第29話 ミライの雇用
ミライを連れて街に戻った私たちはギルドへの報告を済ませた後、会議用の部屋を借りた。ミライの雇用について話をするためだ。
「お仕事をいただけるのでしたら、メイドでもポーターでもボディガードでもなんでもします! でもメイドが一番得意です!」
ミライは私の提案に勢いよく喰いついてきた。
「良いんですか艦長、また副長に叱られるんじゃないですか?」
南大尉が横やりを入れてくる。
「も、もちろん平野副長には相談するし? 今のはちょっとミライちゃんの意志を確認しただけだし? まだ何にも決めてないけど?」
私が若干震え声で南大尉に言い返すと、その言葉を聞いたミライの顔が曇る。
「そうですか……まだ雇って頂けるかは決まってなかったのですね」
ショボン……と音が聞こえてきそうなくらいミライの肩が落ちる。
「ちょ、ちょっと待って、大丈夫。大丈夫だから。はい! では今すぐミライちゃん雇用会議を開きます。出席者は、ここにいる全員とあと平野とフワーデ!」
部屋の窓を開いてフワーデの名前を口に出すと二台のドローンが音もなく入ってきた。それぞれのドローンからはフワーデと平野の声が聞こえてくる。
「はーい! フワーデ出席しまーす!」
「平野、出席します」
「あわわ! 魔法の盾が二つも」
ミライがドローンを指さして怯えていた。どうやら魔法の盾というのはドローンのことらしい。ミライが落ち着くのを待ってから私たちは会議を始めた。
私はミライの雇用が護衛艦フワデラの作戦目標に沿うものであることを強調する。
「現在、フワーデやリーコス村の協力によって補給と拠点確保については問題が解消されつつある。そうなると帝国への帰還と幼女となったものたちの回復に問題の焦点が移ってくる」
平野副長のドローンから音声が流れる。
「確かに、幼女のままで帰還するというわけにもいきませんが……幼女のままで良いのでは?」
「よくないよ?」
「よくないです!」
私と南大尉が即答で平野副長の提案を否定する。
「とにかく! 海賊フェルミから幼女化について知っている人物との接触する方法は聞いている。そのためには古大陸にいるロイド子爵という人物に会わねばならんのだ」
「ロイド子爵? ロイド子爵領のことでしたら、わたし行ったことがあります!」
ハイッ! ハイッ! とミライが自己アピールのために小さくぴょんぴょん飛びながら手を上げる。
「三カ月ほどギルドの酒場で働いてました!」
「さすが古大陸出身! さすコタ!」
「さすコタ!」
私と南大尉がミライの両脇に立ち、両手を扇のようにフリフリする。もう南大尉はこちら側だな。
「彼女は古大陸出身でしかも冒険者だ。我々がこの異世界で活動する上での一般常識を持っている。彼女を雇う十分な理由と思わないか?」
平野のドローンが軽く上下に振れる。同意の意味だろう。
「確かに艦長のおっしゃる通りですね。ただミライさんは私たちの状況を理解されているのでしょうか」
「それはそうだな」
私はミライに委細を説明する。
私たちが異世界から来た事。私を含め多くの乗組員が幼女に変えられてしまったこと。元に戻る方法が古大陸にあり、いずれそこに向うということ。
「カンチョーさんは本当は男の人だったのですか!?」
「あぁ、この南大尉もそうだぞ」
「小さな女の子にしては変わった話し方されるんだなって思ってましたけど……」
ミライが私と南大尉の姿をマジマジと観察する。
「まぁ、幼女は幼女だから可愛がっていいんだぞ」
「そう言って、幼女アピールしてセクハラしてきますから気を付けてくださいね」
「えぇ!?」
平野副長のドローンからよけいな音声が流れると、ミライが私から数歩後ずさった。
その後もしばらく会議は続き、結果としてミライの雇用が決まった。
「実は、古大陸に戻るお金を貯めようとお仕事を探していたんです。カンチョーさんの船に乗せて貰えるなんて、わたし超ツイてます!」
こうしてミライは艦長専属メイドとして護衛艦フワデラに乗艦することになったのだった。
「艦長、ミライには古大陸についての常識や作法について乗員への教育を担当して貰います。よろしいですね?」
「アッ……ハイ……」
こうして私の密かな野望は潰えたのだった。
「どうせ、自分専属のメイドにしようとか考えてましたよね?」
「エッ……ハ、ハイ、スミマセン」
~ フワーデの事後報告 ~
「あっ、タカツ……報告が遅くなっちゃったけど、えっとどうしようかな……船に戻ったら艦長室で話すね」
フワーデのドローンから囁くような小さい声が聞こえてきた。どうにもこの場では伝えにくいような内容らしい。
「んっ、わかった。なんだったら皆から少し離れた場所で話すか? それともやはり艦に戻った方がいいか? 」
「んーっと。ここで大丈夫かなぁ……いや……でも隣の部屋で盗み聞きしてるし……んー、やっぱり船がいいかなぁ」
「それなら一度艦に戻るとしよう。ボートの手配を頼む」
「んっ、わかった!」
こうして私は夜陰に紛れてボートでフワデラへと戻った。
私にしか話せないこと……
正直、嫌な予感しかしない。
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