第17話 内陸調査隊

 ヴィルミカーラから魔鉱石について詳しい話を聞くことにした。


 彼女は冒険者だった頃に、この大陸の北方にあるマルラーナリア地方を訪れたことがあるらしい。そこで魔鉱石採取のクエストを何度かこなしたことがあったそうだ。


「あ、あそこら辺は濃度の高い魔鉱石の産地としてゆゆ、有名なの……た、ただ……」


 ただ、その地域で魔鉱石が採れるマルラナ山脈は万年雪が吹く厳しい自然環境である。


 また強い魔物や妖異が数多く徘徊しているために、人が採掘できる場所は山脈の麓に限られているのだとか。


「じ、地元の伝説では、マルラナ山頂にま、魔鉱石で造られた古代の神殿があ、あるって云われてる」


「そんな伝説があるくらいだ。魔鉱石はそれなりに流通しているってことでいいのかな? 商取引が可能だろうか?」


「た、たぶんだ、大丈夫……で、でも私にはしょ、商人の伝手はない……」


「ありがとう。その辺の調査も含めて坂上の調査隊を編成することにしよう」


 それを聞いたヴィルミカーラがおどおどしつつ手を上げる。


「わ、わたしもい、一緒に行きたい。げ、現地のギルドを通せば商人を紹介してもらえ、えるかも……良い?」


「こちらからお願いしたいところだった。ぜひ参加して欲しい」


「む、村の恩人のお手伝い……う、うれ……嬉しい……うっ、フフフフフフ」


 ヴィルミカーラは普通に喜んでいるのだろうが、傍目からは魔女が悪だくみを思いついてほくそえんでいるかのようだった。


 まぁ、それでも私の目には可愛いとしか映らないない。なにせ今はこうして幼女をやっているが、私の中身はおっさんだからな。




~ 内陸調査隊 ~


 私と平野副長は護衛艦フワデラに戻り、調査隊を編成するための会議を開く。ヴィルミアーシェさんとヴィルミカーラも意見を聞くために乗艦してもらった。


 ヴィルミカーラによると、北方のマルラーナリア地方最大の都市ローエンは村から陸路で一カ月の旅程。途中で海路を使ったとしても二~三週間ほど掛るらしい。


 だがフワデラでならば原速でも二日と掛からないと航海長は見積もった。


「まぁ、途中に何事もなければって前提ですけどね」


 田中未希航海長(32歳独身)があからさまにフラグを立ててくるので、とりあえずそのフラグを折っておくことにする。


「ここは異世界だ。これまで以上に、常に戦闘が始まるかもしれないと警戒しておくべきだろう。慎重に行こう。往路は時間を掛けて測量を行いつつ、他の船からは隠れて進む」


 何しろ未知の海だ。いくら用心してもし過ぎるということはない。


「調査隊は現地状況の視察および魔鉱石についての情報収集。可能であれば魔鉱石の入手を目標とする。調査期間は10日。調査の結果を問わず、一度リーコス村に戻ることにしよう」


「調査隊の編成はどうされますか?」


 と平野が質問する。


「私と坂上大尉、それに南大尉。あと村からはヴィルミカーラと、現地に通じた人をもう一人……」


 私の視線を受けたヴィルミカーラが、


「で、ではヴィルフォアッシュという、も、元冒険者がい、います」


 というわけで調査隊5名が決定した。


「ちょっと待ってください。艦長が自ら調査隊に?」


「まぁ、平野が言いたいことはわかる。だが私のことは心配しなくていい。必ず戻ってくるさ」


「いえ、それは心配していないのですが、艦長と南大尉では5名中2人が幼女ということになってしまいますよ?」


「そっちかぁ~」


 だが私自身が行くという決定は変わらない。


 だって異世界の街なんてどうやっても見てみたいじゃないか。 




~ 村の広場 ~

 

 その後、各科長を集めての会議を行う。


 結果、護衛艦フワデラが調査に出向いている間、この村に居残る乗組員クルー30名の選抜が行なわれた。


 彼ら居残り組は、リーコス村で復興支援に当たりつつ、この世界における知識や慣習を学ぶ。


 銃器と弾薬は相当の量を置いていく予定だが、車両は帝国特別警備隊の要望で積んでいた73式小型トラック1台のみ。


 ブローニングM2重機関銃を積んでいるとは言え、ここは魔術があるような世界だ。再び海賊の襲撃があった際には心もとない。


「わかりましたん。そういうことでしたら、皆さんがお出かけしている間は、わたしがこの村と乗組員クルーの皆さんをお守りしますですん」


 【超魔法耐性】を持つ不破寺さんが村に残ってくれれば、魔術師による襲撃にも十分対応できるだろう。そもそも前回の海賊撃退は不破寺さん一人でやったようなものだし。


「艦の方は、ワタシがいるから大丈夫だよー!」


 いきなり目の前にフワーデが現れて自己アピールし始めた。


 もし魔術で艦内の乗組員クルーが眠らされたとしても、彼女ならドローンで襲撃者を撃退できるだろう。


「フワーデ、頼りにしてるぞ」


 私がフワーデの頭を撫でる仕草をすると、彼女はとても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


 そして――


 護衛艦フワデラは北方に進路を取る。




~ 個別面談:斎藤陽太機関士 ~


「スキル【何でも東京ドーム】?」


 私と平野は緊張でカチコチに固まっている斎藤に、やや圧を込めて問いかける。


「はい。どんなことでも東京ドームに例えると瞬時に答えがわかってしまいます」


 わかってる。


 東京ドームの面積より広い心で私は十分にこの現実を受け入れられる。斎藤が悪いのではない。


 こんな意味不明なスキルを付与した神様か悪魔だかが悪いのだ。彼には何も罪はない。


 だが……だがしかし……


「えっと、東京ドームの面積はA4の紙なら750,000枚分になります」


「へぇ……」


「これが畳になると約28,861畳ですね」


「ほぉ……」


「それでフワデラなら東京ドームには約183隻が……」


「身近な例えが出て来て一瞬、『おっ?』と思ってしまったが、やはりよくわからんな」


「えっ……みんなには大受けするんですが……やっぱり役に立たないスキルでしたか……」


 斎藤はシュンとなって肩を落としたまま退出していった。


「なんというか、微妙なスキルばかりだな」


「そうですね……」


 実はこの【何でも東京ドーム】というスキル。斎藤自身が知らないことでも東京ドームで例えると、それが正しく解釈できる場合、かなり正確に言い当てることができる超有能スキルであった。


 しかし、そのことが判明するのはずっと先のことである。


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