第6話 護衛艦の精霊
「えっと、不破寺さんでよろしかったですか?」
私の問いかけに、鬼族の少女が目をまっすぐに見つめて答える。
「はいですん。わたくし不破寺真九郎と申しますん」
女の子なのに真九郎とは変わった名前だな、と余計なことを考えていると、つい視線が不破寺さんの大きなおっぱいに戻ってしまう。
「艦長さん」
「あっ、はい! ごめんなさい」
不破寺さんが首を小さく傾げた。どうして謝られたのかわからなかったようでなによりだ。
「兵士の皆さんが、幼女にされてしまったそうですねん。
わたくしこれでも不破寺流剣術の免許皆伝。太刀を振るえば、少しは皆さんのお役に立てるのではと思ったのですん」
「剣術……剣術ですか……」
補給できない弾薬が貴重なものとなった現在では、確かに彼女の剣術も戦力として役立つかもしれなかった。とはいえ……
「民間人の、しかも女の子に戦わせるというのは……」
「ご心配なくですん。自分の得物はちゃんと用意してありますですん」
そういって彼女が手に持っていた長い袋を紐解くと、中からほぼ彼女の背丈と同じくらいの大太刀が現れた。
「誰だ!? 艦内に武器の持ち込みを許したのは!?」
「えっ、いや、神事で使うものと聞いてましたので……」
平野が慌てて答える。
お前か!
「不破寺さん、申し訳ないがそれはこちらで預からせていただく」
「構いませんですよん」
私は食堂内にいた
「「ぬおっ!? 重い!」」
大の男二人が大太刀を抱えたまま片膝を付いた。
「大丈夫ですかん?」
大太刀を抱えてプルプル震えている二人から、不破寺さんが片手で軽く太刀を取り上げる。
「人間の皆さんにはちょっと重かったようですねん」
「マジか……」
「マジですん」
鬼族の
だが、それを目の当たりにするのは初めてだ。というか帝国においても鬼人の数はそう多くない。
鬼人を見るのは不破寺神社の神職だけだったし、これまでは
「わかった。不破寺さんの力を頼りにするとしよう。ただその武器はしっかりと管理するようお願いする」
「ありがとうございますですん。同じ帝国臣民として皆さんのお役に立てるのがとても嬉しいですん」
「そ、そうですか……」
私は不破寺さんを信頼することにした。今は異世界にいる同胞。彼女が民間人であろうと協力は仰ぐべきだろう。
だが同時に不安にもなった。いくら鬼の力を持っているとは言え、不破寺さんはまだ少女なのだ。
「くふふ。異世界でも不破寺流剣術が通用するかどうか腕がなりますねん。もしかしたらこの世界に不破寺流を広められるかもしれないですん。そうなればわたしが始祖ということに……くくく」
不破寺さんが何かつぶやいていたようだが、私は聞かなかったことにした。
「艦長ぉぉぉぉぉぉ!」
草壁医官が血相を変えて飛び込んできた。
「どうしたイケメン草壁、イケメンが台無しだぞ」
「スキルって叫んでみてください」
「スキル」
「いや、もっと気持ちを込めて、本気で!」
「スキル!」
「もっと熱くなれよぉぉぉ!」
「スキルゥゥゥ!」
私はノリの良い艦長なのである。
とはいえ、この状況下で草壁がどうしてふざけているのか問いただそうとした――そのとき――
視界にコンソールが出現しメッセージが表示された。
名前:
Lv:35
年齢:41歳
職業:幼女
体力:12
腕力:10
魔力:12
器用:10
信仰:10
加護:なし
スキル: 【幼女の願い】
「なんだこれは?」
「今、艦長が見ているのと同じものが他のクルーたちにも見えているようです」
「君も?」
「わたしもです!」
「それにしても年齢41歳で、職業が幼女というのは一体どういうことだ?」
「他人のものは見えないのでわかりませんが、そんな風に表示されているのですか……」
平野にはどんな表示がされているのか確認しようとしたところで艦内放送が流れる。
「艦長! 至急、艦橋へお戻りください!」
平野は竜子を女性
ぼんやりと光り輝く少女がふわふわと宙に浮いていたからだ。
銀色の髪は前髪パッツンの腰までロング。パッと見たところ小学校高学年から中学一年生といったところだが、女性らしい部分はそれなりの成長を遂げている。
「な、なんだこれは?」
ぼんやりと光り輝く少女は、私を認めるとふわふわと漂いながら近づいてきた。
「アナタガカンチョウ……タカツ……」
「その通りだが、君は誰なんだ?」
「ワタシ……ワタシハゴエイカンふ破寺……この船の……精霊? 思念体?」
「どうして疑問形なんだ?」
「タカツに正確に伝える言葉が見つからない……ワタシのフレーバーテキストを見て……」
そういうと、光の少女は額を私の額にくっつけて「スキル」とつぶやいた。
護衛艦フワデラ
Lv:105
年齢:[検閲]歳
職業:ミサイル護衛艦
護衛艦スキル: 【魔力転換炉】
帝国防衛の要として建造されたイージスシステムAWS搭載ミサイル護衛艦。異世界転移の際に発生する能力変異によって不思議な力を授かる。そのひとつが少女の姿をとった超カワイイ精神体の顕現。彼女を大事にするとたくさん良いことがあるよ! もうひとつがスキル【魔力転換炉】。魔力を持ったモノを入れると燃料を生成したり、電気に変換することができるよ! でも生き物を入れちゃだめだからね!
「な、なるほどぉ……」
私の反応を期待して目をキラキラさせている光る少女には申し訳ないが、私は特にそれ以上の感想を抱くことはなかった。
どうせまた面倒くさいことになるんだろ?
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