第11話 新たな海賊

「えっと……艦長? ドローンの映像で状況を確認しますか?」


「いや……いいや。なんとなくわかるから」


 村の広場の中央には、昨日よりもさらにひどい怪我をした海賊と、新たに加わった五人の魔術師が拘束されていた。


 眠気に負けて意識を失う直前、我々は海賊によって危険な状況へ追い込まれると思っていた。


 しかし、いま私が見ている景色は私の予想とは全く異なるものだった。


 我々全員が無事だった。


 先程から目の前でフワーデが熱く語っている。


「ほんと凄かったよ! 不破寺ちゃんが、あっという間にローブの人たちをボコボコにしちゃったの! こうビューッて駆けて、ボコンって殴って、ピューッて走って! ガシン! ってそんな感じ!」


 フワーデは宙を漂いながら拳を振り上げたり、足を蹴り上げたりして、不破寺さんの活躍を私に伝えてくれる。


「そ、そうか。重ね重ね不破寺さんには助けられてばかりで……本来は私たちが守る側なのに面目ない」


「たまたまわたしに魔法が聞かなかっただけのことですん! お気になさらずですん!」


 私は不破寺さんの気遣いに感動し、彼女のおっぱいをぷにぷにしながら再度感謝の言葉を述べた。それにしても柔らかくて揉み心地が良い。


「不破寺ちゃんはね! 【超魔法耐性】のスキル持ちなんだよ! 魔法なんて彼女には全然効かないんだから!」


 フワーデの話を聞いたヴィルミアーシェさんが納得したように頷く。


「鬼人族の人々は高い魔法耐性を持っていると聞いたことがありますが、まさか複数の魔術師による魔法発動にも影響を受けないなんて、本当に驚きましたわ」


「これでも神社の娘ですからねん!」


 神社の娘スゲーな! 寺男さんクラスかよ!


 念のため海賊船の船長にこれ以上の伏兵はいないかどうか確認した。確認している間は、私の隣で不破寺さんに大太刀の手入れをしていただいた。


「ももももも、もういねぇ。俺たちの負けだ!」


「本当にぃ?」


 不破寺さんが素振りを始めると、素振りで生じた太刀風が船長の顔に吹き付けて髭が揺れる。


「本当だ! 神に誓って! 本当にほんとだ! 信じてくれ!」


 フワーデがこっそり耳打ちしてくる。


「一応、この人としては本当のことを言ってるみたい」


「そうか」


 とりあえずその日は何事も起こることはなかった。




 ~ 翌日 ~


 海賊の犠牲となった村人たちの葬儀が行われた。


 愛するものを失った者たちの中には、海賊たちに襲い掛かろうとするものもいた。


 だが臨時村長のヴィルミアーシェさんが彼らを説得しおさえつけて死者たちを静かに弔うよう言い聞かせた。


 復讐に燃える彼らがなんとか自分を抑えることができたのは、村の救世主でもある不破寺さんが葬儀に出席したことが大きかったと思う。


 不破寺さんは海賊の船長を遺族たちの前に転がして、葬儀の間中ずっとその頭を踏みつけていたのだ。


 ちなみに葬儀が始まる直前、不破寺さんは人間の頭と同じくらいの石を足で踏みつぶすパフォーマンスを海賊たちと遺族に見せている。


 ドゴンッ!

 

 石がくだけた瞬間、周囲を沈黙が支配した。


「悪いやつはこうですん」


 不破寺さんの鬼のような形相を見て――いや鬼なんだけど――海賊たちの中にはズボンを濡らしているものもいた。


 もちろん海賊の船長はびしょ濡れだった。


 正直、私もちびってしまった。


「イラっとすると足に力が入ってしまうかもしれませんねん」


 頭を踏みつけられていた海賊の船長はひたすら沈黙を守り続けた。遺族たちも目の前で人の頭が踏み潰される場面を見たいと思わなかったのだろう。


 結局、葬儀の間、沈黙を守る船長に対して罵声を浴びせる者もなく、葬儀は静かに執り行われた。




 ~ 数日後 ~


「艦長! 接近中の船舶あり。村に停泊中の海賊船と同型の船が二隻です」


 平野副長から連絡が入る。


「何? また海賊船が? それも二隻も!?」

 

 私は思わず声に出して叫んでしまう。それを聞いたヴィルミアーシェさんが驚いて私の方を見た。また独り言だと思われたのだろう。


「えっとね。この村にまた海賊船が近づいてきてるの。今度は二隻よ」


 それを聞いたヴィルミアーシェさんが、懐から複雑な刺繍が施された布を取り出してフワーデに見せた。


「精霊様、その船にはこの布と同じ紋様の旗が掲げられてはいませんでしょうか」


「ちょっと待って……うん。あるよ!」


「では、それは王国から派遣された正規の海賊です。問題ありません!」


「正規の海賊……私掠船のようなものかな」


 私はインカムを通じて平野に話しかける。


「おそらくそんなところでしょう。どうしますか艦長」


「艦はそのまま待機でいい。もし近づいてくるようならフワーデを交渉に派遣する」


「了!」


 新たな二隻の船は、停泊していた海賊船に接舷して臨検を始めた。同時に二隻のカッターボートが降ろされ、村に向って進んでくる。


「ボートの先頭で腕組んでふんぞり返ってるのが船長かな?」


「あの変な帽子、いかにも船長って感じですん」


 間もなく、そのいかにも海賊の船長という風体の女性が、部下たちを引き連れて村へやってきた。出迎えに向った臨時村長のヴィルミアーシェさんに女船長は大きな声を張り上げる。


「アタシは王国正規の海賊大船団を率いる女海賊フェルミ様だ! 責任者はどこにいる!」


 自分のことを「様」つけて呼ぶとは……。それに二隻で大船団とか……。ちょっと関わり合いになりたくないな。でも関わるしかないんだろうな。


 思わず私はため息をついた。


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