第10話 亜人の村

 犠牲者のご遺体は広場に集められた。


 村のあちこちで、愛するものたちの突然の死を嘆く嗚咽や叫びが聞こえてくる。


 海賊たちは拘束して村の広場にまとめさせた。


 その後、私は水陸機動幼女隊と共に上陸。


 幼女隊は9mm自動拳銃にハンドストックを装着し、これを小銃のように構えながら周囲を警戒していた。

 

「村長はどちらに?」


 私が声を掛けると、大柄の亜人女性が前に進み出てきた。


「父は……村長は先ほど海賊に殺されました。今は私が臨時の村長でヴィルミアーシェと申します。あなたが私たちを助けてくれた人々の長でしょうか?」


 よかった。異世界マジックが働いて言葉は通じるようだった。


「私は護衛艦フワデラの艦長で高津と申します。医療班を伴っておりますので、至急怪我人の治療を」


「あ、ありがとうございます!」


 ……などと村長と挨拶を交わしている間にも、医療用簡易テントの設営は完了しつつあった。

 

 私は臨時村長をじっくりと観察する。


 狼系の亜人なのだろうか。銀色に輝く長い髪の上には尖ったケモミミがひょこひょこ動いている。


 身長は平野よりやや高め。身長が高い分だけ驚異が胸囲的に大きかった。


 いかんいかん。思わず視線が胸に集中してしまった。


 ケモモミ巨乳美人など性癖にドストライク過ぎて頭が混乱してしまったようだ。


「艦長。奥様から通信が入っています」


「ひょへわっ!?」


 突然、インカムから平野の声が聞こえてきた。


「冗談です。しかし、艦長のインカムから送られてくる映像が女性の胸ばかりなのが気になりまして」


「あっ、あっ、あーっ、インカムの位置がズレてた、ズレてたわー!」


 臨時村長のヴィルミアーシェが私の方を見た。


「どうかされましたか?」


「あっ、いや、気にしないでくれ。それでこの海賊たちの処遇についてはどうすればいい?」


「この闇海賊たちの船が見えた時点で、王国への使いを走らせておりますので、一週間以内には王国海軍か正規の海賊が派遣されてくるかと思います」


「一週間!? もし私たちがここにいなければ……」


「王国海軍は無人の村で闇海賊たちの手がかりを捜索することになっていたでしょう。私たちも自分たちの復讐が果たされるよう、手がかりを残すための最大限の努力をしていたはずですわ」


「な、なるほど……」


「でも、そうする必要はなくなりました。みなさんのおかげです」


 そういって臨時村長は深々と頭を下げた。それから夜まで臨時村長と共に怪我人の治療と村の復旧作業に努めた。




 ~ 翌日 ~


 不破寺さんに抱っこしてもらって村を視察。隣には臨時村長が並んで歩いていた。


「それにしても不破寺流剣術というのは凄まじいの一言ですな」


 私は不破寺さんの肩より柔らかい処をポンポンと叩いて彼女の健闘を称える。


「ありがとうございますん!」


 臨時村長のヴィルミアーシェさんも先程から不破寺さんを褒めまくっていた。


「鬼人族の方を見るのは初めてですが、吟遊詩人の歌に伝え聞くより遥かにお強いのですね。おかげでこの村が消滅せずに済みました」


「ケモミミ族のみなさんのお役に立ててよかったですん。でも……お亡くなりになった方々には申し訳ないですん……」


「お心遣いに感謝を」


 私は二人の会話の区切りを見計らって割り込んだ。


「皆さんはケモミミ族と呼ばれている種族なのでしょうか?」


「いいえ。この大陸では私たちは白狼族と呼ばれています。ケモミミ族というのもかわいらしい響きで良いですね」


 我々が拘束された海賊たちの前で立ち止まると、目に怒りの炎を宿しながらヴィルミアーシェさんが闇海賊について語ってくれた。


「こいつら闇海賊は、海岸に近い村を襲っては村人たちを奴隷にし、他国へ売り飛ばすことを生業にしています。数が少ないため高値のつく白狼族は闇海賊にとって格好の獲物なのですわ」

 

 我々に気が付いた海賊たちが忌々し気にこちらを睨みつけてくる。


「そうした事情もあって、私たち白狼族は人や魔物から隠れるような場所に村を作る傾向があります。しかしそのせいで、今回のように襲撃を受けてしまうと、救援を呼んでも時間がかかってしまうのですわ」


「それにしてもケモミミ族の皆さんは相当強いのではないですかん? わたしの見たところでは、皆さんが普通の人間に後れを取るというのはちょっと信じられないですん」


「そうなのか?」


 私がヴィルミアーシェさんに尋ねると、彼女は軽く頷いて肯定する。


「白狼族はその強さから大陸の人間や魔物から恐れられている存在ではあります。ここにいる海賊たちだけなら、わたしたちにとっては何の驚異でもないのですが……」


 やはり見た目通りそこそこ強いのか……。


 それにしても何だか不破寺さんのおっぱいくっしょんが心地よいな。


「襲撃の……直前に……魔術……たち」


 ヴィルミアーシェさんの上半身がふらふらと揺れ始めた。気が付くと村中に紫色の煙が立ち込めている。


 気が付くと紫色の煙が立ち上る香炉を持ったローブ姿の人間たちが、村の中を何かをつぶやきながら歩いていた。


 気が付くと村の人間や乗組員クルーたちがみな地面に倒れていた。


「目覚めよ」


 ローブの一人が海賊たちに向けて手をかざす。すると先程まで眠りこけていた海賊たち全員が目を覚まして、海賊の船長が高笑いし始めた。


「ハハハハ! このマヌケ共が! 貴様らが魔術師たちに気づかなかったおかげで形勢逆転だ! 却って奴隷の収穫が増えたぜ!」


「なん……だ……と……」


 私は意識が遠のくのを何とかこらえようと頑張るが、眠気はどんどん強くなっていく。海賊たちが大笑いしている様子が耳に入ってくる。


 まずい……このまま眠ってしまったら……。


 とても……マズイ。

 

「スヤァ……」


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