第7話 魔力転換炉

 艦橋に現れた光る少女は、ネーミングセンスに定評のある平野副長によって「フワーデ」と呼ばれることになった。


 フワーデは銀色のストレートヘアを腰まで伸ばした少女。その瞳はグリーン色でうっすらと輝いているように見える。


 身体からうっすらと輝きを放ちながら漂う様子は、まるでホロアイドルっぽい。外見的な年齢は小学校高学年から中学生といったところだった。


「幼女な私からするとBBAだな」


 見た目6~9歳で統一されている幼女の代表として私は答えた。


「それじゃこれから艦長のパソコンの隠しフォルダを公開しまーす!」


「わかった。降参する。ごめんなさい。美しき女神フワーデさま、あなたの寛大な慈悲にすがらせてください」


 私は床に頭をつけて土下座する。


「謝罪を受け入れます。それにしても艦長は本当に駆逐艦が好きなのネ!」


「ハハァ……駆逐艦マジ天使です」


 フワーデが私の前に来てニッコリとほほ笑んだ。マジ天使な笑顔だった。


「それでフワーデ様のスキル【魔力転換炉】は具体的にはどんな働きをするのでしょうか」


 私は土下座しつつ尋ねる。


「えっとネー。ワタシが魔力を吸収するとその量に応じた燃料や電力に交換することができるよ!」


「「「おお!」」」


 艦橋にいた乗組員クルー全員が感嘆の声を上げる。


「それにしても魔力ですか……この世界には普遍的に存在するものなのでしょうか」


 平野がフワーデに質問する。


「うーん、それはワタシにもわからないけど、おそらく魔力と思われる力をみんなからも感じるよ」


「に、人間を魔力源にすると……」


「異世界あるあるだな」


 その場にいる乗組員クルー全員が一斉にドン引きする。


「ちょちょちょちょと待てくださーい! ワタシは皆さんから魔力を摂取したりしません! ワタシたちは……家族! そう! 家族みたいなものだから!」


 フワーデが焦った表情で乗組員クルーたちに訴える。


「でも、もし燃料が枯渇していよいよ飢えたら?」


「私たちを食べてしまうのでは……」


「イヤイヤイヤ、食べない! 食べないよ! そもそもワタシに実体はないんだよ? いわば2次元アイドルみたいなものなの!」


「でも、魔力を吸いつくして殺しちゃうんでしょ?」


「でもフワーデちゃんがサキュバスならオレ吸われてもいいかなぁ……」


「おい、今の発言は誰だ!?」


 私が立ち上がって周囲を見回すと、男性乗組員クルーたちは目を逸らして口笛を吹くマネをし始めた。


「そもそもワタシは乗組員クルーのみんなとも魔力を共有している状態なの」


「つ、つまり?」


「みんなから魔力を吸収してもワタシの魔力総量は変わらない。ただ共有はしているから、もしワタシが魔力をすべて消費し尽くすような事態になれば、みんなにも影響が出ちゃうかも?」


「ちなみに現在本艦にはドラゴン(幼女)を確保しているのだが、どんな感じ?」


「どんな感じって……そうね。魔力量はこの艦内で一番多いかなぁ」


「燃料にするとどれくらい?」


「艦長!」


 平野がマジかコイツという顔で私を見る。


「いやいや、あくまで目安というか基準を知るために聞いただけだから」


「本当ですか!?」


「ほんと、本当です!」


「ウーン。どれくらいの燃料や電力に変換できるかは実際に吸収してみないとわからないなぁ。吸収の程度を制御できるかもわからない。もしかしたら死ぬまで魔力を吸収しちゃうかも。というかそもそも人から吸収なんてしたくないシ!」


「そ、そうか……嫌なことを聞いてしまったな。悪かった」


「ち、ちなみにフワーデは【魔力転換炉】以外にスキルはないのか?」


「スキルとしてはないかな~」


「一応、どんなことができるのか知っておきたいんだが……」


「歌って踊れるよ?」


「はぁ?」


「甲板に皆を集めてくれたらワタシのライブを開催してあげる」


「いや、それはいらな……」


「開催したげる!」


「ヨ、ヨロシクオネガイシマス」


「艦長……」

 

 平野が氷のようなジト目を突き刺してくる。 


「やめて副長、そんなゴミを見るような目で見ないで! だいたい私は幼女なんだぞ! 見た目が年長組のフワーデに勝てる道理がなかろう!」


「そんな情けないことを胸を張って自慢されましても……」


 フワーデはふわふわと私の前に降りてくる。私の目をのぞき込んでニッコリと笑った。カワイイ。


「あと艦内ならどこにでも出没できるし、艦の外でも2kmくらいまでならギリ大丈夫。それに艦内の情報なら全部把握してる。みんなのステータスも見れるから、誰がどんなスキルを持ってるかも知ってるよ」


「マジか」


「マジダヨ!」


「それじゃ、今日の平野のおパンツとかも?」


「わかるよ! えっとね……黒のね……」


 私がヒソヒソ声で尋ねると、フワーデが耳元でコソコソ答え……


「痛たたたたたたた、ぐりぐりやめて! 梅干しやめて!」


「聞こえてますから」


 平野の梅干しが私のこめかみを急襲する。


「今後、もし乗組員クルーの個人情報を不必要に収集していることが判明した場合、奥様にすべて報告します。あることないこと含めて報告します」


「うひぃぃぃ。わ、わかった、わかりましたぁぁぁ」

 

 私は再び土下座して、床に額をこすりつけた。


 帝国海軍広しといえど、私ほど土下座をしている艦長はいないだろう。


 もちろん自慢ではない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る