第20話 内陸調査隊の潜入

 港湾都市ローエン。


 護衛艦フワデラから都市が視認できる距離まで近づくと、フワーデの図鑑に同都市についての情報が開放された。


 図鑑によると、陸路・海路とも大陸の南北の中継点として古くから栄えてきたこの都市は、他大陸との交易を行なう大型船が出入りする大陸東側唯一の海外窓口になっているそうだ。


 この異世界で大陸間を渡るのは、複数国家を巻き込むプロジェクトのようだ。四年に一度のペースで大船団が別大陸へと渡っていく。その大船団に加わる多くの船が港湾都市ローエンに停泊していた。


 また物流の要でもあるこの湾岸都市は24時間年中無休で動き続けている。特に港周辺においては夜中でも煌々と明かりが灯され、人々の喧騒が途絶えることはない。


 それでも深夜となれば暗がりから秘密裏に上陸するのはたやすいことだ。


 いまも内陸調査隊の乗ったボートが音もなく港について、5つの人影が町の中へと消えていった。


「こちらロリコン1、全員上陸。これより内陸調査を開始する」

 

 私はインカムを使い、ローエン沖で待機しているフワデラへ通信を送った。フワーデが中継器を積んだドローンを複数飛ばすことで、通信は凡そ60kmまでカバーすることができる。


「了。内陸調査開始。フワーデ、戦闘ドローンを艦長たちに見せて」


 平野の指示を受けたフワーデがビシッと敬礼をする。


「わかった! タカツ、海の方を見て!」


 私が海の方に振り向くと、空中でチカチカと点滅する光を確認。音は静かで姿も見えないが、ライトの点滅でドローンの存在が確認できた。


「日中はボートと一緒に隠れてるから!」


 私たち内陸調査隊のバックアップに重火器で武装した精鋭チームが待機している。

 

 しかし私たちが危機的状況に陥った場合、真っ先に駆けつけるのはフワーデの操る機銃を積んだ戦闘ドローンだ。


「頼んだぞフワーデ」


「はーい!」


 ちょっと心配になる返事だったが、まぁ大丈夫だろう。




~ 宿屋 ~


 上陸したのは私(幼女)と坂上大尉、南大尉(幼女)、そして白狼族のヴィルミカーラとヴィルフォアッシュの五名。


「調査期間中の滞在先となる宿を急ぎ確保しよう」


 私がそう言うとヴィルミカーラが頷く。


「ま、前に、り、利用したことがあるや、宿に案内する」


 元冒険者である二人は、以前にもこの港町に訪れたことがあるらしい。彼らは少しも迷うことなく通りを進んで行く。


 その後を小走りで追いながらも、私は周囲にいる様々な種族に興味を奪われていた。 


 様々な国や別の大陸の種族が交差する港湾都市において、人間以外の種族の存在はそう珍しいものではないらしい。 


 確かに少し歩いただけでも、人間とは明らかに異なる種族が目に入ってくる。


 肌が緑だったり、坊主頭にシカのような角を生やしていたり、目がひとつだったり、人の形さえしていないようなのが普通に歩いているのだ。


「もし一人で転生してたら泣いてたかもしれん……」


 私がつぶやくのを聞いた南大尉(幼女)が同意する。


「確かに。ちょっと不気味なのは否めませんね……って、艦長! あっ、あれ!」


 そう言って南大尉が14時の方向を指さす。


 私が目を向けると、美しい妖艶なお姉さんたちが集まって客引きをしているのが見えた。全員が露出が多めで胸とか脚とかを際どいところまで露出している。


「これは……ええな!」


 と私(幼女)は鼻の下を伸ばすと南大尉(幼女)もうんうんと頷く。


「まことにええでs……いたいたいた痛い! さ、坂上やめろ! 頬っぺた千切れる!」


 坂上大尉に思い切り頬を抓られていた。


 男性乗組員やろうどもを巨乳派と貧乳派に分断する艦内二大クールビューティが平野と坂上である。


 どちらもクールでSな感じが男性乗組員やろうどものハートをガッチリと掴んで離さない。


 そんな坂上大尉に頬を抓られる南大尉のなんと羨ましいことか。痛がっているように見えて、実は喜んでいるんだろ?


 なぁ南!


「ちょっ、マジ千切れる、痛い! 痛いっつってんだろうが! この胸なし! 細目! 色白女!」


 声が本気で怒っているような気がする。


 が、二人は幼馴染だと聞いている。


 きっとそれだけ情が深いのだろう。


 騒ぐ私たちに注意が向いたのか、お姉さん集団のひとりが私に軽くウィンクをしてくれた。私は満面の笑顔でそれに答えるに止めておいた。


 凄く私の好みにドンピシャな美人だったのだが、私は躊躇せず先を急ぐ。


 それにしても――


「おっぱいが3つもあるのな……多ければ良いってわけでもないんだよな」


 私は振り返ることなく宿へ向かった。


「ふぁ、ふぁったくれす(まったくです)」


 両の頬を真っ赤に腫らした南大尉が私に同意した。それを聞いた坂上大尉が南大尉のお尻にガシッ! ガシッ! と蹴りを入れる。


「ひょ、おま、これ、ひょうじょひゃくたい(幼女虐待)! ひゃくたい!」


 南……お前、鈍感系主人公だったのか。


 それにしても愛されてるなぁ。


 宿に到着する頃になると南大尉だけがズタボロになっていた。ただ移動するだけでこの有様だ。まったくこの先が思いやられる。


 やれやれだぜ!

 

 私は外国人風に両手を上げながら、やれやれ系主人公になってみた。ここには平野もフワーデもいない。


 ……ので、私にツッコミを入れてくれるものは誰もいない。


 私の胸中を寂しく一陣の風が吹き抜けた。


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