第21話 幼女たちの冒険者登録

 宿を確保した翌日、白狼族の二人の案内で冒険者ギルドへ出向く。


 ヴィルミカーラの勧めで、私たちも冒険者登録を行うことにした。冒険者登録しておけば、滞在中の活動に色々と幅が広がるからだ。


 さらにもうひとつの理由として――


「ここには初級ダンジョンがあるので、1日、潜ってみたいのです」


 とヴィルフォアッシュから提案があった。


「ダンジョンあるの!? さすが異世界! すっげぇー!」

 

 南大尉が目をキラキラさせて喜ぶ。


「なんだ南、お前はお子ちゃまだな。これはゲームじゃないんだぞ、落ち着け」


 そう言って南大尉を諭す私に坂上大尉がクールな視線を向ける。


「艦長も、両手を腰に手を当てて腰をフリフリするのは止めた方がよいかと」

「そうは言ってもな、ダンジョンだしな!」


 私はフリフリのフリ幅を大きくして腰を左右にクィックィッする。


「ですよね! ダンジョンですしね!」


 南大尉が私の動きにシンクロしてクィックィッし始める。


「か、かわ、可愛いぃぃぃ。鼻血出ちゃう……」

 

 ヴィルミカーラが鼻血を流しながら、私たちのクィックィッを見つめていた。


「……」


「……」


 坂上大尉とヴィルフォアッシュの二人はジト目のまま、私たちが飽きるのを辛抱強く待ち続けてくれた。




~ 冒険者ギルド ~


「はぁ、お二人はホビット族ですか……。えっと、確認ですが普通に小さな女の子ではないんですよね?」


 冒険者ギルドの受付嬢が不安げな視線を私と南大尉に向ける。


「もちろんだとも」

 

 私は視線を受付嬢に向けたまま南大尉の肩を叩く。


「彼……彼女などはホビット族の間でも歴戦の勇士。しかも魔法使いだ!」


「この子が魔法使い!? 」


 驚きのあまり受付嬢の瞳が大きく開かれた。


「あぁ、一昨年からな……」


「艦長!? 何言ってるんすか、俺はどどどど……」


 南大尉が慌て出す。


「違うのか?」


 そう言いながら私は坂上大尉をチラ見する。私の視線につられて南大尉が坂上大尉に目を向けた。きっと坂上大尉の背中に氷のオーラを見たに違いない。


「……違いません」


 南大尉がしょんぼり肩を落としながら答えると、坂上大尉の氷のオーラが消えた。目の前で繰り広げられる茶番に受付嬢が困惑しているので、私は彼女に声を掛ける。


「まぁ、見た目はこんなだが私たちもそれなりに戦える」


 そう言いながら私は身体を軽く左右に振って見せた。迷彩服で武装したこの姿は、この世界では異様に映るかもしれない。


 これで私たちが只者じゃないという感じを受付嬢に持ってもらえるとありがたい。


 ちなみに坂上大尉は装着した89式小銃を肩に下げている。私たち幼女組はストックを付けた改造9mm自動拳銃を吊るしているが、いずれも銃剣を装着しているので、なんとか短槍に見えなくもない。


「いやぁ、さすがにこんなガキが冒険者ってのは無理があり過ぎるだろ!」


 突然、背中にクレイモアを背負ったおっさんが現れて、私たちに近づいてきた。


 来た!


 初冒険者ギルドの定番、ウザ絡み来た!私はわくわくした。


「せめてゴブリンより背が高くなってからにしな、お嬢ちゃん」


 そう言って、ガタイの良いおっさんは南大尉の頭に手を乗せようとする。

 

 その瞬間。


「うがっ!」

 

 南大尉はおっさんの顔に銃床を打ち付けた。


 パシッ! パシッ!


 立て続けに、おっさんの内ももと股間を銃剣の側面で軽く叩く。


 ピタッ!


 思わず身をかがめたおっさんの目の前には、南大尉の銃剣が突き出されていた。


「あんたはゴブリンに油断してユーダイドする口か?」


 おっさんと受付嬢が固まっている。


 いいなー! 南! いいなー! それ私がやりたかったなー。


「ふっ、ふひっ、じ、実戦なら、身体にみ、3つ穴があい、開いてたね」


 ヴィルミカーラの言葉を聞いたおっさんの額から汗がツツーッと落ちる。


「み、見た目で油断した……わ、悪かったよ」


「まぁ、私たちは二人ともカワイイから仕方ない。次から気を付けてくれればいいさ」


 私が視線を送ると。南大尉はおっさんに向けていた銃剣を下ろした。


「受付の嬢ちゃん、こいつらは冒険者として登録しても大丈夫そうだ」


「そ、そうですか……それでは……」


 こうして私たちは無事に冒険者登録を済ませることができた。これで今後ローエンで冒険者として活動することができるようになったのだ。




~ 初級ダンジョン ~


「えっ、今から初級ダンジョンに?」


 受付嬢がまた驚いていた。


「そ、そう……。きょ、今日は1~2層をま、回るだけ。だ、ダンジョン初心者がい、いるからす、少し経験を積んでおきたい」


「そういうことでしたら……」


 ギルドが管理する初級ダンジョンは主に新人が経験を積むために維持されている。 基本的には最下層まで踏破済み。ダンジョン内の魔物は第四級相当以下になるよう調整されている。


 特に1層は完全にコントロールされているので魔物はゾンビと大ネズミしかいない。トラップも致命的なものは存在しない。また解除されたトラップは定期的にギルドがメンテナンスを行っている。


 ただ2層以降は魔物もトラップもそれなりに危険なものとなる。命の危険も生じるとの説明を受けた私はそこで眉を引き上げた。


「で、でも大丈夫。な、何かあったられ、レスキュー冒険者隊が救援、に、来る」


 ヴィルミカーラの言葉を受け、受付嬢が詳細を話してくれる。


「初級ダンジョンに潜る前には帰還予定日を申請していただきます。そこから2日以上過ぎて戻らない場合にはギルドからレスキューが派遣されることになります。もちろんそうなった場合、レスキューに掛る料金が請求されることになりますのでご注意ください」


「なんだか至れり尽くせりだな」


 そこまで手厚い安全管理がされていると、冒険というよりアトラクションみたいで、私はちょっと残念な気持ちになった。私の表情からモチベーションの低下を察したのか、受付嬢が励ますように言う。


「第2層以降の魔物から取れる素材はギルドの方で買い取らせていただきます。2層の魔物でも魔石とかお高めの素材が採れることがありますよ」


「魔石!?」


 名前からして魔力を含んでいそうな素材があることを知った私は、俄然やる気が出てきたのだった。


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