸電球ひとつで照らされているだけで薄暗い。中央には椅子が三つ並んでおり、三人の竜人が手錠をされた状態で座っていた。
私が平野と土岐川を伴って地下部屋に入ると、先に竜人の尋問を始めていたヴィルフォアッシュと坂上大尉が立ち上がる。
「艦長、この三人が魔族軍の士官です」
坂上大尉が私に敬礼するのを見た魔族の三人が一瞬目を見開く。こんなガキが敵軍の将?とか思ってるんだろうな。気持ちはわかる。
私は捕虜の三人に敬礼をして自己紹介する。
「帝国海軍大佐、護衛艦フワデラ艦長タカツだ。魔族軍士官である君たちを可能な限りの敬意を以て処遇することを約束する。ただ私はご覧の通り子供なのでね。尋問の間の拘束は許してもらいたい」
竜人の三人は私の話を聞いて困惑していたが、真ん中に座っている最も大柄な竜人が、いち早くこの状況を受け入れて返答する。
「セイジュウ神聖帝国東方攻略軍、岩石旅団百人隊長スクルト=ドラゴ。他の二人は俺の部下だ。それにしても俺たちのことを魔族軍と言ってる時点で敬意を欠いているとは思わないか、嬢ちゃん?」
「それは失礼した。私たちはこの大陸の事情に疎くてね。この戦争についても関わるつもりはなかったのだが、この村には恩義があって、襲われているのを見過ごすわけには行かなかった……」
「何を言う! 最初に襲ってきたのはお前たちの方だろうが!」
「んっ?」
竜人スクルトの言葉を聞いて首を傾げる私に、ヴィルフォアッシュが事情を説明してくれた。
「こいつらが捉えていたコボルト族が脱走。リーコス村に辿り着いたコボルトを保護しようとした村人と追ってきた魔族軍の間で、最初の戦闘が行われたようです」
「そうだ! お前たちがコボルトを素直に引き渡せば戦闘にはならなかった!」
スクルトが怒鳴る。
「コボルト族というのを私たちは知らないのだが、そのコボルトの件が無ければこの村を襲うことはなかったということか?」
「……」※沈黙
スクルトの目に一瞬動揺が走るのが見えた。岩トロルや巨大アメーバのような妖異を引き連れておいて、途中にある敵地の村々を平穏に通り過ぎるとは思えない。
「岩トロルと言ったか……アレを使って村を蹂躙しようとしてたんじゃないのか?」
「……」※沈黙
「岩石旅団の目的は何だ? どうしてこの村を狙った?」
「……」※沈黙
「コボルトを捕虜にしたのはいつだ? 何故捕虜にした?」
「……」※沈黙
「何も答えないつもりか?」
「……」※沈黙
以降も、スクルトと二人の部下は質問に対して全て沈黙した。まぁ、当然だろう。軍人として立派な態度ではある。
「はぁ……仕方ない。この方法はなるべく使いたくはなかったのだが……」
「なっ、何をするつもりだ! 我々は拷問には屈しないぞ!」
拷問なんてするか。苦痛に耐える誇り高い軍人なんて演じさせるわけないだろう。
私は捕虜たちから数歩下がって平野に顔を向ける。
「平野……任せた」
「任されました」
平野が前に出て、非常に不機嫌そうな表情でスクルトを見下ろした。
「な、なんだ女! 俺に拷問するつもりか? 捕虜に対する拷問は大陸戦争条約で……」
「黙れっ! 喋るなこの豚!」
「はっ!?」
スクルトが固まる。
「……あっ、いや俺は竜人族であってオークではないぞ。お前たちはそんな常識もないのか? いったいどこから……」
ビシッ!
「ひっ!?」
平野が無言で鞭を地面に放つ。
えっ、鞭なんて持ってたの?
しかもその鞭は、1本のロープを長くしたよく見るタイプのものではなく、一本の取っ手に何本ものヒモが纏められている見た目が変態っぽいやつだ。
あれで平野にお尻をぶたれたい。
あれ? 私は今何を考えた?
「私の許可なく喋るなと言ったのです。わかりましたか? この豚」
スクルトの目の前で平野が再び鞭を放つ。
ビシッ!
「「はひっ!」」
思わずスクルトと一緒に返事をしてしまった私に、平野がチラッと視線を送る。邪魔をするなということだろう。ごめんなちゃい。
平野はスクルトに向き直って、再び強烈に不機嫌そうな表情で見下ろした。
一見すると何事も起こっていないようにも見えるが、私には平野のスキル【見下し好感度UP】がスクルトに直撃しているのがわかる。
スクルトの全身が細かく震えていた。私にはその感覚がわかる。
わかるぞスクルト!
震えるスクルトに向って平野がスッと半歩右足を前に出す。
「えっ? えっ? えっ?」
スクルトは平野の意図を理解することができず、ますます混乱し始めた。
彼は意味がわからず戸惑っているのだろうが、私には平野女王様の意図が一発でわかったぞ! なぜ女王様がスカート制服とヒールでここに来たのか。
その御足で踏んでいただけるなんて、うらやましいぞスクルト!
あれ? 私は今何を考えた?
「ジィィィィィ」
「えっ? えっ? えっ?」
平野の蔑む視線と迷子の子供のようなスクルトの視線がぶつかり合う。
「ジィィィィィ」
「えっ? えっ? えっ?」
時間が過ぎるほどに平野の蔑み視線パワーが増幅し、スクルトが追い詰められていく。
「ジィィィィィ」
「えっ? えっ?」
たかが人間の女に威圧されているのがよほど悔しいのか、スクルトの顔が段々と赤く染まっていく。
「ジィィィィィ」
「えっ?」
たかが人間の女に威圧されているのがよほど嬉しいのか、スクルトの顔が真っ赤に染まる。
「ジィィィィィ」
「あっ!」
突然、スクルトの顔がパアッと明るくなった。何かに気が付いたような、長年のもやもやが晴れたかのようなスッキリとした笑顔だった。
スクルトは拘束されたままの状態で椅子から立ち上がり……。
平野の前に膝を屈して頭を地面に押し付けながら、
「踏んでください! 女王様!」
うらやましい!
……じゃなかった、とんでもないことを言いやがった!
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