第28話 メイド勧誘
他の三人も瞬く間にミライによって投げ飛ばされた。
「他にも隠れている人がいるみたいなので探してきます!」
「ちょ、ミライちゃん! 危ないから! 待ちなさい」
私が声を上げたときには既にミライは暗い森の中へ消えていた。
「南と坂上、ヴィルミカーラはミライちゃんが投げ飛ばした5人を拘束! 私とヴィルフォアッシュでミライちゃんの保護に向う」
「「了!」」
次に私は夜空に向って手を上げて叫ぶ。
「フワーーーデーーー!」
「ハァァイ!」
戦闘ドローンが私の頭上に現れる。
「ドローン4機出せるか?」
「すぐ近くに6機いるよー」
「では2機をここに残して、後はミライとヴィルフォアッシュと私に1台ずつ援護に付けてくれ」
「わかったー!」
既に私とヴィルフォアッシュの頭上にドローンが待機していた。もう一機が森の奥へ飛んでいく。
「それじゃフワーデ、ミライのところへ案内してくれ」
「わかった! それじゃいくよー!」
暗視ゴーグルを装着した後、私とヴィルフォアッシュはドローンの誘導でミライの下へ駈け出した。
~ メイド無双 ~
「メイド神拳 キッチンお掃除投げ!」
ミライを発見したとき、私たちが目にしたのは奇妙な掛け声と共に空中を回転する三人の男たちだった。
「お還りなさいませ! お還りなさいませ! お還りなさいませ!」
地面に投げ出された男たち一人ひとりのみぞおちに、ミライが素早い抜き手を入れていく。
「うげっ」
「ごはっ」
「ぐぼぁ」
男たちは身体を二つに折ってうずくまり、息をするのも苦しそうに咳き込んだ。
「うーん。リーコス村で見たような景色だ」
「そうですね」
私とヴィルフォアッシュは、ミライの戦闘力に唖然として立ち尽くしていた。
「あっ、カンチョーさんとヴィルフォアッシュさん!」
「お、おう。ミライちゃんは強いんだな」
私が若干引いているのに気付かないまま、ミライは顔を少し赤らめて恥じらって見せた。
「えへへ。母が第一突撃メイド部隊の隊長さんのお弟子さんだったので、私も同じ師匠に教わりました」
「ちょっと待って、脳の情報処理が追い付かん。と、とにかく凄いんだな。それだけはわかったよ」
「えへへ、いや~、凄いだなんて~、そんなことはないですよぉ~」
どうツッコめば良いのか困惑する私にフワーデが声を掛けてきた。
「タカツ! まだ森の中に8人いるけどどうするー?」
大人数を全て捕らえるのは大変なので、私はこの男たちを拘束して野営地点に戻ることにした。ドローンによる援護もミライちゃんがこれだけ強いなら不要だろう。
「ではフワーデ、ここのドローン3機を使って残り8人を脅して追っ払え。もし馬車でもあるならド派手に破壊してやれ。ただしお馬さんに傷をつけるなよ!」
「おっけー! 行ってくるー!」
どるるるん-! どるるんー!
ドローンから大音量でワーグナーの音楽が流れ始める。
ぱぱぱぱーぱ、ぱぱぱぱーぱ、ぱぱぱぱーぱー、ぱっぱぱー!
段々と音が遠ざかる。
しばらくするとドドーンという音と共に森はずれの一角が明るく輝いた。
私たちが3人の男を引きずって野営地に戻る間、森の暗がりに一瞬光が煌めき、続いてバババという音と共に人間の悲鳴が聞こえてくる。
「あ、あれってカンチョーさんの空飛ぶ眷属が火を吐くときの音ですよね……」
私たちの中で、ミライだけが男たちが遭遇しているであろう地獄を想像して怯えていた。
~ ミライのお願い ~
翌朝、乗り合い馬車が到着。御者に事情を説明する。御者はそれほど驚いた様子も見せず、拘束された8人をロープで馬車に繋ぐ。
「まぁ、時々あることでさぁ」
「そうなのか」
「ええ。こいつらを都兵に突き出しゃ、褒賞金もいくらか出ますよ」
私たちが馬車に乗り込むのを確認すると、御者はそのまま馬車を走らせた。当然、拘束された8人は小走りせざる得なくなる。
途中、8人がへばる度に御者は馬車を止め、8人を鞭打ちしていた。おかげで街に戻ったのは夕方近くになってしまった。
馬車で揺られている間、私たちはミライから色々な話を聞いていた。
「ご両親が拳法家なのか。見た目が細いのに強いのはそういう理由があったんだな」
「私はそれほど強くはないです。母なんて私と同じ年頃にはグレイベアを倒したと聞いています」
「「グレイベア!?」」
ヴィルフォアッシュとヴィルミカーラが目を開いて驚いていた。グレイベアがどんな生き物なのかは知らないけど、まぁクマなんだろう。ミライちゃんの年頃でクマに勝つなんて凄いな。
なんて思ってた時期がこの頃の私にはありました。
後日、フワーデが撮影したというグレイベアの映像を見たら、クマさんどころか恐ろしく巨大な怪獣だった。外星人が光線使うかフワデラの艦砲射撃で対応しなきゃならないような魔物だ。
「グ、グレイベアを倒すなんて……み、ミライは鬼人族なの?」
ヴィルミカーラが若干引き気味でミライに尋ねる。
「人間ですよ?」
「古大陸の人間というのは、そんなに強い者ばかりなのか?」
ヴィルフォアッシュもかなり引き気味で彼女に尋ねた。
「あっ、いえ。うちの母は特別だと思います。修行に没頭するあまり、天使から啓示を受けて妖異を狩りまくってたような人ですから」
「ヨウイ?」
またミライが情報過多な回答をしていたが、私はその中からピンポイントに知らない単語だけをピックアップすることにした。
「えっと、魔物より質の悪い、魔物からも魔物呼ばわりされるような化け物を古大陸では妖異と呼んでいます。確か、こっちでもそうだったんじゃないかな」
ミライの言葉を聞いて私の脳裏にあの海の化け物のことが浮かんだ。
この娘は古大陸について色々知っている。出身地だから当然と言えば当然だ。それに古大陸ではシルバークラス冒険者だったと言っていた。
それがどの程度のものかはわからないが、本人も自慢していたことだし中級以上と考えて良いだろう。そして本人は修行のための旅を続けているという。
そして何より美少女。美少女なのだ!
ならば!
「ミライちゃん!」
「はひぃ!?」
「私のところで働いてみないか?」
艦長専属メイドとして!
という本音は部下がいる手前、喉の奥に呑み込んだ。
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