第52話 幼女から元に戻る方法

 私たちはヴィルミアーシェ宅で夜遅くまで会合を続けた。


 ロコとトルネラ、タクスの三人から得られる情報は、全てが興味深いものばかりだった。


 夕食が終わって以降はフワーデも現れて彼らとの会話に加わった。フワーデはコボルト族のロコが大層お気に入りのようで、ずっとロコと話し込んでいる。


「ふーん、そのシンイチって人がタカツを幼女にした人で間違いないのね?」


「シンイチ、何でもヨウジョにできる。凄い。強い」


 二人の会話を聞いていた平野が私の方に顔を向ける。


「シンイチ・タヌァカ……もしかして田中シンイチという名前なのでしょうか。だとしたら……」


「帝国の人間である可能性がますます高まってきたな」


 頷き合う私と平野を見て、金髪イケメンチャラ男の元海賊タクスが納得したように語り出す。


「なるほど! 艦長さんはシンイチ様に幼女にされたってわけね。あんな大きな船の船長が子供なんておかしいと思ってたよ」


「タヌァカという人物は、大軍も一度に幼女化できてしまうほどの力を持っているのか?」


「大軍ってのがどれくらいの数を言ってるのかわからねぇけど、コボルト村で戦ったときには4~50人くらいまとめて幼女にしてたぜ」


 私が幼女にされたときは戦場をペンキで塗り替えていくほどの勢いだった。一度に50人どころの数ではなかったはずだ。


 そのことを口にするとタクスが首を振りながら答えた。


「それもありえない話じゃない。シンイチ様のスキルはレベルが上がるごとにその能力を飛躍的に高めてきたって聞いてる。そしてそのスキルを上げる方法は、沢山の数を幼女化することだ。今はどこもかしこも戦争中だろ? あちこちの戦場で幼女化し続けていたとしたら、今頃はどれほどの力になっていることか」


 納得した私はもうひとつ大事なことをタクスに尋ねる。


「タヌァカ氏は、幼女になった者を元に戻すことができるのだろうか?」


「俺が聞いた限りじゃ、時間が経過しない限り元に戻らないって言ってたぜ」


「時間?」


「幼女になっている時間さ。一瞬で元に戻ることもあれば、数年くらい掛るときもあるみたいだぜ?」


 私は絶望した。


 私が幼女になる直前に耳にした声は確か……


『アルティメットエターナル幼女ぉぉぉぉ!』


 これって永遠に幼女ってこと? 永遠にこのまま!? マジ!?


 そりゃ幼女でいること自体はそれほど悪いものでもないとは思うよ?


  簡易銭湯の女湯に入っても「艦長だめですよ!めっ!」って叱られるだけで一緒のお風呂に入れるし、なんなら身体も洗ってもらえるし。艦内の移動もそこらにいる乗組員クルーを捕まえてお願いすれば、目的地まで抱っこして運んでもらえるし。平野以外の女性乗組員クルーなら胸やお尻を触っても笑って許してもらえるし。


 でもね! でもね!


 さすがに永遠ってのはマズイ! このままじゃ帝国に帰れない!


 もし帰れたとしても、このままじゃ色々と不都合満載なの! 


「そう言えば、スキルレベルが上がれば、幼女を元に戻せるようになるとタヌァカ様はおっしゃっていました。ただ、そのレベルに至るのは非常に大変だということでしたが」


 顔面蒼白になっている私に慌てたトルネラがそんなことを言った。


「そ、そうなの? よ、よよ良かった~」


 安心するあまり椅子から転げ落ちそうになった私を平野が支えてくれる。私はそのまま平野に飛びついて彼女の胸に顔を埋めた。


「艦長、それセクハラですよ」


「ちょっとだけ……」


 平野は私が落ち着くまで黙って頭を撫でてくれた。


 それで、その日の会合はお開きとなった。




~ 翌日 ~


 翌日、またヴィルミアーシェさん宅で会合を再開。今回は不破寺さんとその背中にしがみついている竜子も参加する。


 不破寺さんと竜子をロコたちに紹介すると、彼らは一斉に驚きの声を上げた。


「「「鬼人!?」」」

 

 トルネラが竜子を指差して追加で驚く。


「後ろにいるのはドラゴン……いえワイバーンですね?」


「ほら平野、やはり見る人がみたらワイバーンだって分かるんだよ。竜子よりワイバーン子の方がよかったんじゃね?」


「竜子は竜子です」


 竜子が不破寺さんから降りて平野の方へ走り寄っていく。そして平野に抱き上げられた竜子は私に向ってアッカンベーした。それだけではない! 悪態まで吐きやがったのだ!


「そもそもさー? 竜子は竜子じゃん? 竜子も気に入ってるっしょ? なのにワイバーン子とかwww タカツのセンスってゲロダサ草生える!」


 こいつ! いつのまに言葉が堪能に!?


 しかも妙な言葉遣いしやがって、一体誰が教えたんだ?


「竜子ちゃん! ゲロダサとか言っちゃ駄目ですよん!」


「だって、TeikokuTockで流行ってるんだもん! こうやって中指を立てながらゲロダサって言うんだよ」


「竜子ちゃん! そんなことしちゃ駄目ですん!」


 竜子の言うTeikokuTockは乗組員クルーの間で流行っているスマホ向け動画サービスだ。

 

 女神クエストで海獣を倒したことにより、ネットワーク機能が強化されたフワーデは、帝国世界にあった主要なインターネットサービスを疑似的に再現して運営するようになった。


 TeikokuTockもフワーデが再現したサービスのひとつだ。

 

 あくまでフワーデの通信可能範囲に限定されるが、スマホやPCを開けば帝国世界にあったSNSや動画投稿サイトが利用できる。


 ただし、あくまでこちらの世界にいる乗組員クルーやスマホを所持している白狼族たちが閲覧や投稿をしているだけだ。帝国世界のネットとはリンクしてはいない。


 サービスが開始されてから未だひと月も経っていないが、既にネットのコンテンツはかなり充実しているらしい。ライブ配信を始めている乗組員クルーもいるようだ。


「竜子ちゃん! ネットの情報を鵜呑みにしていたら『情弱はこれだから』とか言われちゃいますよん! 釣られた竜子ちゃんを見て『こいつはメシウマw』とか拡散されちゃったらどうするのですかん! そんな竜子タソが艦ネラーたちに晒されるのはいやなのですよん! 常考! 」


「真九郎、ごめんなさい。ゲロダサダンスを投稿したらみんなから『キュンです』とか言われて竜子は調子に乗ってたかも」


「分かればいいのですよん。ちゃんと反省もできて竜子はとっても偉いのですん。3150サイコーなのですん」


 私には、不破寺さんが弐ちゃんネラーらしいこと以外、交わされる話の内容がわからなかった。まぁ、とりあえず不破寺さんが竜子の面倒をキチンと見てくれているようで安心――


 できるか!


 後で平野にネットの利用状況を詳しく調査させ、必要とあれば検閲を入れてやる!


 そう心に固く誓いを立てる私だったが、とりあえず今はロコたちと話を進めなくては。


 彼らは不破寺さんを見てすぐに鬼人だと看破した。詳しく話を聞いてみると、グレイベア村にも鬼人がいるらしい。


 その鬼人の名前はフワデラ。


 魔王たる証を持つ者だということだった。


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