第46話 水陸両用多脚型戦闘ドローン「アラクネ」
リーコス村に急行したヘリからは村の近辺で激しい戦闘が行われている様子が送られて来た。
フワーデの映像解析によって、魔族軍が南方面から侵攻していることと本隊の位置を把握することができた。
「これが魔族軍の旗みたい」
そう言ってフワーデがCICのモニタに映し出したのは、暗い赤紫色をベースに歪んだ白い円から六本のトゲが飛び出しているシンプルな紋様だ。
なんとなくドローンのアラクネを想起させる。
「これより着陸! ドローン隊を降ろした後、負傷者を回収します!}
飛行長の報告と同時にヘリから送られてくる映像が激しく乱れる中、村の各所から負傷者がヘリに向って運ばれてくる様子が映し出されていた。
「よし! ティンダロス隊! イタカ隊! アラクネ! 起動!」
「「了!」」
「わかったー!」
CICのモニタに村と周辺のマップが表示される。各ドローンの起動報告と共に、マップ上に小さな点が表示される。
水色がティンダロス、黄がイタカ、白がアラクネ、そして緑の点がフワデラの
「イタカ隊、索敵開始! 敵と村人の位置を知らせ!」
「「「「了!」」」」
数秒後、マップ上に赤い点と点滅する緑の点が次々と表示されていく。戦闘中の
「T2番機! D-5にいる斎藤に弾薬を運んでくれ!T3、4番機はA-4の戦闘支援!」
砲雷長の指示が飛ぶ。
「I3! C-2で村人が負傷! アラクネを向かわせるからその間、敵が近づかないように支援!」
イタカ隊に指示を出した飛行長が私に顔を向けた。私は頷きつつフワーデの方を見る。
「 フワーデ! C-2行けるか!」
「行けるよー!」
「では行ってこい!」
「わかったー!」
そのとき艦橋から連絡を受けた平野副長が、ようやくフワデラが村に近づきつつあることを報告する。
「艦長、あと10分で主砲の射程に入ります」
「今からターゲットを決める。射程内に入ったらすぐに撃て」
「了!」
私は飛行長に指示し、2機の飛行ドローンを戦場の撮影に回した。私はCICのモニタを目を皿のようにして観察する。
魔族軍本隊の様子が映し出されていた。
「アレが魔族か……」
「緑色の肌……いわゆるゴブリンというものでしょうか。あの性格の悪い犬みたいなのは犬男?」
「面白いけど、それコボルトな」
「はぁ」
ゲームなどとはほぼ無縁の平野副長が推測した通り、魔族軍の多くがいわゆるゴブリンやコボルトで構成されていた。ただ他にも異形の存在も沢山確認された。
特に目を引くのが本陣を囲むように立っている巨大な岩の巨人たちだ。背中を丸めた状態なので、これが背を伸ばしたらさらに大きい姿を見せるのだろう。
「それにしても……この岩の巨人は動いていないようだが?」
「それ【岩トロル】だよ! 図鑑によると昼間は動けないんだって!」
私の疑問にフワーデが無線を通じて回答してくる。
「なるほど。白狼族に詳しく聞いてみるから、フワーデは村人の救出に注力してくれ」
「わかったー!」
「平野、白狼族の二人をここに呼んでくれ。あとミライも。魔族に付いてのアドバイスが欲しい」
「了」
~ 岩トロル ~
CICに白狼族の二人とミライが到着すると、私は魔物たちについて彼らの情報提供を求める。
三人とも元冒険者ということもあって、映像で確認できる全ての魔物について何らかの知識を持っているようだった。
ヴィルフォアッシュは実際に岩トロルと戦ったことがあるらしい。
「岩トロルはその名の通り非常に固い皮膚を持っています。剣や槍といった通常の武器は通じません。彼らを倒すにはまず楔を打ってそこにハンマーを何度も叩き込むしかありません」
「それ普通に岩を砕く作業だな」
「奴らは夜になると機敏に動くことができるようになります。逆に陽の当たる処では緩慢で、ほとんど動くことができません」
なるほど、それで今はただ突っ立っているように見えるのか。
「おそらく魔族軍は陽が落ちるのを待っているのでしょう。夜になったら岩トロルを先頭に立てて村を襲ってくるつもりだと思います」
ヴィルフォアッシュの推測に続けて、ヴィルミカーラが岩トロルの恐ろしさを強調する。
「よ、夜の……と、トロルはむ、無敵……そ、そのま、前に倒さない、いと……」
「この映像で見る限り8体確認できますね」
平野副長がオペレーターに指示すると、戦場の俯瞰映像内の岩トロルのいる場所にマーカーが表示された。
「こいつらが艦砲射撃のターゲットということになるな。その前にアラクネの兵装が通じるか試してみるか。フワーデ! 状況報告!」
「負傷者を運び終わったよ!」
「よし、そこから南西にいる岩の巨人に|軽MATで攻撃!」
「わかったー!」
フワーデの操るアラクネを飛行ドローンが撮影する。
この水陸両用多脚型戦闘ドローンには帝国が改良を加えた軽MAT(01式軽対戦車誘導弾)が二門装備されている。これは必要に応じて歩兵が使えるように取り外しも可能だ。
局地制圧支援を目的に開発されたアラクネは、帝国で人気のSF漫画作家にデザインを依頼していることもあって、外観はその作品内に登場する同型のAI戦車に似ている。
一応、モニタ内のアラクネのボディの下部に小さい文字でコピーライト表示がされているので問題ない。
はずだ。
「それじゃ行っくよー!」
そうこうしているうちに、アラクネが岩トロルをその射程内に捉えた。
CICの2つのモニタに、アラクネから送られてくる映像と、飛行ドローンから送られてくる俯瞰映像が表示される。
「発射ァぁぁ!」
フワーデの声と同時に、岩トロルに向って軽MATが発射された。
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