第48話 魔族と妖異……感覚でわかるその違い

 護衛艦フワデラの艦砲射撃によって魔王軍は完全に壊滅。飛行ドローンで俯瞰すると、多くの魔族が敗走していく様子が確認できた。


 だが魔族軍の中には周りの状況を気に留める様子もなく、ゆっくりとリーコス村へと移動する者もいる。


 映像をズームアップして確認すると、そうした魔物は他の魔族軍の兵士と明らかに違和感を感じる。


「なんというか……気持ち悪い生き物? あれがとか言う連中なんだろうか?」


「ええ、おそらくあれらは妖異だと思われます」


 私と一緒にモニタを見ていたヴィルフォアッシュが断定する。私には魔物と妖異の違いが学術的な視点で判別することはできない。


 だが少なくともこの戦場にいるものたちについては、感覚で十分判断することができる。


 この世界の生態系はさっぱりわからないが、妖異というのは何となくわかる。


 逃走中の魔族には色々な種族がいるものの、何というか生物としての基本的デザインは私たちと共通しているように思える。


 進化樹の枝葉が分かれてしまっているために、形や生態が変わっているだけで、その根元は同じ生物なんだという感覚だ。


「それにしても、あの妖異というのは……異次元の怪物と言うか、宇宙人? 宇宙生物って言うか……もう全方位において違和感しかないな」


「そ、その感覚はた、正しい。わ、私たちもあ、あいつらを区別するのは、そ、その違和感がい、一番だ、大事」

 

 ヴィルミカーラがモニタに映っている妖異を指差しながら答えた。


 モニタには、一見人型に見える妖異が、肩から首先まで尖った感じの頭を揺らしながら街道を歩く姿が映し出されている。


 その脇を敗走するゴブリンやコボルトたちが駆け抜けていく。頭が尖った妖異は我関せずという感じで歩みを進める。


「妖異の中には知性を持つモノもあって、今回の魔族軍のように魔族や、時には人に協力するものもいます。ただ……」


 ヴィルフォアッシュが解説している途中で、映像の中で頭の尖った妖異がゴブリンを襲う姿を捉えていた。


 両手のように見える触手の先端が鋭利になって伸び、ゴブリンの頭を貫いた。


「えっ!? 魔族を殺した? 逃走したからか?」


「そうかもしれません。しかし、実際のところはわかりません。妖異は妖異の論理で動いているだけなのです。たまたま目的が一致して協力したところで、奴らは気の向くままに殺すのです。敵味方を問わず」


 そんなの危険すぎるだろ!


 モニタには妖異をゴブリンの遺体を貪り喰らう姿が映し出されていた。


 こんな恐ろしい連中を使うなんて、そうまでして人間と戦わなければならないどのような理由が魔族軍にあるのだろうか。


「魔族軍はどうして妖異と組むようになったんだ?」


 私の疑問にヴィルフォアッシュが少し考えてから答えた。


「本来であれば魔族も妖異を嫌っているはずなのです。妖異と戦うときであれば、魔族と人間も一時的に休戦して共闘するのが常でした。しかし……」


「ま、魔王候補者がゆ、行方不明になって、あ、悪魔勇者とな、名乗る奴が出て来てから、か、変わった」


 悪魔勇者については女神クエストでその名称を見たことがあるし、クエスト詳細やフワーデの解説である程度のことは知っている。


「悪魔勇者というのは、この世界の破滅を目論む国際テロリストみたいな奴だろ? 十二人の部下がいるんだよな?」


「国際テロリストというのがよくわかりませんが、まぁ一般的には悪魔と十二眷属として知られていますね」


「魔王候補者というのは?」


 ヴィルフォアッシュの説明によれば、この大陸では勇者によって倒された魔王が、長い年月を経て復活するという歴史のサイクルがあるらしい。


 具体的には、魔王討伐によってバラバラになった魔族が、魔族側の英雄の出現によって統合されていく過程のことを指すようだ。


「魔王候補者として東方出身の鬼人が王の証を授かっていたようです。だがその鬼人はある時を境に姿を消してしまいました。それは悪魔勇者が現れる時期と前後するのです」


「悪魔勇者に殺された?」


「あ、悪魔勇者に、こ、殺されたとか、せ、赤龍に敗れて喰われたとか……色々なう、噂があ、ある」


 魔王候補者の失踪理由はわからない。しかし魔王が誕生しなかった代わりに、悪魔勇者が魔族を率い始めた。


 悪魔勇者は彼に従う十二眷属だけではなく、多くの強力な妖異が付き従っており、恐怖を持って魔族を統一していく。


「それで、あんなグロい妖異が魔族軍の中に混じっているというわけか」


 CICのモニタに巨大なアメーバから突き出た槍のような触手が、傷ついて動けなくなっていたリザードマンの身体を貫いていた。


「魔族が可哀そうになってきましたよ」


 山形砲雷長がつぶやく。

 

 私もそんな気持ちになってきた。


「だが、あんな恐ろしい連中をリーコス村に入れるわけにはいかないな。ヘリで追加のドローンをリーコス村へ運んだ後、掃討戦を開始する!」


「了!」


「妖異は全て殲滅! 逃走する魔族軍はそのまま逃がし、降伏するものは拘束して村はずれの海岸に連行せよ」


「了!」


 こうして魔族軍掃討戦が開始された。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る