第24話 ダンジョン第一階層

「それでは、改めましてミライです。よろしくお願します」


 そう言って何度も頭を下げるポーター少女の膝は少し震えていた。


「よろしくミライ……あなたのことは私が守るから安心して」

 

 普段から無口な坂上大尉が、わざわざそんなことを口にしてから私の方を見る。


「あぁ、俺もちゃんとミライちゃんのこと守ってやるから安心しな」と南大尉。


 少女に厳しい視線を向けていた白狼族の二人も今は優しい眼差しを向けている。


 んーっ? どうしてかなー?


 私一人と他のみんなでグループ分けされているような立ち位置。


 最初にミライを信用したのは私で、他のみんなは懐疑的じゃなかったっけ? なのにどうして今は、皆が私からミライをかばう構図になってるのかな?


「ドローンの銃撃を見せて少女を脅すなんてないわー! 超ないわー! とかみんな思ってるんじゃないかな?」


 と、ドローンからフワーデの声が響いてくる。


「CICの皆も同じ意見のようですね」


 と、ドローンから平野の声が聞こえてきた。


 ま、まぁ……こうして私が敢えて悪役に徹することで? ミライに対する皆の感情が良い方向に変わった?


 それなら問題ないな。胸の奥がチクチクするけど問題なし!


「ま、まぁ、とにかくよろしくミライちゃん!」


 私は超幼女スマイルを展開しつつミライに握手を求めて一歩近づいた。


「ひっ!?」


 ミライがズザザザザと後方へ一気に5mほど下がる。


「ごごごめんなさい。ちゃんと頑張ります。よろしくお願いします」


 どどどうやらミライの信頼を得ることができたようだ。

 

 だだだ大丈夫。

 

 「この人怖い」という信頼が「この幼女カワイイ」に代わるチャンスはまだきっとある。


 ……はず。




~ ダンジョン潜る ~


 私たちは乗り合い馬車を利用して初級ダンジョンへ向かった。


 到着後、少し休憩を挟んでからダンジョンに潜る。白狼族の二人だけではなくミライもダンジョン経験者だったこともあって、ダンジョン探索は思っていた以上にサクサク進んだ。


 これまでに遭遇したモンスターといえば大ネズミ。


 こちらの人数が多かったためか、大ネズミは遠巻きにこちらをじっと見つめているだけで、私たちが近づく様子を見せるとすぐに姿を消した。


「ここに仕掛がありますね。この石を動かすと隠し扉が開きます」


 そう言ってヴィルフォアッシュが壁から飛び出している石を押し込むと、壁が音を立てて動き、隠されていた部屋が露わになった。


「おぉ宝箱! ゲームみたいな宝箱がありますよ艦長!」


 南大尉が思わず飛び出そうとするのをヴィルフォアッシュが手で制する。


「得物を見つけたら、まず罠を警戒することです」


「で、ですよね。宝箱とくれば罠を警戒するべきでした」


 ヴィルフォアッシュに罠の確認と対策法を教わった南大尉が宝箱に近づく。宝箱には開けようとすると粉末が噴射されるトラップが仕掛けられていた。

 

 南大尉が罠を確認した後、ヴィルフォアッシュは短剣でわざと罠を作動させる。


 プシューッ!


 粉末が宝箱の隙間から噴出するが、身体の位置をずらしていた二人に掛ることはない。


「おぉ、トラップだ!」


 二人の様子を見ている私が呑気に声を上げる。


「これは小麦の粉ですが、二層以下や普通のダンジョンでは当然毒が仕込まれています。気を付けてください」


「わ、わかりました」


 と南大尉は、やや緊張した面持ちで答えた。


 宝箱に入っていたのは毒消草。初級ダンジョンの第一階層では、ベテラン冒険者が新人のために獲得した得物の一部を宝箱に入れておく慣習があるらしい。


「これって……要りませんよね」


「要らないな」


 ただ捨てても惜しくないものを置いていくのが殆ど。まず大したものが入っていないのは当然だった。私と南大尉が微妙な空気に包まれている間、ヴィルフォアッシュがいそいそと解除した罠を再び仕掛け直していた。


「初級ダンジョンの一階層では、解除した罠はこうして再び仕掛けなおしておくのがマナーです」


 こんな感じで私たちはダンジョンを進む。


 潜ってから1時間もしないうちに第二階層に降りる階段の前に到着してしまった。階段を前にヴィルフォアッシュがこの先に存在する危険について警告する。


「これより先には危険な魔物が徘徊しています。灯りもありません。罠もギルドが設置したものではなく、知恵のある魔物が私たちを害するために仕掛けたものです。心してください」


 それを聞いた私は全員の目を一通り見つめた。彼らの瞳の奥にすでに覚悟が定まっているのを確信する。


「よし、それでは……」


 皆の視線が私に集まる。


「これより昼食を取る!それから1時間のお昼寝休憩の後に二階層へ降りる!」


「「「「?」」」」


 南大尉以外は、いま私が言ったことを吞み込むことがなかなかできない様子だ。 南大尉だけは分かっているだろう。


 何せ同じ幼女だからな。


 いま私はお腹が超減ってきている。幼女なのでそれは我慢し難い状況だ。そして最近の私は昼食後にお昼寝タイムが必要になっている。何せ幼女だからな。


 というわけで……


「それでは昼食用意!」


「ひゃいっ!」


 私が号令を掛けるとミライが飛び上がって焚火の準備を始める。いそいそと働く彼女は私と目が合う度に何故かビクッと怯えていた。


 なんだろう……この悪者感。


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