第47話 蹂躙の魔族軍(←される側)
リーコス村を横切る街道沿いに居座る魔族軍。その中で間違いなく最大戦力であるだろう岩トロルに対して、フワーデの操るアラクネの攻撃が決まる。
「トロルに着弾……ターゲットキルです!」
アラクネが軽MAT(01式軽対戦車誘導弾)を岩トロルに発射するのを確認していた飛行長からの報告が上がる。
私の正面にあるモニタに送られてきた映像には、岩トロルの足だけが残されている様子が映し出されていた。
「これは……死んだということで良いんだよな?」
「ええ、間違いありません。私たちが岩トロルを狩るときも、ここまで破壊することはありませんから」
私の隣に立っていたヴィルフォアッシュが映像を見て驚いていた。
飛行ドローンが撮影している魔族軍の本陣では、陣の中央にある大きな天幕に魔族の連中が慌てて駆け込む様子が見える。これは、かなりの揺さぶりを掛けられたということだろう。
「岩トロルは艦砲射撃でも対応可能ということだな。平野、全乗組員と村人をリーコス村に撤収させてくれ。フワーデはその支援に回れ」
「了!」
「わかったー!」
平野副長とフワーデの返事を聞いた私は、ふと不破寺さんのことを思いだした。そういえば彼女や竜子はどこに?
「イタカ隊、不破寺さんがどこにいるか確認してくれ!」
「了!」
「山形! リーコス村への撤収が終了次第、岩トロル7体を主砲で破壊する。すぐに撃てるように準備してくれ」
「了! めっためたに壊してやります!」
「頼んだ」
その後、しばらくしてから飛行長が、街道沿いの森の中で魔物と戦闘中の不破寺さんを発見。
「艦長! 不破寺さんを発見! B-3の森林地帯で複数の魔物と交戦中です!」
「ドローンか誰か乗組員を支援に向かわせられるか?」
「今、撮影中のドローンなら……ただ捜索用で準備したので軽装備です」
「それでもいいから不破寺さんに我々の到着を知らせて撤収させろ。後は敵の前をぶんぶん飛んで邪魔して、最悪そのドローンは落ちても構わん!」
「了!」
飛行ドローンの映像から、不破寺さんが3体の魔物と戦闘している様子が映し出される。縦横無尽に立ち回る不破寺さんの背中には竜子が必死の形相でしがみ付いていた。
三体の魔物は竜人と思われる亜人種で、いずれも腕の立つ戦士のようだった。海賊相手に無敵の働きをした不破寺さんを相手に、それなりに戦えているように見える。
ただ森を上から俯瞰すると、他の魔族軍の兵士が不破寺さんを仕留めるべく接近しつつあるのが見てとれる。
このままではいずれ不破寺さんが追い詰められる側に回ることは間違いないだろう。
バババッ!
飛行ドローンから機銃掃射が行なわれる様子が映しだされる。命中こそしなかったが、三体の竜人は警戒のために大きく後ろに下がる。
「不破寺さん! 護衛艦が戻りました! お急ぎ村に撤収してください! お二人が戻り次第、魔族軍を殲滅します!」
飛行ドローンのスピーカーから飛行長の声が響く。
不破寺さんは飛行ドローンに向って大きく手をふると、そのまま竜人達に背を向けて村に向って突進し始める。
「待て! 鬼人! そのワイバーンを置いて行け!」
竜人たちが一斉に不破寺さんの後を追おうとするが、飛行ドローンが短い掃射を繰り返して彼らを足止めする。
森を抜けた不破寺さんが街道に走り出ると、撤収中の乗組員や村人たちと合流。そこに飛行ドローンやティンダロス隊、そしてフワーデのアラクネが彼らの援護に回った。
「艦長! 岩トロルへのターゲットロックオンが完了しました」
山形砲雷長の報告が入る。
「あと、本陣にも3発ほどお見舞いしてやれ」
「そちらの方はロックオン済みです」
「よし、全員が村に戻ったら撃つぞ」
「了!」
山形砲雷長の声が少し緊張しているのが伝わってきた。私も緊張していた。
不破寺さんと戦っていた竜人は、確かに人間ではなかったが言葉を話していた。古代神殿で出会った化け物とは違い、今回の魔物の多くは明らかに人に近い存在だ。
胃に重たいものが伸し掛かる気がする。この攻撃を以って我々は魔族軍と完全に敵対することになる。彼らは我々の同胞を襲ってきたのだから、反撃することにためらいはない。
それに海で襲ってきた海獣といい、古代神殿の化け物といい、あれらが魔族側ということであれば、我々は人類側に付く。
だから……一切合切躊躇なく……
モニタには竜子を背負った不破寺さんが村の中へ入る様子が映し出されていた。村の入り口をアラクネとドローン隊が固める。
「艦長、不破寺さんが村に入りました。これで全員です」
艦橋の平野副長から報告が入る。
私は一呼吸を置いて山形砲雷長に指示を出す。
「主砲……撃て!」
「了! 目標、魔族軍本陣及び岩トロル7体、主砲発射!」
ドンッ!
護衛艦フワデラの62口径5インチ単装砲が火を噴く。
まず魔族軍本陣の中央に弾着。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
単装砲は一発毎に照準を補正し、次々と目標を破壊していく。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
CICのモニタには、岩トロルたちが次々と破壊されていく様子が映し出されていた。
ドンッ!
ドンッ!
最後の二発が再度魔族軍本陣に弾着。
「全弾命中!全ターゲットキル!」
山形砲雷長の報告と共に……
魔族軍は完全に沈黙した。
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