第45話 魔族の侵攻

 護衛艦フワデラはリーコス村に向って海上を順調に進んでいる。


 天候にも恵まれて、のんびりとした時間が続き、私は艦内の空気がやや緩くなっているのを肌で感じていた。


 私が甲板に出てみると、休憩時間に入った乗組員たちが体を動かしていた。フワーデがその先頭に立って何かのエクササイズをしている。


 しばらく様子を眺めた後、次に私は格納庫へ向かった。今回、ビックマート業務スーパーから初めて弾薬が届くので、自分の目で確認しておきたかったのだ。


 途中、通り過ぎた食堂では、これまた休憩組が携帯ゲーム機を持ち寄って遊んでいた。


「ちょっ! フワーデさん、そんな動けるなんてチートしてませんか!?」


「してないよ! 相模がスタミナ管理下手なだけでしょー! 変な言いがかりつけるとBANしちゃうから!」


「ひぃぃぃ、すんません!」


 フワーデを見ると、その手には携帯ゲーム機が握られていた。どうやらフワーデもゲームに混ざっているらしい。


「まぁ、楽しそうで何よりだな」


 そのまま格納庫へ移動する。格納庫に入る扉を開くと、大音量の音楽が私の耳を急襲してきた。


「みんなー! 元気ぃぃ!」


「「「うぉぉぉ! ゲンキゲンキィ!」」」


 格納庫に入った私はフワーデがライブを開いている場面に出くわす。


 えらく喧しいと思ったらお前か! またお前か!


「「「フワーデちゅわぁぁん!」」」


 フワーデの前では6人の男と2人の幼女が、何やら絶叫しつつ奇妙な踊りを繰り広げていた。


「フッ、フッ、フワーデ! フワーデちゅわぁぁん!」


 その中で一番激しく踊っているのが山形砲雷長だった。


「まぁ……あいつらが幸せならそれでいいか」


 私が生暖かい目を山形に向けていると、インカムに平野副長から通信が入ってきた。


「艦長、間もなくリーコス村との通信が回復します」


「わかった。すぐ艦橋に戻る」


 この10分後、艦内の緩やかな時間は一転する。




~ 艦橋 ~


 艦橋に戻った私は、クッションを重ねた椅子に腰かけて海を眺めつつ、通信の再開を待っていた。


「艦長、通信回線開きます」


 橋本船務長の声と共に、スピーカーからノイズ音が聞こえてくる。


「……ち……ら……中……」


 まだ相手側の声がよく聞き取れないが、この時点で艦橋にいる全員に緊張が走る。その途切れるわずかな声にタダならぬ気配が感じられたからだ。


「どうした!? 何があった!」


「……と……闘中!……」


 スピーカーの声がより大きく響く。


「こちらリーコス! 魔族軍と交戦中! 至急支援願います!」


「わかった! 詳しく状況を話せ!」


 私が平野副長に視線をやると、彼女は受話器を取り艦内放送で全乗組員に通達する。


「リーコス村にて戦闘発生! 総員戦闘準備! 」


 その瞬間、艦内の空気が一斉に変わるのを私は肌で感じていた。


「タカツ! 何があったの!?」


 慌てた様子でフワーデが目の前に現れた。銀髪を振り乱して不安そうな様子のフワーデを見つめながら、私は東雲機関長に連絡を入れる。


「リーコス村で戦闘が発生しているらしい。機関長! 最大戦速で向えるか?」


「メンテは万全! 問題なしだよ!」


 私は目の前でオロオロするフワーデに声を掛ける。


「フワーデ! リーコス村が襲われている! 全力で救出に向かうぞ!」


「わかった!」


「平野、全速力でリーコス村に向かう」


「了! 進路そのまま、最大船速!」


 拳を握ったフワーデが空中でジタバタ駆け足を始める。


「思いっきりで行っくよー!」


「頼む!」


 私は椅子から降りるとCICに向う。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ウィィィィィン。


 足元から護衛艦フワデラのエンジンが唸る音が響いていた。




~ CIC ~


 平野副長と船務長は艦橋に残り、リーコス村との通信を継続。それ以外の各科長をCICに集めてこれからの対応について話し合う。


 インカムから平野副長の声が聞こえてきた。


「艦長、現在リーコス村は少なくとも200体と見積もられる魔物と交戦中とのことです。さらに後方に本隊と思われる大部隊が接近しており、おそらく2時間後には村へ到着するものと考えられます」


「被害状況は? 損耗は出ているか?」


「村人に不明者が出ているようです。残存部隊も弾薬が尽きかけていて、このままでは損耗が発生するのは時間の問題かと」


 私は思わず爪を噛んだ。敵の数が多すぎる上に相手は魔物。もっと兵力を置いておくべきだったと今更ながらに後悔していた。ここは異世界、慎重に慎重を重ねるべきだったのだ。


「あと三十分で主砲による支援が可能です!」


 山形砲雷長の声に、私はハッと我に返った。とにかく今は反省している場合ではない。


「すぐに準備にかかってくれ。それと先にヘリを向かわせる。ドローンを積めるだけ積んで行くから、射撃員の編成も頼む」


「了!」

 

 山形が砲雷科に指示を飛ばし始める中、フワーデがいきなり私の目の前に現れた。

 

「タカツ! アレも載せってって!」


「アレ……って、もしかして筐体のことか?」


「違う! アラクネちゃんだよ!」


 水陸両用多脚型戦闘ドローン【アラクネ】


 その名の通りクモの形をした対人・対戦車・対ドローン用兵器。この護衛艦フワデラに積んでいるのはその試験機だ。


「それを積むと他のドローンが半分以下になるが……」


「お願い! アラクネならどんな強い敵がいても戦えるの!」


 それに誘導弾ミサイルに情報を送ることもできる……なら、


「よし! 許可する! 先に行って皆を守ってくれ!」


「わかったー!」


 こうしてアラクネが実戦投入されることとなった。




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