第9話 対海賊戦
「艦長、こちらをご覧ください。長距離ドローンからの映像になります」
「艦内モニターに映せ」
モニターには、海岸沿いにある村の様子が映し出されていた。
「これは……」
村の各所から炎が上がっていることが確認できる。
「住宅のひとつを拡大してみてくれ」
拡大された映像からは不明瞭ながら複数の人影が移動していることが確認できた。
「焼き討ちにでもあっているのか?」
「もう一台のドローン映像がこちらです」
映像が切り替わる。そこには村の近くに停泊している船舶が映し出されていた。
「キャラック船かな……いかにも異世界らしい中世風の船ではあるが……」
映像を拡大すると村から船に向けて、人を乗せたボートが向かっているのが確認できた。
「どうにも嫌な予感しかしないんだが」
「海賊でしょうか」
平野が敢えて私が言わなかったことを口にする。フワーデが私の前をフワフワ漂いながら、
「ねぇねぇ、タカツ! どうする? どうするの!?」
としつこく何度も聞いてくる。
「むぅ……」
私個人の気持ちとしては、正義の味方として颯爽と救助に向いたい。しかし、乗組員の命を預かる立場として安易に判断することは
「艦長!」
艦橋に竜子を抱きかかえた不破寺さんが飛び込んできた。
「どうしました? 不破寺さん、今は緊急事態なので船室にお戻りください」
私を抱きかかえた平野が対応する。
「海賊たちが村を襲っているのですん!」
「な、なぜそれをご存じなのですか?」
「ワタシが映像を見せてあげたの」
「フワーデぇぇぇ!」
私は頭を抱えた。
「助けに行かないのですかん! 早くしないとたくさんの人が殺されてしまいますん!」
「いや、もう少し状況を見極めないことには……。下手に動くとこの世界の国を敵に回すことになるかもしれません」
「それなら、わたしはこの船を降りますですん! 今すぐ降ろしてくださいですん!」
「えっ……と?」
「わたしは民間人ですん! 帝国臣民としてわたしを直ちに自由にするようお願いしますですん!」
平野が「ピコーン!ひらめきました!」という顔になる。
「艦長、民間人である不破寺さんを安全に
そう言って平野がドヤ顔になった。航海長が平野の言葉に乗ってワル乗りする。
「そうですね。途中、危険があるといけませんから、民間人保護のためにもヘリでお送りしましょう」
みんなの視線が私に集まった。
他の
まぁ『民間人保護』という名目があれば、後で総司令部に報告する際の言い訳も立つだろう。
「そうだな。では民間人の不破寺さんをヘリで
「私にお任せください!」
「では坂上大尉、人選は君に任せる。もし民間人に危害が及ぶような事態になれば武器の使用を許可する。もちろんヘリの機銃もだ」
「了!」
こうして民間人を無事に安全地帯に送り届ける作戦が開始された。
~ 民間人移送 ~
ヘリには不破寺さん、坂上大尉、南大尉、他3名が搭乗して村に向かった。
ドローンを使った撮影により、現場の映像はリアルタイムで確認することができる。海賊船の甲板では、ヘリの存在に気が付いた連中が騒いでいる様子が見てとれた。
ヘリが村の広場上空に到着する。
ヘリに搭載しているカメラの映像に切り替えて村の状況を確認すると、女性に乱暴を働いていた男が、口をあんぐりと開いてヘリを見上げている様子が映し出された。
「では行ってきますん!」
「はっ? ちょっ! 不破寺さん!?」
坂上大尉の困惑する声がインカムを通じて聞こえてくる。
「坂上大尉、どうした?」
「不破寺さんが……飛び降りました」
「なっ!?」
カメラ映像には、不破寺さんが女性を襲っていた男を蹴り飛ばしている様子が映し出されていた。
男がサッカーボールのように高く吹っ飛び、家の壁に衝突してずり落ちる。生死については知りようもない。
そのまま不破寺さんは村を縦横無尽に駆け巡っていく。目につく端から海賊たちを次々と吹っ飛ばしていく映像がカメラから送られて来る。
村人を乗せた奴隷馬車を見つけた不破寺さんが、大きな太刀を抜き放ってその御者台に叩きつける。
御者台は木っ端みじんに砕けた。
そのまま荷台部分の檻の鍵を砕き割って中の村人を開放していく。
その頃になると、ヘリからの降下を終えた坂上大尉たちが村人たちを広場へ誘導し始めていた。
その間も、不破寺さんは次々と海賊たちを薙ぎ払っていく。
その存在とその脅威に気が付いた海賊たちが、ついに海賊船に戻ろうと桟橋に向って逃走し始める。不破寺さんは、次々と逃亡する海賊に追いついては彼らを行動不能にしていった。
一応は峰打ちしているように見えるが、どの海賊も足や腕が変な方向に曲がっている。
桟橋に到着すると不破寺さんは海賊のボートを奪取。そのままへこへことボートを漕いで海賊船へと向かい始める。
へこへこと言ったがボートのスピードは恐るべき速さだった。
艦内モニタで様子を見ている全員が、いま起こっていることを理解できず呆然としていた。
一方、不破寺さんの乗ったボートは海賊船までなんなく辿りつき、彼女はそのまま海賊船の中へ乗り込んでいく。
「ひ、平野……」
「艦長……」
「どうしよう……」
それから間もなく、海賊船から人がポンポンと海に放り出されていく様子が映し出された。
その身なりから推定するに海賊たちであることは間違いないだろう。海に落ちた彼らは船から離れようと必死で海岸に向って泳ぎ出していた。
船の船尾にある窓が破られてる様子が映し出されていた。
ドゴーン!
音声は聞こえなかったが、おそらくそんな音がしていたはずだ。
続いてそこから大きな男たちが次々に海へと投げ出されていく。
投げ出された男の一人は豪勢な身なりだった。たぶん船長だろう。
「ホント……中で何してるんだ不破寺さん」
続いて村人らしき男女や子供が次々と甲板に上がってきた。彼らは不破寺さんに向って何度も頭を下げていた。
彼らは不破寺さんの指示に従って次々とボートに乗り込み村へと戻っていく。
「平野……」
「はい、艦長……」
「もう、不破寺さん一人でいいんじゃないか?」
「……ですね」
艦橋のモニターには、海賊船の甲板上でヘリに向って手を大きく振る不破寺さんの姿が映し出されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます